流行時期(いつ流行った?)
TOP50(フランスのオリコン的ヒットチャート)のランキングによると、Helmut Fritzさんの「Ca m'énerve」は、2009年3月中旬から9月中旬にかけてヒットしています。
半年のあいだ10位圏内にランクインし続けており、6月から7月初めにかけて4週間のあいだ首位となっています。
前後4週間も2位を維持していますので、多くの人気を集めた作品だったと推測されます。
同時期に日本で流行っていた曲(2009年5月中旬~7月末)
オリコンランキングでは首位を獲得した作品には、その年を代表するヒット曲は見当たりません。
JUJUさんの「明日がくるなら」がヒットしています。
音楽配信が広まり始めた時期ですが、参考サイトが見つかりませんので人気だった作品は分かりません。
CD売上だけでは流行りが読めない時代が始まっていると感じる時期です。
フランスでは、この時期には音楽配信(Téléchargement)のセールスが考慮されるようになっているようです。
Helmut Fritz - Ca m'énerve (Clip officiel)
タイトルは"頭にくる"、”イライラする”
タイトルのCa m'énerveは、日本に置き換えると、自分がカッとしている事を伝える時に口にする言葉のようです。
腹立つ、むかつくとかウザいといったニュアンスと思います。
喜怒哀楽の感情のなかで「怒りが主題の作品」を聴き手が受け入れてヒットする事は稀だと感じます。
日本では1990年代後半に、Mr.Childrenさんの作品等で世の中を批判する若者が主人公の作品がヒットしましたが、他の年代では多くの支持を集めた怒りを示すヒット曲は見当たりません。
怒りの根本はストレスです。小さな欲求不満が積り重なって爆発する、そういった感情がこの作品で表現されています。
この作品以外でも、同時期に似たような主題の作品がヒットしているため、当時のフランスでは何かたまり続けた不満が表面化し始める時代だったのかな?と感じます。
積もり積もった怒りが爆発!
歌詞で描かれている主人公が怒るタイミングは、普通なら「まぁまぁ落ち着いて」と思う場面ばかりです。
政治の腐敗を糾弾するように真剣に怒りを訴える作品ではなくユーモアを感じる作品です。
Helmut Fritzさんが最初にイラっとするのは、事前に予約をしてお店に向かったのに「予約された記録はありません。」と言われてしまう場面です。
「まぁそんな事もあるだろう」と仕方なく店を去ります。この時点では怒りを制御できている様子です。
気を取り直して「プレゼント用にROCKと印刷されたシャツでも買いに行こう」と考えて別の店に向かいますが、目当てのシャツは残り1つ、タッチの差で先客に取られてしまいます。
イライラする事が続いたためか、店を出たときに通りすがりの人に八つ当たりする不穏な空気がうかがえます。
場面は夜となり主人公は高級クラブのイベント会場に向かいます。
ほとんどのゲストは高級車でやって来て受付の方に丁寧に会場へ案内されるものの、なぜかスクーターでやって来た主人公は入らせてもらう事が出来ません。
翌日?靴屋に入ったとき、店員が電話中で来客に気付かずに少し遅れて「いらっしゃいませ」と言ったとたんに、怒りの感情が暴発してしまいます。
その後はクラブでお酒を飲んで気分が悪くなってしまってもどしてしまったり、呼び止めたタクシーを割り込み乗車されたりして、気の毒というか残念な主人公の姿が描かれています。
Helmut Fritzさんにストレスを与えているのは、いずれの場面でも、ファッションモデルの髪形を真似たスリムジーンズの似合う若い女性達です。
残念な主人公と感じてしまうのは、徐々に空気を読まない行動が目立ち始める事もありますが、イライラしながらもその女性達に心が惹かれている場面が描かれているためです。
曲を聴くたびに、この主人公はきっとモテる事は無いだろうなぁ~。と感じます(^_^;。
楽曲分析
「バンドプロデューサー5」の分析では、「Ca m'énerve」はEマイナー(ホ短調)です。
歌詞の内容から、フランスではコミックソングに近い感覚で支持を集めたのかも知れません。
この時代の特有の音楽表現、ハウスなのかエレクトロニカなのかジャンルはよく分かりませんが、歌の中で何度も繰り返される「Ca m'énerve」は、聴いていて面白さを感じます。
ヒット曲のその後
2020年、新型コロナウイルスの感染症が多くの国で流行しています。
フランスでも国民が外出を制限されたロックダウンが行われていたようで、歌詞を替えた「Ca m'énerve 2020」のビデオクリップが2020年4月11日に公開されています。
Helmut Fritz - Ça m'énerve 2020 (Official Music Video)
人がほとんどいないパリの街並みが映し出され、映るのはほぼHelmut Fritzさん1人ばかりです。
フランス語が翻訳できれば良いのですが、私は分かりません…(>_<)。機械翻訳では、「皆が家にいる事、マスクやジェルが在庫切れである事」が歌われています。
「マクロン大統領や武漢」といった単語も登場しています。
太陽の光を使っておどけて踊っているのは、おそらく太陽の周縁がコロナの語源となっているからだと推測されます。
参考資料
TOP50(http://www.chartsinfrance.net/)
「you大樹」オリコン
「Ca m'énerve」CDジャケット
「バンドプロデューサー5」