流行時期(いつ流行った?)
畠山みどりさんの「ちょうど時間となりました」は、昭和38年(1963年)にヒットしました。
『ミュージック・マンスリー』に掲載されている「今月のベスト・セラーズ」のランキング推移は下記の通りです。
年月 | 順位 |
昭和38年01月 | 16位 |
昭和38年02月 | 11位 |
昭和38年03月 | 18位 |
畠山みどりさんにとっては「恋は神代の昔から」と「出世街道」の合間にヒットした作品です。
ランキングの順位を考慮するとヒットの規模が小さく感じますが、先にあげた2曲のヒットで人気が急上昇しているため、テレビ等で割と広まった作品ではないかと思います。
Hataketama Midori - Wa Iimashita ( 畠山みどり ) AL416
注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 Nippon Columbia Co., Ltd.(COLUMBIA の代理); Muserk Rights Management
浪曲ブームで浸透したフレーズ?
歌詞は4番まであり、最後に必ず「ちょうど時間となりました」というフレーズが入ります。
それぞれの番号で話の続きがあるのに、途中から”なにがなにして…”と、はぐらかして次の物語へ移ります。
初めて聴いた時はタイトルのフレーズの意味が分かりませんでした。調べていても、コレかな?という資料が見つけられません。
どうも浪曲や落語には、寄席やテレビで決められた出演時間に収まりきらない演目があり、「今日は時間がなくなりましたので、次の日の公演で続きを行います。」という意味のようです。
もしかすると、話が続かない場合でも、漫才で言う「もうええわ」のように題目の終わりを示す常套句となっていたかも知れません。
最近は見聞きする機会がほとんど失われた言葉です。
1960年代初めは、レコード音楽でも歌謡曲ではない歌謡浪曲がヒットしています。おそらく現在よりも視聴する機会が多かった浪曲をきっかけに、"どういう時に用いられる言葉であるか?"が多くの人たちに浸透していたように思われます。
難ありの男性主人公?
「ちょうど時間となりました」は、浪曲のスタイルを模倣したパロディ作品と考えられます。ユーモアを備えた歌詞は「恋は神代の昔から」の雰囲気を踏襲していると感じます。
有名な歌舞伎の演目や小説等の男性主人公が次々と登場しますが、印象的なシーンを切り取って、まるで主人公がひどい人物であるように描いています。
1番は、お富さんにゆすりたかりを行う与三郎さん
2番は、民謡「会津磐梯山」で歌われる朝寝朝酒をする庄助さん
4番は、小説『金色夜叉』で、お宮さんを下駄で蹴る貫一さん
3番だけ凝っており、白井権八を幡随院長兵衛が呼び止める鈴ヶ森の場面が歌われています。歌舞伎が題材ですが、登場人物の事を冗談っぽくマダムキラーと例えています。
有名な「待てとおとどめなされしは・・・」というセリフが出るタイミングで、「ちょうど時間となりました」となってしまいます…(>_<)。
脅迫・怠惰・暴力と、有名作品での道徳心の無い行為を切り取り、面白半分に描いていますが、最も印象的なのは4番の歌詞です。
「明治で良かったですね。今の時代に同じ事をしたらすごく批判が集まりますよ。」と、昭和時代の常識で感想を述べているからです。
今で言うと、電車で煙草が吸えたり、体罰がそれほど問題視されなかったり位しか思いつきませんが、明治→昭和、昭和→令和に入れ替えても通用しそうです。
楽曲分析
バンドプロデューサー5の分析では、「ちょうど時間となりました」はE♭メジャー(変ホ長調)です。
楽譜が手に入らなかったため音階は分かりません。
曲情報
1963年 年間40位(邦楽)
レコード
発売元:コロムビアレコード
品番:SA-975
A面
「ちょうど時間となりました」
英題:CHODO JIKAN TO NARIMASHITA
作詩:星野哲郎
作曲:市川昭介
演奏時間:3分58秒
三味線 豊寿・豊静
コロムビア・オーケストラ
B面
「さわらぬ神にたたりなし」
英題:SAWARANU KAMI NI TATARINASHI
作詩:星野哲郎
作曲:市川昭介
演奏時間:2分55秒
コロムビア・オーケストラ
参考資料
「ちょうど時間となりました」レコードジャケット
『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社
「バンドプロデューサー5」