流行時期(いつ流行った?)
リリィさんの「私は泣いています」は、昭和49年(1974年)にヒットしました。
3月に発売されたレコードは、6月に最高順位となっています。
<『レコードマンスリー』歌謡曲・月間ランキング推移>
年月 | 順位 |
昭和49年03月 | 19位 |
昭和49年04月 | 15位 |
昭和49年05月 | 4位 |
昭和49年06月 | 3位 |
昭和49年07月 | 7位 |
昭和49年08月 | 27位 |
注)りりィ - トピックの動画
主人公の感情をダイレクトに暴露
流行歌の歌詞は、"主人公の心情を遠回しに描く"という暗黙のルールが存在すると思います。
悲しければ卒業や死別で別れが悲しい、楽しければ恋人と過ごすこの瞬間が楽しい、といったように背景が描かれます。
従来の考え方であれば、「私は泣いています」は"涙する背景"が綴られるはずですが、着飾ることなく、泣いている描写から始まります。
「よこはま・たそがれ」(1971)は冒頭にキーワードを並べて、聴き手に歌の主題を連想させる画期的なテクニックです。
対して、冒頭から何度も繰り返され、タイトルにもなっている「私は泣いています」は直接訴えかける表現です。
そのため、「聴き手に受け入れられるかどうか?」がきわどい手法と思いますが、斬新な作詞法と感じます。
この表現を用いる事で、聴き手に「リアルタイムで悲しんでいる心情」を伝える事が可能になっていると感じます。
現在で聴いても色あせていない歌詞と感じます。「歌の主人公は、今とても悲しんでいる。」と感じる事が出来ます。
感情移入しやすい作品にもなっていると感じます。
恋人に別れを告げられ、気持ちの整理も出来ていない感情を見事に切り取った歌詞であると感じます。
未練が歌われ始めた1970年代中ごろ
元恋人に対する未練を歌う作品は、大人向けのジャンルである歌謡曲で登場しやすいです。
若者向けのポップスがヒット曲の主流となり始めたのは1971年です。この年の別れを主題とする作品には「花嫁」や「また逢う日まで」、「さらば恋人」のように、どちらかというと"気持ちに前向きさを感じる決別"として描かれる印象があります。
そして「私は泣いています」がヒットする頃は、若い世代の音楽でも歌謡曲と同じように、未練・涙を伴う湿っぽさを帯びた別れが歌われ始めます。
これは決して後退しているのではなく、本来求められる普遍的な感情表現が支持され始めただけであると解釈しています。
現在でも、過去の思い出に傷がうずくような心理を歌うポップスは主流と感じています。
しかし「私は泣いています」のように、"単刀直入に自身の心情を訴える作品"まで登場した事は興味深いです。
「うっせえわ」(2021)が同じタイプに該当するのかも知れませんが、他の年代ではこういったタイプの作品はあまり思いつきません。
「私は泣いています」は、後世に語り継がれるオイルショックの頃にヒットしています。
戦後復興から経済成長を歩んできた日本にとって、現在のコロナ禍と同じくらいの価値観の変化が生じた時代だったのかも知れません。
曲情報
発売元:東芝EMI株式会社
品番:ETP-2985
A面
「私は泣いています」
英題:I am crying
作詩・作曲:リリィ
編曲:木田高介
演奏時間:3分21秒
B面
「皮肉」
英題:Sarcastic remark
作詩・作曲:リリィ
編曲:木田高介
演奏時間:2分47秒
製作部福川グループ/プロデューサー:寺本幸司(モス・ファミリー)
ディレクター:武藤敏史
エンジニア:村田研治
フォトグラフィー:田村仁
参考資料
「私は泣いています」レコードジャケット
『レコード・マンスリー』日本レコード振興株式会社
『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン