明治初期は江戸流行り唄のリバイバルブーム
明治元年10月、明治天皇が京都から東京にお移りになられて、東京では祝典が行われました。
このお祝いムードから江戸時代に流行した陽気な歌が支持され始めたようです。
「ぎっちょんちょん」も同じ流れで人気を集めた作品と思われます。
♪高い山から 谷底見れば ぎっちょんちょん ぎっちょんちょん
♪瓜や茄子の 花盛り
♪おやまか どっこい どっこい どっこい よーいやな
♪ぎっちょんちょん ぎっちょんちょん
注)うめ吉 - トピックの動画
「ぎっちょんちょん」は明治の囃子言葉
明治のはじまりにはリバイバルブームに似た現象が起きていたのだろうと解釈しています。
<主なリバイバル作品>
曲名 | 以前に流行った時代 |
さいさい節(ノーエ節) | 文久 |
よさこい節 | 安政 |
こちゃえ節(お江戸日本橋) | 天保 |
さっさこれこれ節 | 嘉永 |
びっくりしゃっくり節 | 文化 |
ないしょ節 | 文化 |
なんじゃいな節 | 文政 |
猫じゃ猫じゃ | 文政 |
しょんがいな節(梅は咲いたか) | 寛文 |
※元号:文化 →文政→天保→弘化→嘉永→安政→万延→文久→元治→慶応→明治
ほとんどが文化(1804年~)以降に流行した作品です。
「ぎっちょんちょん」は天保時代の「ビヤボンビヤボン」の歌詞を引用し、囃子言葉をリメイクした作品です。(流行唄変遷史 - 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp))
ほとんどのリバイバル曲は囃子言葉が江戸当時のままですが、なぜか「ぎっちょんちょん」は新しい囃子言葉に生まれ変わっています。
レコードの無い時代は【囃子言葉=歌のタイトル】で、ほぼ「〇〇節」です。とても重要な役割を持っているのに、新しく置き換えた大胆さに驚きます。
当時も「まったく別の新しい曲」として受け入れられたと思います。
・・・個人的に「ぎっちょんちょん」というフレーズが明治に支持されたのは興味深いです。
江戸期の流行歌のフレーズは話し言葉由来を感じますが、「ぎっちょんちょん」は聞き手に感情を連想させない無機質な音の響きを感じます。
後に登場するオッペケペーやテケレッツノパと性質が似ている気がします。
近代化していく日常生活を目の当たりにした当時の人たちの「言葉にできない気持ち」を代弁するように支持された囃子言葉だったように感じます。
文明開化の音というのは、意外と無感情で無機質だったのかも知れません。
読売壮士もお気に入り?
前述の歌詞、「♪高い山から 谷底見れば 瓜や茄子の 花盛り」は七七七五調です。
七七七五調なのでいろいろな都々逸(天保時代に誕生)を当てはめる事ができます。
いつから加わったのか分かりませんが、今では
「♪丸い卵も 切りよで四角 ものも言いよで 角が立つ」
の都々逸も「ぎっちょんちょん」の歌詞に含まれているようです。
「丸い卵も~」の文句は、万延時代に流行した「のんのこさいさい節」に登場しています。
明治時代に人気があった都々逸のようで、添田啞蟬坊さんの「東雲節(ストライキ節)」(明治33年)にも同じような現象が起きて、歌詞が追加されているようです。
また、ギッチョンチョンというフレーズは添田さつきさんの「東京節(パイノパイノパイ)」(大正8年)で用いられています。
おそらく「ぎっちょんちょん」は、明治時代を生きた人たちならば誰でもどこかで耳にした事があるくらい流行していたと推測できる存在感です。
流行が落ち着いた後も定番ソングに成長した大ヒット曲の面影を感じます。