最も古い『歌謡曲ランキング1位曲』?
ヒット曲が好きで様々な資料を探していますが、今のところフランク永井さんの「有楽町で逢いましょう」(SP盤1957年11月発売、EP盤1958年3月発売)が私が確認できた最も古い歌謡曲ランキング1位曲?です。
オリコン以前の記録で参考にしている『ミュージック・マンスリー』1958年4月号に、1958年の『■流行歌3月のベスト3■』で一番上に記載されています。
<『ミュージックマンスリー』No.60(1958年4月号)>
実際のところ上図には順位が書かれていませんので一位かどうか。加えて、ひとつの雑誌社が全国のレコード店の前月売上を翌月に発表できるほど集計のノウハウを持っていたかどうか?はかなり疑わしいです。
おそらく実際の売上枚数ではなく、速報値のランキングと思われます。
注)ライセンス JVCKENWOOD Victor Entertainment Corp.; Muserk Rights Management、その他 6 件の楽曲著作権管理団体
1958年ごろは蓄音機で再生するSP盤と、新しく登場した電気蓄音機で再生するEP盤の過渡期です。
洋楽ではEP盤が目立ちますが、歌謡曲はまだまだSP盤が主流だったと考えられます。
なぜ「雨」で描いた?
「有楽町で逢いましょう」は、百貨店のそごうが東京進出する際にプロモーションをした曲として語り継がれています。
有楽町そごうのCMソングと解釈できますが、もし売り込むならネガティブな言葉を使ってはいけないと思います。
雨の日に「買い物に行こう!」という気持ちはなかなか生まれません。
まして特別な日であろう「百貨店に買い物に行く日」、普通に考えれば雨ではなく晴れの日を描くのが一般的ではないか?と思います。
作詩された佐伯孝夫さんのアイデアのようです。
三十二年の暮れから翌年いっぱい、日本中のいたるところ、どこもかしこもすき間なく「有楽町で逢いましょう」で塗りこめられてしまった。じつに見事な流行だった。 この歌の発想のもとは、佐伯孝夫氏の「寝っころがり」だった。(『日本の流行歌<歌でつづる大正・昭和>』上山敬三)
・・・戦前から流行歌を支えた佐伯孝夫さんがどんな方だったのか気になります(笑)。
映画『有楽町で逢いましょう』の人気とともにレコードもヒットしたようですね。
なぜ「低音」を魅力にした?
フランク永井さんの歌唱は魅惑の低音と呼ばれます。これは流行したから自然と生まれた言葉ではなく、所属レコード会社のビクターさんが売り出すために作られたキャッチコピーのようです。
発売時期は不明ですが10インチLP盤『魅惑の低音』が発売されています。
注)ライセンス JVCKENWOOD Victor Entertainment Corp.; Muserk Rights Management、その他 6 件の楽曲著作権管理団体
(のちに登場する同ビクター所属のマヒナスターズさんは『魅惑のコーラス』と表現される事になります)
"低音を売りにした理由"は、キングの三橋美智也さんに対抗するためと想像できます。
すでに流行歌手となっていた三橋美智也さんは、民謡の歌唱法で"高音"が印象的です。
主題が「ふるさと」の作品で人気を集めている三橋さんと対照的な存在として、都会を低音で歌うフランク永井さんをライバルにしようとしたと考えられます。
(上記のランキングで三橋美智也さんの「おさらば東京」が人気を集めているのも面白いですね。)
なぜか都会賛歌ではない
・・・再び雨の話に戻ってしまいます。
三橋美智也さんが歌う、故郷を離れて都会で就職した主人公が郷愁や孤独に直面する心理は理解できます。
ではフランク永井さんが歌いあげる都会が華やかさを歌っているか?というと、なぜかそうではありません。
先に発売されていた「東京午前三時」、「夜霧の第二国道」(ともに1957年発売)も、なぜか夜の都会を舞台にした未練心が主題です。
「・・・三橋美智也さんが主題にしている心情とかぶっているのでは?」と感じます。
都会での生活を謳歌する若者を描いた「銀座カンカン娘」(1949年発売)や「東京キッド」(1950年発売)のような明るさを描かない。
1970年代後半から人気を集め始める"都会のなかの孤独感"に近い心情を描いているようで興味深いです。
曲情報
発売元:日本ビクター株式会社
品番:SP盤 V-41744
EP盤 VS-57
雑誌「平凡」連載・大映映画「有楽町で逢いましょう」主題歌
A面
「有楽町で逢いましょう」
作詩:佐伯孝夫
作曲:吉田正
編曲:佐野鋤
歌:フランク永井
ビクター・オーケストラ
(ニュー・オルソフォニック録音)
B面
「夢みる乙女」
作詩:佐伯孝夫
作曲:吉田正
編曲:小沢直与志
歌:藤本二三代
ビクター・オーケストラ
(ニュー・オルソフォニック録音)
参考資料
『昭和流行歌総覧(戦後編-1)』オンデマンド版 加藤正義 柘植書房新社
『ミュージック・マンスリー』月刊ミュジック社
『日本の流行歌<歌でつづる大正・昭和>』上山敬三 早川書房
『新版 日本流行歌史(中)1938~1959』社会思想社