戦争の非常時に支持されたB面ヒット曲
灰田勝彦さんの「燦めく星座(きらめくせいざ)」は昭和15年(1940年)1月1日に発売されました。
A面が「青春グラウンド」、B面が「燦めく星座」です。
同年に公開された正月興行の映画『秀子の応援団長』の主題歌です。
本格的な野球映画として製作された作品で日本野球連盟の協力も得ていたようです。
灰田さんは映画にも出演されています。
注)灰田勝彦 - トピックの動画
灰田さんは野球好きで、映画の撮影もゴキゲンだったようです。(『日本の流行歌』上山敬三)
楽曲製作にほとんど時間がなかった?
タイトルの「きらめく」は「燦めく」に変換できません。
珍しい当て字のタイトルですが、前1939年に連載小説が原作の映画『燦めく星座』が公開されています。
『秀子の応援団長』とは無関係の作品でヒットしなかったようです。
「作詞された佐伯孝夫さんはこのタイトルを拝借して詞を書き下ろした?」とか「もともとその映画用に作詞をしていたものを転用した?」と色々想像してしまいます。
・・・「卒業」や「さくら」という同名異曲が似た時期にヒットした事例はありますが、「それと同じで、たまたま『燦めく星座』も同時期に」は偶然すぎると思っています。
そして、映画主題歌ながら面白いエピソードも残っています。
ところがこんどは、私がミスをしていたことに気がついた。「青春グラウンド」は音楽監督でもあった佐々木氏にまかせてあったからいいとして、歌の製作に夢中になって「燦めく星座」を映画の中に入れることを忘れていた。(『日本の流行歌』上川敬三)
映画も曲も製作時間に余裕が無く、かなり慌ただしい現場だったのだろうと想像します。
メロディでも製作時間の少なさを感じる点があります。
「燦めく星座」は冒頭の2小節のテーマ(下図)が曲中に何度も繰り返されます。
※『全音歌謡曲大全集1』全音楽譜出版社より
上記のメロディに色々変化を加えながら1つの作品に仕上げられた「燦めく星座」。
この作曲技法をなんと呼ぶのかは分かりませんが、音楽を知らない私でも聴いていて分かりやすさを感じます。
「映画主題歌にしてはシンプルな作曲では?」と感じますが、【1つの曲の中で似たメロディが何度も登場する事】が映画を視聴された方々の耳に残りやすかったのかも知れません。
発売から3年経過しても人気があった?
戦時下でのヒットの記録は見つけられておりませんが、「燦めく星座」は長期化する非常時に息長く支持を得続けていたようです。
まだ本格的な本土空襲が始まっていない太平洋戦争期の1943年、軍国的な歌詞に改定された盤が発売された事が理由です。
<従来の「燦めく星座」歌詞>
男純情の愛の星の色 冴えて夜空にたゞ一つ あふれる想ひ 春を呼んでは夢みては うれしく輝くよ 思ひ込んだら命がけ 男のこゝろ 燃える希望だ憧れだ 燦めく金の星。 何故に流れくる熱い涙やら これが若さといふものさ 楽しぢゃないか 強い額に星の色 うつして歌はうよ 生きる命は一筋に 男のこゝろ 燃える希望だ憧れだ 燦めく金の星。 (【中古】SP盤用歌詞カードのみ 燦めく星座 灰田勝彦 青春グラウンド 灰田勝彦 4Pの落札情報詳細 - Yahoo!オークション落札価格検索 オークフリー (aucfree.com))
<改訂版「燦めく星座」歌詞>
男純情の聖い星の色 冴えて夜空にたゞ一つ あふれる想ひ 若い世紀のよろこびを 讃えて輝くよ 思ひ込んだら、命がけ 男のこゝろ 燃える希望だ憧れだ 燦めく金の星。 雨の降る夜も星は消えやせぬ 雲のかなたで僕を呼ぶ 楽しぢゃないか 強い額に星の色 うつして歌はうよ 國に捧げて、一筋に 男のこゝろ 燃える希望だ憧れだ 燦めく金の星。 (SP-F52■灰田勝彦 燦めく星座 ジャワの月夜 歌詞カード付■の落札情報詳細 - Yahoo!オークション落札価格検索 オークフリー (aucfree.com))※参考画像の解像度が低いので間違えている可能性があります。
【発売から3年後に歌詞の改定盤が発売された事】はとても興味深いです。
「燦めく星座」が多くの人たちに浸透しており、3年経っても広く歌われていた事を裏付けているように感じます。
レコードを生産するための材料不足、ぜいたく品扱いによる重い物品税が存在した時代です。
新曲が発売される機会が減った背景も「燦めく星座」が長期間支持された理由?と想像します。
3年後に圧力をかけた軍部も不思議ですが、「戦局が悪化しているなか、レコードの材料も不足しているので新しい軍歌を作る事は難しい」という事情があったと思います。
「・・・そうだ!世間に浸透している流行歌に難癖を付けて、軍国的な歌詞に改編させた方が安上がりだ!」と流行歌の利用を企んだのだろうと察します。
終戦後も「燦めく星座」はヒット盤
ビクターさんは本土空襲で自社のレコード生産工場が大きな被害を受けました。
そのため終戦後にレコードを発売し始めた頃は、コロムビアさんの工場を借りてプレスしていたというエピソードがあります。
その頃にプレスされた第一号が「燦めく星座」(品番:V-40001)です。
歌詞も改訂版から元通りです♪
戦後に発売された「燦めく星座」は、1948年までの3年間で20万枚売り上げた記録が残っています。(『平凡4(9)』マガジンハウス)
戦中戦後、多くの人たちから愛され続けた流行歌と感じます。
参考文献
『日本の流行歌<歌でつづる大正・昭和>』上山敬三 早川書房
『全音歌謡曲大全集1』全音楽譜出版社
『平凡 4(9)』マガジンハウス
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