初の"鶯芸者歌手"
二三吉(ふみきち)さんの「祇園小唄」は、昭和5年(1930年)に発売されました。
CDでは歌手名に藤本二三吉と印刷されていますが、当時は苗字が無い"二三吉"だったり、"葭町二三吉"や"葭町 藤本二三吉"と印刷されていたりします。
葭町(よしちょう)は、かつて東京にあった花街の地名です。花柳界出身の歌手は、ゆかりのある街の名を芸名に付ける風習があったようです。
「東京音頭」(1933年)で有名な小唄勝太郎さんも"葭町勝太郎"と印刷されている盤がありますので、同じご出身と思われます。
注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 Victor Entertainment, Inc.
レコード流行歌が誕生し始めた昭和初期は、鶯歌手(うぐいすかしゅ)や鶯芸者歌手(うぐいすげいしゃかしゅ)と呼ばれる、花柳界出身の芸者が吹き込んだ作品が人気を集めています。
選挙カーから広報する女性、球場でアナウンスをする女性の事を"ウグイス嬢"と表現する言葉がありますが、"鶯歌手"も"きれいな声"を形容する事がきっかけで生まれたのかな?と思います。
昭和初期に歌手デビューされた方には、赤坂小梅さん、浅草市丸さん、浅草美ち奴さんなどがおられます。他にも、日本橋や新橋、神楽坂を名乗る方々がおられますが、名前から連想すると東京出身の方ばかりのようです。
昭和初期に新しく登場した"レコード歌手"という職業をこなせる業種として、最初は藤原義江さんや佐藤千夜子さんのように、西洋音楽の声楽のオペラを学んだ方が起用されています。
鶯歌手の第一号として二三吉さんが、その次に登場しています。江戸時代の流行歌や三味線、踊りの稽古を積んだ芸者が歌手に起用されるのは、自然の流れかも知れません。
主題歌だけが残った?映画タイアップ曲
レコード音楽は誕生と同時に映画業界と結び付いていたようです。レコードには音楽ジャンルが印字される習慣がありますが、「祇園小唄」には"映画小唄"と印字されています。
レコード流行歌のヒット第1号と語られる「東京行進曲」(1929年)も、レコードに同じジャンル名が印刷されています。
戦前の邦画を見る方法を色々調べていますが、『絵日傘』はフィルムが失われているという記事を目にします…(>_<)。
消失した原因が戦災か天災かは分かりません。残念ながら、レコードに比べて複製できる数がはるかに少ない映画フィルムは、長期間保存し続ける事が難しいようです。
『絵日傘』は、原作が「祇園小唄」を作詞された長田幹彦さんの小説なので興味があります。
1930年に公開された三部作で、
第一部『舞の袖』は全てが残っており、
第二部『狸大尽』はわずか、
第三部『草枕』は残っていない、
という状態のようです。
楽曲分析
「バンドプロデューサー5」の分析では、「祇園小唄」はGm(ト短調)です。
用いられている音階は良く分かりません…(^^;A。
音が高い部分では、ラシド〇ミファ〇の47抜き音階(ヨナ抜き)と推測できますが、
低い部分では、ラシ〇レミファ〇と37抜きになっています。
曲を聴いて不思議な印象が残るのは、この37抜きの音階が理由かも知れません。作曲された佐々紅華さんが「芸者出身の方が歌うのなら、日本特有の雰囲気を出そう!」と考えて調性が不安定な音階を作りだしたのかも知れません。
「祇園小唄」を聴いて、不思議な響きを感じる理由がもう1つあります。それは、メロディの終わりが主音ではなく、第五音で終わっている事です。
Amであれば、"ラ"で終わると聴き手も安定を感じるところを、5個上のラシドレミの"ミ"でメロディを終わらせています("ラ"を1と数えて5個目)。
これは、当時の鶯芸者歌手のヒット曲でよく見かける終止です。他の時代ではあまり見かけない終わり方で、興味があるので調べてみようと思います。
ヒット曲のその後
京都の円山公園に「祇園小唄」の歌碑が作られています。1961年に作られたようです。
また、「祇園小唄」はJASRACが管理する作品ですが、現在は著作権が消滅しているようです。
曲情報
発売元:日本ビクター
品番:51037
A面
「祇園小唄(上)」
作詩:長田幹彦
作曲:佐々紅華
三味線及合唱:小靜・秀葉其他
(マキノ映画「絵日傘」中の主題歌)
(ピアノ・フリユート鳴物入)
B面
「祇園小唄(下)」
作詩:長田幹彦
作曲:佐々紅華
三味線及合唱:小靜・秀葉其他
(マキノ映画「絵日傘」中の主題歌)
伴奏:ビクター和洋合奏団
参考資料
「想い出の戦前・戦中歌謡大全集2」CD
『日本流行歌史(上)1868~1937』社会思想社
『SPレコード60,000曲総目録』昭和館 アテネ書房
『歌謡曲おもしろこぼれ話』長田暁二 教養文庫
『全音歌謡曲大全集1』全音楽譜出版社
『歌謡曲の構造』小泉文夫
「国立国会図書館デジタルコレクション」Webサイト
「オークフリー」Webサイト
「東京花柳界情報舎」花街の紹介(芳町)Webサイト
「京都府」映画『祇園小唄絵日傘 狸大尽(ぎおんこうたえひがさ たぬきだいじん)』の画像配信Webサイト
「京都祇園 八坂神社参道 祇園商店街」祇園小唄の碑Webサイト
J-WID作品データベース検索サービスWebサイト
「バンドプロデューサー5」