流行時期(いつ流行った?)
アン真理子さんの「悲しみは駈け足でやってくる」は、昭和44年にヒットしました。オリコンチャートの記録によると、9月下旬から11月初めにかけてヒットしたようです。
同じ時期に流行っていた歌は、青江三奈さんの「池袋の夜」や佐良直美さんの「いいじゃないの幸せならば」、弘田三枝子さんの「人形の家」などでした。
奥村チヨさんの「恋の奴隷」や朝丘ルリ子さんの「愛の化石」も上位にランクインしています。
注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 JVCKENWOOD Victor Entertainment Corp.; Muserk Rights Management
悲しい歌が流行っていた昭和44年の秋
当時の人たちが共感した作品が、ヒットチャートにランクインしていたと思いますが、アン真理子さんの「悲しみは駈け足でやってくる」が流行っていた時期は、女性歌手の作品が上位を占めている傾向があると感じます。
それも、幸せではなく、悲しみを帯びた作品ばかりです。
幸せな気持ちを描いた「恋の奴隷」や「いいじゃないの幸せならば」がヒットしていますが、客観的に見て、“幸せ”なのかどうかを考えさせるような詞で描かれています。
どちらも、聴く側にとっては「君といつまでも」(昭和41年)のように“幸福感を表現している”と感じる事はできない作風です。
“自分にとって大切な何か”が終わったり無くなったりする事と知ったとき、終わりが近づくにつれて、過去の想い出を振り返って悲しい気持ちになる事があります。そして失ってからは“〇〇ロス”の状態になると思います。
昭和44年は西暦では1969年です。日常生活に様々な変化をもたらした高度経済成長期の1960年代が終わる年です。世紀末ではなく、年代末と表現すれば良いのでしょうか。
翌年に大阪万博を控える年ですので、若い世代は年代が変わる事に対して特別な感情を抱く事は無かったと思います。
しかし、1960年代の日本を支えた方々の心のどこかには、60年代が終わる事が心理的に悲しい気持ちにさせる出来事だったように感じます。
歌った人が作詞した曲
「悲しみは駈け足でやってくる」の作詞は、歌唱されているアン真理子さんが手がけておられます。
この作品で表現される個性は歌詞であると感じます。「明日=明るい日」や、「若い=苦しい」と、文字の形状から連想した作品は、この曲以外に存在しないと思います。
それも、聴き手に「そういえば、そうだ。」と納得させる事ができるため、支持された作品であると捉えています。
それまでの作品では「明日=未来=希望」、「若さ=未熟=苦い思い出」と、言葉の意味から連想される経緯を歌詞にする事が一般的でした。
しかし漢字の見た目だけで、背景に含まれる本来の意味にたどり着ける、という視点で作詞をしたのは、「悲しみは駈け足でやってくる」だけだと感じます。
若者が作曲したフォークソングが再び流行り始めていた時期だった事もあり、「面白い視点を持つ若者の作品」として注目されたのかも知れません。
バンドプロデューサー5の分析では、「悲しみは駈け足でやってくる」はDマイナー(ニ短調)です。
曲情報
発売元:日本ビクター株式会社
品番:SV-867
A面
「悲しみは駈け足でやってくる」
作詞:アン真理子
作曲:中川克彦
編曲:寺岡真三
演奏時間:3分13秒
B面
「恋のプリンセス」
作詞:原 由記
作曲:舟木 謙一
編曲:舟木 謙一
演奏時間:3分46秒
参考資料
「悲しみは駈け足でやってくる」レコードジャケット
「you大樹」オリコン