ヒット曲けんきゅうしつ

流行した音楽を探して、色々考えるブログ

ヒット曲の歌詞分析~「正しさ」(2020年代)

コロナ禍が助長?多く歌われる「正しさ」

 2020年代のヒット曲を聴いていて気になる単語が"正しさ"です。他の年代に比べて登場する機会が多いと感じます。

 

 「水平線」(2021)で歌われるように、"正しさは別の正しさと衝突"します。

 

 そのため、あえて主張するものではなく、ヒット曲にはあまり登場しない単語です。

 

 

 長期間のパンデミックが続く特殊な2020年代では、アーティストも"触れざるを得ないテーマ"となっているのでは?と解釈しています。

 

 外出時にマスク着用する事、医療従事者を讃える事、ロックダウンを実行する事、ワクチンを接種する事。疫病まん延の責任は行政にあるのかどうか?など、イエスかノーかで尋ねられると困る質問ばかり。

 

 誰もが納得できない時代。個人的に「正しくなれない」(2020年)が時代を反映した作品と思います。

 

 コロナ禍にヒットした作品では「香水」「ドライフラワー」など、"失った過去の恋愛を振り返る心情"が支持されています。

 

 "何も奪われていない(失っていない)"という視点が含まれる歌詞は「正しくなれない」と「感電」しか思いつきません。

 

 


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注)ずっと真夜中でいいのに。ZUTOMAYO 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

疑う余地を与えなかった「正しさ」

 「正しさ(正義)=善」というイメージを持っている方は多いと思います。私自身もそう思っていますが、これが価値観の対立を生じさせると感じます。

 

 正義の対義語は悪ではなく不義で、それが善か悪かは別の話のようですね・・・(>_<)。

 

 

 ヒット曲は昭和からしか歴史がありませんが、「正しさ=善」の価値観で登場します。

 

 戦時中に登場します。

 

 国家総動員法で国民生活が制限されはじめた時代に発売された「愛国行進曲」(1938年)、「出征兵士を送る歌 」(1939年)、「紀元二千六百年」(1940年)などに登場します。

 

 いずれも民間ではなく国策で歌詞が募集された作品です。

 

    当時の軍事政権が、「国のため、アジアのために他国と戦争を行う事は正しい」という思想を広めるために企画したのだと思います。

 

 2022年のウクライナ侵攻の報道を見ると、戦時中の日本を想像してしまいます。

 

 

テレビまんがで支持された"正義の味方"

 戦後に登場する「正しい」はテレビアニメからです。

 

 「正しい=善」から生まれたであろう”正義の味方”です。

 

 「月光仮面は誰でしょう」(1958年)や「エイトマン」(1963年)、「オバケのQ太郎」(1965年)で登場します。

 

 アニメ主人公はヒーロー。オバQは威勢を張っているだけでしょうが、「正しい=善」、憧れの存在という価値観も窺えます。

 

 「鉄腕アトム主題歌」(1964年)には"正義の味方"は登場しませんが、”心が正しい”と歌われています。

 

 『鉄腕アトム』は人間の誤った行いに葛藤する姿も描かれる作品ですので、わざと"正義の味方"という表現を避けたのかも知れません。

 

 

ヒット曲ではほぼ登場せず

 戦後から1970年代のヒット曲には「正しさ(正義)」はほとんど登場しません。村田英雄さんの「柔道一代」(1963年)でのみ登場します。

 

 もともと戦時下にしか登場しなかった言葉なので、正常に戻ったと言えます。

 

 

 次に"正しさ"が登場するのは、"清く正しく"の「なんてったってアイドル」(1985年)です。

 

 "カワイイは正義"に通じる価値観かも知れません。

 

    "カワイイ>正義"の価値観で、ヒーローに対する憧れの心理は失われ、面白おかしく表現され始めます。

 

 この価値観は「勇気のしるし」(1990年)でも感じる事が出来ます。

 

 

「正しさ=善」を切り離したのは中島みゆきさん?

 「正しさ」を疑う事が表面化するのは1990年代です。「情けねぇ」(1991年)が先駆けと思います。

 

 1980年代に「みんなが流行りを真似するのってどうなんだろう?」と風刺する「ミス・ブランニューデイ」(1984年)や「マリオネット」(1987年)がヒットしますが、「それは正しくないのでは?」という言葉では表現されていません。

 

 疑念を抱かず信じられていた「正しさ」に物申す事が恐れ多かったからだと思います。(「じゃあ正しさって何!」と返って来る事が容易に想像できます・・・(^^;A。)

 

 

 「正しさ」の問題提起に成功されたのは中島みゆきさんと思います。

 

 歌詞に登場しないものの、"君のためなら悪い側になる"と歌う「空と君のあいだに」(1994年)や、"西と東でそれぞれの正しさを持っている"と歌う「旅人のうた」(1995年)がヒットします。

 

 【正義】の背後に存在する【正しさ=善】を切り離し、"「正しさ」の定義は人によって違う事"、"それぞれに正しさが存在する事"を歌詞にして支持を得る事ができたのは、中島みゆきさんの功績と感じます。

 

 「情けねぇ」でも感じますが、1990年代では"正しさが人によって異なる事"を"時代や社会のせいにする"という視点が目立ちます。

 

 まだ「正しい=善」の価値観に囚われる事が一般的だったのかも知れません。

 

 

2000年代以降の「正しさ」

 「正しさ」は2000年代には再び姿を消し始め、再び正常に戻ります。

 

 調査が追い付いていませんが、「Dragon Night」(2015年)や「不協和音」(2017年)と、2010年代中頃から「正しさ」と「善」を切り離した価値観が一般化し始めているようです。

 

 ・・・などとモヤモヤ考えています。ありがとうございました。