ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。誤字はちょっとずつ修正します。

「ひとり寝の子守唄」加藤登紀子(昭和44年)

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流行時期(いつ流行った?)

 加藤登紀子さんの「ひとり寝の子守唄」は、昭和44年(1969年)末から翌年初めにかけてヒットしました。

 

 『レコードマンスリー』の月間売上ランキングによると、下記の売上推移を記録しています。

 

年月 順位
昭和44年10月 22位
昭和44年11月 19位
昭和44年12月 7位
昭和45年01月 10位
昭和45年02月 24位
昭和45年03月 26位

参考)『レコードマンスリー』(歌謡曲)の月間ランキング推移

 

 


加藤登紀子 Tokiko Kato -- a1 ひとり寝の子守唄

注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 UMG(Polydor の代理); ASCAP、その他 4 件の楽曲著作権管理団体

 

 

1969年に支持された、若者の”今の気持ち"

 1969年はグループサウンズのブームが落ち着き、フォークソングが再び人気を集めた年です。

 どちらも若者向けの音楽の流行と考えられますが、この年にヒットしたフォークソングには満たされない気持ちを歌にした作品が目立ちます。

 「風」「あなたの心に」「真夜中のギター」などがヒットしましたが、「ひとり寝の子守唄」も該当します。

 

 前向きな気持ちが綴られたヒット曲は、愛が生まれる瞬間を歌ったトワ・エ・モワさんの「或る日突然」だけかも知れません。

 

 1960年代は流行歌の若年化が進んだ年代ですが、レコード会社が製作してきた作品は、"若者=希望や未来の象徴"として扱って来ました。

 

 1969年は、現在のように歌い手自身が楽曲を製作する動きが目立ち始めます。この年に若者が表現した内容が、将来に対する希望ではなく、"現在の漂白感や孤独感"だった事は興味深いです。

 

 

不安を感じさせるジャケットの写真

 「ひとり寝の子守唄」のレコードジャケットは、珍しく見開きになっています。この時期のポリドールさんが製作するレコードは、中にレコードを入れる袋形式です。表がジャケットで、裏が歌詞カードの形状です。

 

 この作品では、見開きのページが加えられており、そこには”誰もいないビル街に、黒い一人の人影が写っている写真”が印刷されています。

 

 写真の画像は加工されており、色がグレーで無機質な風景となっています。不安な印象を与えるデザインになっていますが、楽曲の世界観と一致する演出になっていると感じます。

 

 

時代を越えても色あせない編曲

 「ひとり寝の子守唄」は加藤登紀子さんが作詞・作曲されています。この時期に登場し始めたシンガーソングライターになります。

 

 フォークソングで浸透し始めたシンガーソングライターですが、「ひとり寝の子守唄」はフォークソングか?と言われると、私はそうではないように感じてしまいます。

 

 

 理由は、伴奏でギターがメインで用いられていないからです。もし、ギターの弾き語りで収録された音源だったら、迷いなくフォークソングと判断できます。

 

 完全に想像ですが、おそらく作品を編曲された森岡賢一郎さんは、加藤登紀子さんの製作した曲の世界観に感動して、「この歌が描こうとする孤独な心理を演出するには工夫をしなければならない。流行りの音楽表現で編曲すると良さが活きない。」と考えたと思われます。

 

 

 出だしの伴奏から聴こえる音色は、響きが短い硬さを感じる音色です。音は高いと感じますが、ボーカルの音程に低さを感じるため、聴き手に重さ・暗さを与えないように考慮したのかも知れません。ギターの音色はリズムを刻む楽器として裏方にまわっている印象を受けます。

 

 歌は6番ありますが、伴奏が最も盛り上げるのは5番です。といっても、加藤登紀子さんの歌唱が主役である事が前提のようで、控えめな伴奏になっています。

 

 各番号で伴奏はわずかに変化しています。「モスコーの夜はふけて」「明日があるさ」のように、段々と盛り上がっていくディキシーランドのような演奏スタイルを取り入れていると考えられますが、最後の6番は1番と同じ伴奏に帰ります。

 

 聴き手に大きな変化を感じさせない編曲となっている点は面白いです。

 

 

楽曲分析

 バンドプロデューサー5の分析では、「ひとり寝の子守唄」は#や♭の付かないAマイナー(イ短調)です。

 

 用いられている音階は自然的短音階です。2小節単位で区切ると2つ目と6つ目が使われていない部分が登場するため、26抜き短音階を意識して作曲されているような気もします。

 

 26抜き短音階は47抜き長音階の短調になりますので、印象に残りやすいかも知れませんが、1つの番号が8小節と短い事がメロディを覚えやすい要素となっていると考えられます。

 

 

 …いつも感じますが、音楽を言葉で表現するのは難しいですね(>_<)!

 

 

曲情報

1969年12月のヒット曲 (歌謡曲)

 

レコード

 発売元:日本グラモフォン株式会社

 品番:DP-1461

 

 

 A面

  「ひとり寝の子守唄」

  作詞作曲:加藤登紀子

  編曲:森岡賢一郎

  演奏時間:3分9秒 

 

  ポリドール・オーケストラ

 

 B面

  「枯木の上に」

  訳詞:加藤登紀子

  作詞:P・ルーキ

  作曲:C・マンサード

  編曲:早川博二

  演奏時間:2分38秒

 

  ポリドール・オーケストラ

 

 

参考資料

 「ひとり寝の子守唄」レコードジャケット

 『レコードマンスリー』日本レコード振興

 「バンドプロデューサー5」