ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。誤字はちょっとずつ修正します。

ヒット曲の歌詞分析~「ララバイ」が多用された時代

1980年代に好まれたフレーズ

 「愛」や「恋」、「夢」と言った単語は、どの時代のヒット曲の歌詞にも登場します。しかし、【特定の時期だけ、頻繁に登場する言葉】も存在します。

 

 例えば、1980年代に頻繁に登場した「ララバイ」があります。当時をご存知の方であれば、「ヒット曲でよく登場する言葉」と認識されている事と思います。

 

 歌詞に「ララバイ」が用いられた作品数の推移は下図の通りです。

 

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 1970年代は、中原理恵さんの「東京ららばい」(1978年・昭和53年)のみです。

 それが1980年代になると、突然、登場する曲数が伸びています。そして、後の年代では0%になっています。

 

※ヒット曲の基準を、ヒットチャートの売上や最高順位だけでなく、ランクインした週数等も考慮しています。このフィルタによって、もしかした対象外になっている曲もあるかもしれません。

 

<歌詞に「ララバイ」が使用された曲一覧>

曲名 歌手名 ヒットした年
東京ららばい 中原理恵 1978
サンセット・メモリー 杉村尚美 1981
ハイスクールララバイ イモ欽トリオ 1981
心の色 中村雅俊 1982
ギザギザハートの子守唄 チェッカーズ 1984
サヨナラは八月のララバイ 吉川晃司 1984

 

 「ララバイ」は1980年代に頻出したと言っても、1981年~1984年の数年間の間だけ人気となったフレーズのようです。

 

 一時期にもてはやされて、それ以外の時代では誰も振り向かなかった言葉といえます。このように表現すると、流行語に近い存在かも知れません。

 

「ララバイ」=「子守唄(子守歌)」の歴史

 「ララバイ」は英語、日本語でいう「子守唄(子守歌)」です。

 

 “英語を用いる事で何が変わるの?”という話ですが、「ララバイ」と「子守唄」の違いは、心を静める対象が、“赤ちゃん(赤ん坊)が対象になっているのか、赤ちゃん以外の人物が対象になっているのか?” の違いであると考えます。

 

 子守唄というと歴史は古く、赤い鳥さんの「竹田の子守唄」(1971年・昭和46年)のように、他人の赤ん坊を世話しないといけない子守の心理が描かれる事が発祥です。

 

 流行歌の世界では、『母親があやす赤ちゃんを、何らかの事情があって男性がしなければならない境遇』というドラマで表現する作品が流行しました。

 

 東海林太郎(しょうじ たろう)さんの「赤城の子守唄」(1934年・昭和9年)や一節太郎さんの「浪曲子守唄」(1966年・昭和41年)などがヒットしました。

 

 戦前戦後で変わらない感情表現と捉えていますが、第二次世界大戦中の軍国主義の時代にも塩まさるさんの「軍国子守唄」(1937年・昭和12年)がヒットしています。

 

 戦後には、『実の母親が、我が子と離ればなれで暮らさないといけない』という状況を描いた白川奈美さんの「遠く離れて子守唄」(1971年・昭和46年) もヒットしています。

 

 上記の作品は全て歌う対象が赤ちゃんです。

 

 字面が原因でしょうが、「子守唄」と表現すると、どうしても対象が赤ちゃんになってしまいます。そのため、歌謡曲の世界では、“本当なら、我が子を抱っこして歌えるはずの子守唄を歌えない親の心理”が表現されがちでした。

 

 それを、ララバイと英語に置き換える事で、言葉の意味が聴き手にも拡大解釈されるようになったのではないか?と考えます。 

 

英語っぽくない響きの「ララバイ」

 もしも、言葉の響きがカッコよかったなら、1990年代に入ってもヒット曲で用いられていた事と思います。しかし、「ララバイ」という言葉の響きは、なぜか今時ではない感じがします。

 

 ラ(la)・ラ(la)・バ(ba)と、日本語に置き換えると、明確に発音するア段が3つ続くからでしょうか?

 なんとなく他の英単語に比べて、聴き手にとってはダサさを感じてしまいます。シュッとしていません。

 

 1980年代は、英単語や英文が歌詞に用いられ始めた時代ですが、言葉の響きのカッコ良さが重視されていたと思います。

 

 母音が明確に発音される「ララバイ」は、ちょっと時代が求める発音と一致していなかったのかも知れません。

 

 しかし、“傷ついた誰かを癒す”という意味合いで用いたヒット曲が支持されたので、この言葉の持つ役割は十分に果たされていると感じます。

 

 

当ブログの歌詞分析の視点について

 歌詞分析は、社会学者の見田宗介さんの『近代日本の心情の歴史―流行歌の社会心理史』(講談社学術文庫)のように、歌詞で表現される心情を解釈した上で、楽しい、悲しい、といった人間の本能的な感情に分類して集計を行うべきだと思います。

 

 しかし、その分析でアプローチをするには、とても時間が掛かります。そのため、当ブログでは、「特定の時代でしか支持されなかったフレーズ」を探して、歌詞分析をしようとしています。

 

参考文献

 『近代日本の心情の歴史ー流行歌の社会心理士』見田宗介

 「you大樹」オリコン

 『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社

 『レコードマンスリー』日本レコード振興

 「形態素解析システム MeCab」京都大学情報学研究科−日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所 共同研究ユニットプロジェクト