歌詞に「月」が登場する作品数の移り変わり
ヒット曲の歌詞には、誰が聴いても伝わる言葉が用いられていると感じます。
多用される単語には、夢、今、心、涙、愛、恋、手、空・・・と色々挙げる事が出来ますが、今回は「月」について考えてみます。
「月」も頻繁に登場する単語ですが、他の単語とは異なる特徴があります。
グラフでみる「月」の特徴
主なヒット曲の歌詞で、“月”が登場した作品数の割合を、グラフにしてみました。
2010年代は現在進行形ですので、このグラフで減少している事に注目する必要はありません。
CD売上だけで考えたグラフですので、この年代はサンプルとして抽出できる曲数が少なく、参考にならないからです。
注目していただきたいのは、1960年代と1970年代の差です。8%台から2%台という小さな数字の世界の話ですが、突然、大幅に減少しているように感じます。
その後、2000年代になって、ようやく1960年代と同じ水準に回復しているように見えます。
2000年代に月を歌った作品と言えば、鬼束ちひろさんの「月光」(2000年)やB'zさんの「今夜月の見える丘に」(2000年)、柴崎コウさんの「かたちあるもの」(2004年)、ジャンヌダルクさんの「月光花」(2005年)、絢香さんの「三日月」(2006年)等が思い浮かびます。
やはりタイトルに月を使用した作品が、印象に残っています。
グラフで見ると、数パーセントの小さい数値の世界ですが、「そういえば、よく耳にする」という感覚を数値で表すと、このような感じになりました。
なぜ月が歌詞に登場しなくなったのか?
理由は1つしかありません。1969年7月にアポロ11号が月面に着陸し、人類が初めて月の上を歩く映像が、テレビで放送されたからです。
この出来事は、今まで月を見て、色々な想像していた人たちにとって、現実的な存在に変化してさせしまったと感じます。
夜になると誰でも見える存在である月を見て、「私が今見てる月を、あの人も見てると思う」と描写する絢香さんの「三日月」が、月を題材にした作品のなかでも秀逸と感じます。
月を通して、好きな人と気持ちが繋がっている事を信じる気持ちが文脈から表現されています。ただ月を見ているのではない登場人物の心情が少ない文字数で明確に表現されています。
しかし、宇宙飛行士が足跡を付けた月を見た当時の人たちは、とても、そんな気持ちにはなれなかったと推測されます。
人類史上初の月面着陸という衝撃的なニュースが、時が経つと共に埋もれていき、再び月が従来の価値観を取り戻したのが、2000年代のようです。
1970年は、「月」は0%だった
アポロ11号が理由だと判断する理由は、翌1970年のヒット曲の歌詞に「月」が全く登場しなかった事も挙げられます。
1960年から2018年までで集計してますが、毎年、主なヒット曲の何曲かには必ず「月」が用いられていました。
0%になった年は1970年だけでした。
翌年には加藤登紀子さんや森繁久弥さんの歌った「知床旅情」がヒットしますが、この作品も元々1965年に製作された作品です。そのため、1971年も0%と言っても良いのかも知れません。
アポロ11号が月面着陸した以降、しばらくはヒット曲の歌詞に「月」が登場しなくなったのは間違いありません。
あとがき
歌詞に登場する単語の抽出には、「MeCab」を使用しています。デフォルトの設定のまま使用していますので、「月日」や「五月雨」という単語が入っていると、「月」を使用されている、と認識された状態のデータですので、参考程度のデータと思っていただけたらと思います。
参考資料
「you大樹」オリコン
『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社
『レコードマンスリー』日本レコード振興
「形態素解析システム MeCab」京都大学情報学研究科−日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所 共同研究ユニットプロジェクト