ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。誤字はちょっとずつ修正します。

「勘太郎月夜唄」小畑実・藤原亮子(昭和18年発売)

太平洋戦争時に発売された普通の流行歌

 小畑実(おばたみのる)さんと藤原亮子(ふじわらりょうこ)さんの歌う「勘太郎月夜唄」は、昭和18年(1943年)に発売されました。

 

 当時どれくらいヒットしたのか?という記録は見つかっていませんが、かなりの人気を集めた作品と語り継がれています。

 

 お二人は前年に「婦系図の歌(おんなけいずのうた)」を歌われていますが、戦後に「湯島の白梅」として発売され人気を集めたという話があります。

 もしかすると「勘太郎月夜唄」も、その時に再び人気を集めたかもしれませんが、残念ながら、こちらも記録は見つかっていません(>_<)。

 

 

 


勘太郎月夜唄(小畑 實・藤原亮子)

注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 Victor Entertainment, Inc.; Muserk Rights Management

 

 

 曲名の読み方は、"月夜"が濁って「カンタロウヅキヨウタ」になると思うのですが、国立国会図書館デジタルコレクションの情報によると「カンタロウツキヨウタ」となっています。

 

 ”〇〇月夜”で読み方を調べると、「おぼろ月夜」や「忠太郎月夜」は"ヅキヨ"と濁り、「大利根月夜」は濁りません。日本語の不思議な所です・・・(? ?)。

 

 

1943年の日本

 すでにアメリカと開戦しており、国民生活を制限させる物資不足は深刻になっていた時期と考えられます。しかし、もっと悲惨な影響をもたらす空襲が本格化していなかったようです。

 

 1943年の年初は、世の中がそれほど緊迫していなかったのではないか?と推測できる、流行歌にまつわるエピソードがあります。

 

 1月に煙草の値上げが行われておりますが、3年前に国民歌として製作された「紀元二千六百年」(1940)の歌詞を替え、”金鵄上がって十五銭、栄えある光三十銭”と歌われた、というお話です。

 金鵄、光はともに煙草の銘柄です。

 

 私は当時を知りませんので、もし、そんな替歌を歌ったら隣組を通じて憲兵に報告されて治安維持を理由に逮捕されてしまう世の中だったのではないか?と想像してしまいます…(^^;A。

 

 「勘太郎月夜唄」は、戦争一色では無い雰囲気だった年の初めに発売されています。書籍によって1月発売や2月発売となっています。

 

 レコードには”東宝映画『伊那の勘太郎』主題歌”と書かれていますので、新春に映画が公開されていたのかな?と思われます。

 

 

勘太郎って誰?

 江戸時代の設定で、「どこそこの誰々」を主人公にしたヒット曲はよくあります。長谷川伸さんの作品が題材にされる事が多く、沓掛時次郎番場の忠太郎が有名です。

 

 しかし、「勘太郎月夜唄」で主人公として描かれる伊那の勘太郎を題材にしたヒット曲は後世に登場しません。どうやら原作が無く、1943年公開の映画のために作られた人物のようです。

 

 股旅もの時代ものというのか、このジャンルでは物語の印象的な場面が描かれます。しかし「勘太郎月夜唄」は、聴き手に特定の場面を思い描かせる描写が見当たりません。

 

 主人公が背負っている役割や性格を表すセリフ調の表現も抑え気味で、せっかくの個性が消えている印象を受けます。

 

 客観的な視点で詞が描かれているからだと思いますが、「わざとそうしたのかな?」と思います。当時行われていたであろう出版物の検閲を通過できる事を意識していたと考えられます。

 

 映画の時代設定は幕末で、勘太郎は尊王攘夷派を手助けする役割を担っていたようです。3番の歌詞に菊(天皇)と葵(徳川)が登場している理由ですが、これも当時の政府が気に入るように工夫されたのだと感じます。

 

 どういった物語が歌われないまま、3番になって突然、菊と葵が登場しますが、映画を知らない世代の私は、やはり違和感があります・・・。

 

 

楽曲分析

 「バンドプロデューサー5」の分析では、「勘太郎月夜唄」はDメジャー(ニ長調)です。

 

 この作品は演出が面白いと感じる作品です。小畑実さんの独唱でもいいのではないか?と思いますが、小畑実さんと藤原亮子さんで歌われています。1番が藤原さん、2番が小畑さん、3番が合唱になっています。

 

 歌詞で描かれる心情に合わせて、歌い手を起用している事になります。

 

 また、最も高音になるサビの部分は、並行調のニ短調に転調しています。聴かせどころを短調にするだけでなく、2番の間奏も短調となっています。

 

 政府によって表現が制限された時期に製作された作品のためか、歌詞で描けない心情を、なんとか音楽で表現しようとする姿勢を感じます。

 

 

あとがき

 SP盤の時代のヒット曲についても興味を持っています。資料が少ないですが、色々調べて今後も取り上げて行こうと考えています。

 

 音源はCDを参考にしています・・・。

 

 

曲情報

 発売元:日本ビクター

 品番:A-4375

 

 A面

  「勘太郎月夜唄」

  作詞:佐伯孝夫

  作曲:清水保雄

  歌唱:小畑実・藤原亮子

 

  東宝映画『伊那の勘太郎』主題歌

  日本ビクター管弦楽団

 

 B面

  「天龍二十五里」

  作詞:佐伯孝夫

  作曲:伊藤昇

  編曲:平茂夫

  歌唱:市丸

 

  (合唱付)

  日本ビクター管弦楽団 

 

 

参考資料

 「想い出の戦前・戦中歌謡大全集11」CD

 『日本流行歌史(中)1938~1959』社会思想社

 『SPレコード60,000曲総目録』昭和館 アテネ書房

 『歌謡曲おもしろこぼれ話』長田暁二 教養文庫

 『全音歌謡曲大全集1』全音楽譜出版社

 『歌謡曲の構造』小泉文夫

 「国立国会図書館デジタルコレクション」Webサイト

 「オークフリー」Webサイト

 「バンドプロデューサー5」