古賀メロディーの初ヒット曲?
古賀政男(こがまさお)さんが作曲された、藤山一郎さんの「酒は涙か溜息か」(さけはなみだかためいきか)は、昭和6年(1931年)に発売されました。
翌年に発売された「影を慕いて」(かげをしたいて)と合わせて、古賀メロディーの代表作として語られる作品です。
私は、"古賀メロディー=古賀政男さんが作曲されたすべての曲"ではないと考えています。
この年、「キャンプ小唄」が先に発売されていますが、「酒は涙か溜息か」を聴いて感じられる音楽表現が古賀メロディーである、と考えています。
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古賀メロディーとは?
「酒は涙か溜息か」は1931年の作品なので、今の時代にこの曲を聴いて「スゴい!」と感じられる方はおられないと思います。
「・・・何がスゴいの?」と感じられる事と思います。
この作品のスゴい点は、藤山一郎さんの歌唱法でクルーナー唱法(クルーン唱法)が採用されている事です。
録音技術が進歩した事で誕生した、"わざと控えめに、つぶやくように歌唱するテクニック"です。
小さな音もマイクが拾えるようになった事で編み出された歌唱法ですが、オーケストラの伴奏が不釣り合いになってしまいます。
「ボーカルより目立たないように、編曲しなければならない。」、必然的に少ない楽器での伴奏になると思いますが、古賀政男さんは弦楽器のみで編成されています。
古賀メロディーは、当時存在していた流しのような、素朴な音楽表現に近いのだろうと感じます。今で言う弾き語りのルーツになるスタイル?と解釈しています。
流行歌の常識を変えた歌い方
つぶやくような歌唱法は、レコードが誕生した頃に活躍された方々の作品とは正反対の歌い方です。
流行歌手第一世代には、藤原義江(ふじわらよしえ)さんや佐藤千夜子(さとうちよこ)さん、二村定一(ふたむらていいち)さんがおられます。西洋の声楽を学ばれた方々が活躍されています。
作品を聴くと声量が豊かであると感じます。”口を大きく開き、はっきりと発声する歌唱法”で歌われていると感じます。腹式呼吸というのでしょうか。
この発声法は、古賀政男さん作曲の「キャンプ小唄」でも感じる事が出来ます。
おそらく、「録音される音楽は、きちんと聞き取れる音でなければならない。」という価値観から、「レコード吹き込みでの歌い方」として誰も疑問を持たないくらい当たり前だったのだと感じます。
「酒は泪か溜息か」のヒットは、「飾り気のない音楽でも、レコード流行歌として成立する」という事を証明したようで、同業他社の方々も驚かれたと想像します。
パーロフォンさんは、この作品を模倣したかのような「片瀬波」(1932年発売)を製作されています。
また、小唄勝太郎さんの出世作である「島の娘」(1933年発売)も、声にか細さを感じるため、クルーナー唱法を意識されている印象を受けます。
ヒット曲のその後
美空ひばりさんの「悲しい酒」(1966)は、古賀政男さんが「戦後版の『酒は涙か溜息か』を作詞してほしい。」と石本美由紀さんに依頼された事がきっかけで製作されたようです。
確かに、この曲で描かれる心情を引き継いだ作詞であると感じます(^^)/♪
曲情報
発売元:日本コロムビア
品番:26486
A面
「酒は涙か溜息か」
作詞:高橋掬太郎
作曲:古賀政男
編曲:古賀政男
歌唱:藤山一郎
ヴァイオリン・セロ・ギター・ウクレレ
B面
「私此頃憂鬱よ」
作詞:高橋掬太郎
作曲:古賀政男
編曲:古賀政男
歌唱:淡谷のり子
明治マンドリンオーケストラ
参考資料
「想い出の戦前・戦中歌謡大全集3」CD
『日本流行歌史(上)1868~1937』社会思想社
『SPレコード60,000曲総目録』昭和館 アテネ書房
『歌謡曲おもしろこぼれ話』長田暁二 教養文庫
『季刊 SPレコード誌 Vol.4~5号≪通算35号≫』アナログ・ルネッサンス・クラブ