流行時期(いつ流行った?)
フランク永井さんの「大阪ぐらし」は、昭和39年(1964年)にヒットしました。
『ミュージックマンスリー』の月間売上ランキングによると、1964年9月から翌1965年1月の5か月のあいだベストテン入りしています。
年月 | 順位 |
昭和39年09月 | 10位 |
昭和39年10月 | 7位 |
昭和39年11月 | 6位 |
昭和39年12月 | 9位 |
昭和40年01月 | 8位 |
最高順位はそれほど高くありませんが、長期間ランクインしています。こういったセールスを記録する作品は、ロングセラーだったと判断できます。
一般的なヒット曲と違い、一度聴いただけではピンと来ず、何度か耳にしているうちに覚えて来て、良さが伝わる作品が多いです。
ジャンルでは演歌やバラードが目立ちます。人気歌手の場合は、流行期が過ぎて久しぶりにヒットした作品も、新たなファンを獲得するからか、似た売れ方になる事があります。
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大阪を歌うフランク永井さん
フランク永井さんは、東京を舞台にしたヒット曲を多く残しています。
「有楽町で逢いましょう」(1957年発売)
「羽田発7時50分」、「西銀座駅前」(1958年発売)
「東京ナイトクラブ」(1959年発売)
流行歌手として一世を風靡した時代に、都会調の作品が固まっています。
そのため、”フランク永井さん=東京・都会”と連想してしまい、大阪を題材にした作品が珍しく感じます。
しかし、「こいさんのラブコール」(1958年発売)や「大阪野郎」(1960年発売)も吹き込んでいるため、それほど珍しくは無いようです。
「大阪ぐらし」は、久しぶりに大阪を題材にした作品となります。
歌詞には、観光名所である通天閣や法善寺が出てきます。夕陽ヶ丘も登場し、数々の地名・名所が登場するご当地ソングと言えますが、”がたろ横丁”という、現在の関西人があまり耳にする事の無い固有名詞が登場します。
妖怪の河童の事をガータロと呼ぶ、と書籍で読んだ事がありますので”かっぱ横丁”となるのかも知れません。しかし、阪急梅田のかっぱ横丁では無さそうです。
戦前の大阪が歌われた1960年代
”がたろ横丁”は、おそらく織田作之助さんの『夫婦善哉』に登場する"河童横丁"を指していると思われます。
『夫婦善哉』は大正から昭和初期の大阪が舞台です。そのため、通天閣も現在の形ではない、凱旋門とエッフェル塔を組み合わせたデザインの初代通天閣をイメージしていると思われます。(参考画像:通天閣 [公式サイト]資料館)
1960年代の流行歌で大阪が舞台となる作品がいくつか登場しますが、なぜかリアルタイムの大阪を描いた作品はあまり見当たりません。
「月の法善寺横町」(1960年)や「王将」(1962年)と、戦前の大阪文化を表現する作品が支持されている印象を受けます。
「大阪ぐらし」も、歌の主人公は戦前に活躍された棋士の坂田三吉さん夫婦と解釈できます。どちらかというと夫を支える妻が主人公かも知れません。
1970年代以降にリアルタイムの大阪が歌われるようになりますが、先駆けは坂本スミ子さんの「たそがれの御堂筋」(1967年)と考えられます。
(三田明さんと吉永小百合さんの「若い二人の心斎橋」(1964年)はヒットしたかどうか分かりませんでした…(^_^;A)。)
楽曲分析
「バンドプロデューサー5」の分析では、「大阪ぐらし」はA♭メジャー(変イ長調)です。用いられている音階はヨナ抜き長音階です。
村田英雄さんの「王将」の大ヒットを意識してか、4分の3拍子になっています。
石原裕次郎さんの「王将・夫婦駒」(1965年)も同じ傾向で、なぜか”坂田三吉さんの歌=ヨナ抜き長音階の4分の3拍子”が定番となっています。
流行歌の歌詞は基本的に3番までですが、「大阪ぐらし」は4番まであります。
1番に登場する娘が、恋に悩む年齢に成長した頃が2番…と、各番号を結びつけてストーリーを想像させる歌詞になっています。
時系列に物語が進んでいるように構成している事、番号によって主人公が変わる事など、歌詞の枠組みがドラマの脚本のように練られた作品と感じます。
小説のような世界観を持つ作品なので、映画化されても良かったのでは?と感じます。
曲情報
1964年 年間19位(邦楽)
レコード
発売元:日本ビクター株式会社
品番:SV-43
A面
「大阪ぐらし」
作詩:石浜恒夫
作編曲:大野正雄
歌:フランク永井
演奏時間:3分21秒
ビクター・オーケストラ
B面
「あなたと呼びたい」
作詩:芙美薫
補作:伊吹とおる
作曲:平川浪竜
編曲:小沢直与志
歌:多摩幸子
演奏時間:3分12秒
ビクター・オーケストラ
参考資料
「大阪ぐらし」レコードジャケット
『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社
『全音歌謡曲大全集3』全音楽譜出版社
『歌謡曲の構造』小泉文夫
『夫婦善哉』織田作之助 青空文庫
「バンドプロデューサー5」