ヒット曲けんきゅうしつ

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「からたち日記」島倉千代子(昭和33年発売)

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実はとてもスゴイ曲?

 島倉千代子さんの「からたち日記」は昭和33年(1958年)に発売されました。

 

 SP盤のレコードには「58.10」と印刷されており、EP盤には「58.11」と印刷されています。1ヶ月の差があります。

 

 レコードが、電気式蓄音器のEP盤に移行する時期で、EP盤が主流になりつつある年に発売されましたが、やはり歌謡曲系の作品はSP盤が優勢だったのかな?と思われます…(^^;A。

 

 

 島倉千代子さんの代表曲で、数ある昭和歌謡のうちの1曲として名を残した作品と捉えておりますが、曲作りに対する意気込みが込められた作品と感じます。

 

 


島倉千代子 - からたち日記(単一記録音声)

注1)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 Nippon Columbia Co., Ltd.(COLUMBIA の代理); Muserk Rights Management、その他 6 件の楽曲著作権管理団体

注2)途中高音部分で音が割れるような感じになっています…(>_<)。

 

 

拍子が次々と変化する編曲

 「からたち日記」の特徴は、聴いていて「不思議なメロディだな~」と感じる事です。

 

 なぜ不思議なのかは楽譜を見るとすぐに分かります。始まりは1小節が1、2、3の3拍子なのに、途中から2拍子、3拍子、4拍子と次々に変化していくからです。

 

 4拍子なら4拍子と、ひとつの種類で完結するヒット曲がほとんどなので、その事に慣れている耳には不思議な印象を残す要素になっていると思います。

 

 演歌系の作品では、こぶしのために"1小節だけ拍子が変わる事"はよく見かけます。「からたち日記」のようにダイナミックに変化していく作品は、すべての年代を通してあまり見かける事がありません。

 

 

 ポップスのほとんどが4拍子ですが、拍をずらす事は一般的です。2拍目と4拍目を強くする裏拍や、4拍目から歌い始めるアウフタクトのように全体をずらす手法はよく見かけますが、途中で拍子が変わっていくヒット曲は記憶にありません。

 

 「からたち日記」は、"拍子をずらすと、聴き手の印象に残りやすい”という特徴を発展させた編曲がされているように感じます。

 

 

作曲者:米田信一は、遠藤実さん

 歌詞カードでは作曲者=米田信一と印刷されていますが、実際に作曲されたのは遠藤実さんです。

 

 当時は作曲家も特定のレコード会社に所属しており、"他のレコード会社に所属する歌手に作品を提供する事"は業界のルール違反だったようです。そのため、ペンネームを用いられています。

 

 もしかすると遠藤実さんにとって、他社に所属する歌手に楽曲を提供するのが初めての事で、「絶対に自分が作曲した事がバレてはいけない!」と考えて、不思議な聴き心地の「からたち日記」を製作されたのかも知れません。

 

 音楽知識はありませんが、作曲でも個性が表れるようです。何かの曲を聴いたときに、「あの人の作曲だな!」とピンと来ることもありますし、「あの人の曲は全部同じ曲調」だと感じる事があるためです。

 

 

 反対に、コロムビアさんもなぜ他社の作曲家に依頼したのか、動機が分かりません(>_<)。「この世の花」(1955年発売)から「東京だヨおっ母さん」(1957年発売)と、ヒット曲は作曲家を入れ替えておられますので、島倉千代子さんのイメージに合う作曲が出来る方を探していたのかも知れません。

 

 1960年には「白い小指の歌」を、美空ひばりさんの「つばなの小径」とカップリングする両A面のような珍しい企画をされています。会社を挙げて「何としても島倉千代子さんにさらなる人気者にしよう!」というプロデュースする姿勢がうかがえます。

 

 

からたちの"花"ではなく"日記"

 歌詞でこの作品を取り上げる時に、"セリフが入っている事"が特徴として語られますが、私は曲のタイトルが「からたち日記」で、「からたちの花」ではない事が気になります。

 

 「この世の花」というヒット曲を持っているため、"花"が流行歌手のイメージとして備わっているならば、タイトルを「〇〇の花」にしてシリーズ化しても良いと考えてしまいます。

 

 歌詞に"日記"という単語は登場しません。1番から3番で、好きになった日の想い出、別れなければならなくなった日の想い出、季節が変わり希望を持って生きる決意をした日の想い、心境の変化が順に綴られています。

 

 そのため、タイトルは歌詞の内容から付けられている事が分かります。他のヒット曲で作られたイメージを考慮せずに、新たな作品を製作する姿勢が作詞の面でも感じる事が出来ます。

 

 

楽曲分析

 「バンドプロデューサー5」の分析では、「からたち日記」はCメジャー(ハ長調)です。用いられている音階は完全なヨナ抜き長音階です。

 

 2番が終わってから始まるセリフ部分だけ、並行調のハ短調になっています。初恋の男性との別れが描かれた場面で、歌詞に合わせた曲調で演出されていると感じます。

 

 "2番だけが短調になる"というのも、かなり凝っていると感じます。作品に対する半端ない熱意を感じます…(^^;A。

 

 

 「からたちの小径」(2013、2014)が製作されるくらい、"島倉千代子さん=「からたち日記」"という印象を残しています。

 

 楽曲を製作する人たちが、島倉千代子さんをサポートしようとする情熱がうかがえ、製作にまつわるエピソードが知りたくなる作品です。

 

 

曲情報

 発売元:コロムビア・レコード

 EP盤の品番:SA-148

 SP盤の品番:A-3092

 

 A面

  「からたち日記(せりふ入り)」

  英題:KARATACHI NIKKI

  作詞:西沢爽

  作曲:米田信一

  編曲:牧野昭一

  制作担当:馬淵玄三

  演奏時間:3分30秒

 

  コロムビア オーケストラ

 

 B面

  「待ち呆けさん」

  英題:MACHIBOKE SAN

  作詞:星野哲郎

  作曲:浜口庫之助

  制作担当:馬淵玄三

  演奏時間:3分22秒

 

  コロムビア オーケストラ

 

  歌手名が島倉千代子さんのサインになっています。

  A面には珍しく編曲者の名前が印字されています。

 

 

参考資料

 「からたち日記」レコードジャケット

 『日本流行歌史(中)1938~1959』社会思想社

 『歌謡曲おもしろこぼれ話』長田暁二 教養文庫

 『全音歌謡曲大全集3』全音楽譜出版社

 『歌謡曲の構造』小泉文夫

 「バンドプロデューサー5」