ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。誤字はちょっとずつ修正します。

「六本木~GIROPPON~」鼠先輩(平成20年)

流行時期(いつ流行った?)

 鼠先輩さんの「六本木~GIROPPON~」は、平成20年(2008年)にヒットしました。

 

 オリコンランキングによると6月中旬に発売されたシングルCDは、初登場と同時に最高順位を記録しています。ベストテン入りはしていません。

 

 CDより先に音楽配信が開始されています。

 

 日本レコード協会の配信認定によると、4月9日に配信が開始された着うたフル(R)が、同年10月にプラチナ(25万ダウンロード以上)を達成されています。

 

<レコチョク・月間ランキング推移>

年月 順位
平成20年06月 17位
平成20年07月 17位
平成20年08月 18位
平成20年09月 23位
平成20年10月 37位
平成20年11月 99位

 

 配信でも6月に突然人気を集めていますが、ヒットしたきっかけは全く分かりません。

 

 


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注)UNIVERSAL MUSIC JAPAN 確認済みの動画

 

 

 ・・・歌謡曲調のコミックソングは、どうして良いメロディが多いのでしょう。

 

 

"言葉の繰り返し"の限界に挑戦

 言うまでもなく「六本木~GIROPPON~」の個性は、何度も繰り返され続ける"ぽっぽ"です。

 

 「一体、何度繰り返すのか?」。カウントする気持ちも失せ、教えてもらっても「ああ、そうですか」と思うくらいのしつこさです。

 

 しかし、「面白い!」と感じるのが不思議です。

 

 

 "同じ事を何度も繰り返す事で笑いを誘う"というテクニックは、エンターテイメントの世界では有名なようです。天丼と名付けられている技術のようです。

 

 ヒット曲の世界でも、歌の世界に引き込む作詞の技として"繰り返し"を採用した作品は存在しますが、名も無い作詞法のようです。

 

 私は歌と笑いは両立しない派ですが、天丼を取り入れた「六本木~GIROPPON~」は、"笑い>音楽"を実現したヒット曲に名を刻んだ作品と感じます。

 

 作品がヒットした理由のひとつにもなっていると思います。

 

 

 "天丼"で思い付くのは、「昔、月亭可朝さんが『ほんまにほんまでっせ』だけ言い続けて高座の出番をやってのけた」という話です。

 

 何のTV番組で話されていたのか覚えていませんが、「その高座では、最初はお客さんもいぶかしんでいたんですけど、だんだんバカらしさが面白くなって来たんでしょうね、最終的にとてもウケてました(笑)。」とおっしゃられていました。

 

 

"繰り返し"はヒット曲の世界でも

 歌の世界でも"同じ言葉を繰り返すテクニック"は存在します。お笑いと違いテクニックに名称は無いようです。

 

 ヒット曲の場合は"歌唱が始まった時点でいきなり数回繰り返す"という手法で用いられます。聴き手にインパクトを与える演出と思います。

 

 調べきれていませんが、印象に残っているのは2回繰り返す作品です。

 

 "徐州、徐州と・・・"(「麦と兵隊」(1938年))や、"利根ーーのー、利根の"(「大利根無情」(1959年))が思い浮かびます。

 

 

 2回は文学的に許容範囲のようです。名句を詠んだ歌人の"松島や"のように、3回繰り返すとやや話題になり始めます。

 

 ヒット曲で3回繰り返したのは、”泣けた”や"惚れて"の「別れの一本杉」(1955年発売)、「哀愁列車」(1956年発売)です。

 

 1960年代に、歌い出しではなく曲の途中で"汽笛が"を3回繰り返す「涙の連絡船」(1966年)が登場します。

 

 3回がギリギリOKと思います。

 

 これ以降、インパクトを与えるために何度も繰り返す手法が目立ち始めます。1960年代末の「あなたのブルース」(1968年)や1970年代の飛んで回る「夢想花」(1978年)。

 

 「夢想花」は後世に面白おかしく語られている印象があります・・・。この作品ではヘミオラというテクニックが用いられているようです。

 

 

 繰り返しは他にも手法があります。

 

 歌詞が七五調だった時代には、例えば『あすは火曜日、火曜日あすは』のような繰り返しがあったような気がします。

 

 

繰り返しはアリかナシか

 繰り返しの限界に挑戦された「六本木~GIROPPON~」は、個人的に画期的な作品と思います。

 

 曲の前半は普通に心情が語られ、後半から謎の"ぽっぽ"が始まります。

 

 言葉に出来ないけど抑えられない感情が暴発した、という事を表現したのでしょうか。

 

 曲の終盤に"ぽっぽ"でフェードアウトして「やっと終わった~」と思わせてからのフェードインはずるいです。しつこすぎて、さすがに笑ってしまいました。

 

 

曲情報

 品番:UPCH-5544

 発売日:08.6.18

 

 1

  「六本木~GIROPPON~」

  作詞:松嶋重

  作曲:松嶋重、古閑慎太郎

  編曲:堀田健志

 

 2

  「みずかけ論」

  作詞:松嶋重

  作曲:松嶋重、古閑慎太郎

  編曲:堀田健志

 

 3

  「六本木~GIROPPON~(オリジナルカラオケバージョン)」

 

 4

  「みずかけ論(オリジナルカラオケバージョン)」

 

 

 六本木~GIROPPON~

  エレキギター:榊原秀樹

  ギターソロ:古閑慎太郎

  キーボード、プログラミング:堀田健志

  コーラス:松島重、滝沢乃南

  コーラスアレンジ:田中翔悟

 

 みずかけ論

  キーボード、プログラミング:堀田健志

  チェロ:古川淑恵

  コーラス:松島重

  コーラスアレンジ:田中翔悟

 

 

  エグゼクティブプロデューサー:松島重(C to X)

  アーティストマネージメント:古閑慎太郎

  ミキシングエンジニア:柏木稔(C to X)

  レコーディングサポート:田中翔悟(C to X)

 

  レコーディング&ミキシング @C to X soundstudio

 

  A&Rディレクター:青木良輔(ユニバーサルJ)

  プロダクトマネージャー:池田安寿(ユニバーサルJ)

  セールスプロモーター:平野哲男(ユニバーサルJ)

 

  スーパーバイザー:後藤知義(五百十)

 

  デザイン:澤山卓也

  写真:原章

  ヘアメイク:フクヤマヒロシ

  スタイリング:松島重(C to X)、野本巧

  アートワークコーディネイション:下前信喜(FELLOW SHIP)

 

  スペシャルサンクス:

  表面上の私の友人たち、ファンクラブの皆様、全M男、

  そして御年鼠年と私を盛り上げて下さったユニバーサルミュージックの皆様

 

  美馬鈴香(club MEMORY)、松本和彦、多賀谷樹、

  たけだしんいち、サトル佐山、野本さん、M性感ビーチクボーイズ、バーバー暁、De+LAX、ERF、占い師の赤城龍さん、Ray

  

参考資料

 「六本木~GIROPPON~」CDジャケット

 「レコチョク」Webサイト

 「you大樹」オリコン

 『歌謡曲の構造』小泉文夫

ヒット曲の歌詞分析~「正しさ」(2020年代)

コロナ禍が助長?多く歌われる「正しさ」

 2020年代のヒット曲を聴いていて気になる単語が"正しさ"です。他の年代に比べて登場する機会が多いと感じます。

 

 「水平線」(2021)で歌われるように、"正しさは別の正しさと衝突"します。

 

 そのため、あえて主張するものではなく、ヒット曲にはあまり登場しない単語です。

 

 

 長期間のパンデミックが続く特殊な2020年代では、アーティストも"触れざるを得ないテーマ"となっているのでは?と解釈しています。

 

 外出時にマスク着用する事、医療従事者を讃える事、ロックダウンを実行する事、ワクチンを接種する事。疫病まん延の責任は行政にあるのかどうか?など、イエスかノーかで尋ねられると困る質問ばかり。

 

 誰もが納得できない時代。個人的に「正しくなれない」(2020年)が時代を反映した作品と思います。

 

 コロナ禍にヒットした作品では「香水」「ドライフラワー」など、"失った過去の恋愛を振り返る心情"が支持されています。

 

 "何も奪われていない(失っていない)"という視点が含まれる歌詞は「正しくなれない」と「感電」しか思いつきません。

 

 


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注)ずっと真夜中でいいのに。ZUTOMAYO 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

疑う余地を与えなかった「正しさ」

 「正しさ(正義)=善」というイメージを持っている方は多いと思います。私自身もそう思っていますが、これが価値観の対立を生じさせると感じます。

 

 正義の対義語は悪ではなく不義で、それが善か悪かは別の話のようですね・・・(>_<)。

 

 

 ヒット曲は昭和からしか歴史がありませんが、「正しさ=善」の価値観で登場します。

 

 戦時中に登場します。

 

 国家総動員法で国民生活が制限されはじめた時代に発売された「愛国行進曲」(1938年)、「出征兵士を送る歌 」(1939年)、「紀元二千六百年」(1940年)などに登場します。

 

 いずれも民間ではなく国策で歌詞が募集された作品です。

 

    当時の軍事政権が、「国のため、アジアのために他国と戦争を行う事は正しい」という思想を広めるために企画したのだと思います。

 

 2022年のウクライナ侵攻の報道を見ると、戦時中の日本を想像してしまいます。

 

 

テレビまんがで支持された"正義の味方"

 戦後に登場する「正しい」はテレビアニメからです。

 

 「正しい=善」から生まれたであろう”正義の味方”です。

 

 「月光仮面は誰でしょう」(1958年)や「エイトマン」(1963年)、「オバケのQ太郎」(1965年)で登場します。

 

 アニメ主人公はヒーロー。オバQは威勢を張っているだけでしょうが、「正しい=善」、憧れの存在という価値観も窺えます。

 

 「鉄腕アトム主題歌」(1964年)には"正義の味方"は登場しませんが、”心が正しい”と歌われています。

 

 『鉄腕アトム』は人間の誤った行いに葛藤する姿も描かれる作品ですので、わざと"正義の味方"という表現を避けたのかも知れません。

 

 

ヒット曲ではほぼ登場せず

 戦後から1970年代のヒット曲には「正しさ(正義)」はほとんど登場しません。村田英雄さんの「柔道一代」(1963年)でのみ登場します。

 

 もともと戦時下にしか登場しなかった言葉なので、正常に戻ったと言えます。

 

 

 次に"正しさ"が登場するのは、"清く正しく"の「なんてったってアイドル」(1985年)です。

 

 "カワイイは正義"に通じる価値観かも知れません。

 

    "カワイイ>正義"の価値観で、ヒーローに対する憧れの心理は失われ、面白おかしく表現され始めます。

 

 この価値観は「勇気のしるし」(1990年)でも感じる事が出来ます。

 

 

「正しさ=善」を切り離したのは中島みゆきさん?

 「正しさ」を疑う事が表面化するのは1990年代です。「情けねぇ」(1991年)が先駆けと思います。

 

 1980年代に「みんなが流行りを真似するのってどうなんだろう?」と風刺する「ミス・ブランニューデイ」(1984年)や「マリオネット」(1987年)がヒットしますが、「それは正しくないのでは?」という言葉では表現されていません。

 

 疑念を抱かず信じられていた「正しさ」に物申す事が恐れ多かったからだと思います。(「じゃあ正しさって何!」と返って来る事が容易に想像できます・・・(^^;A。)

 

 

 「正しさ」の問題提起に成功されたのは中島みゆきさんと思います。

 

 歌詞に登場しないものの、"君のためなら悪い側になる"と歌う「空と君のあいだに」(1994年)や、"西と東でそれぞれの正しさを持っている"と歌う「旅人のうた」(1995年)がヒットします。

 

 【正義】の背後に存在する【正しさ=善】を切り離し、"「正しさ」の定義は人によって違う事"、"それぞれに正しさが存在する事"を歌詞にして支持を得る事ができたのは、中島みゆきさんの功績と感じます。

 

 「情けねぇ」でも感じますが、1990年代では"正しさが人によって異なる事"を"時代や社会のせいにする"という視点が目立ちます。

 

 まだ「正しい=善」の価値観に囚われる事が一般的だったのかも知れません。

 

 

2000年代以降の「正しさ」

 「正しさ」は2000年代には再び姿を消し始め、再び正常に戻ります。

 

 調査が追い付いていませんが、「Dragon Night」(2015年)や「不協和音」(2017年)と、2010年代中頃から「正しさ」と「善」を切り離した価値観が一般化し始めているようです。

 

 ・・・などとモヤモヤ考えています。ありがとうございました。 

ヒット曲の歌詞分析~「受話器」

1980年代に初登場

 特定の時代に、歌詞でもてはやされた単語を調べていますが、1980年代に目立つ印象があります。

 

 以前に取り上げた"ララバイ"は80年代特有の単語ですが、今回テーマにした“受話器”も1980年代に初登場しています。

 

 電話にまつわる単語(電話、ベル、テレフォン、ダイヤル等々)は、もっと以前から登場します。

 

 おそらく「受話器」を歌詞に用いたヒット曲は、中島みゆきさんの「悪女」(1981)が最初です。

 

 携帯電話・スマートフォンが普及した事で、2000年代以降は耳にする機会が減少した単語です。

 

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上図で浮き上がっているのが「受話器」。 (いらすとや「ベルが鳴る電話のイラスト」)

 

 

<歌詞に「受話器」が登場する主なヒット曲>

曲名 歌手名
1981 悪女 中島みゆき
1982 心の色 中村雅俊
1984 お久しぶりね 小柳ルミ子
1985 あなたを・もっと・知りたくて 薬師丸ひろ子
1987 バラードのように眠れ 少年隊
1990 告白 竹内まりや
1992 愛のWAVE カールスモーキー石井・松任谷由実
1995 TRY ME~私を信じて~ 安室奈美恵 with SUPER MONKEY'S
1996 幸せになりたい 内田有紀
1997 Shapes Of Love Every Little Thing
1998 長い間 Kiroro
1998 きっと どこかで TUBE
1999 Automatic 宇多田ヒカル

 

 

“ダイヤル”と“受話器”の違い

 自分の想いを伝えようとして回すダイヤルは、登場人物の意志・勇気が描かれます。

 

 掛けるけど切る、掛けようとして止める。「明日があるさ」(1964)、「恋のダイヤル6700」(1974)、「恋におちて」(1985)、「Diamonds」(1989)で描かれる心理です。

 

 ダイヤル=自分で、どちらかと言うと明るい単語です。

 

 

 一方、通話中に握り続ける受話器が登場する作品は、相手の話を聴き、想いを察する場面で用いられます。

 

 受話器=通話相手になります。

 

 そして、相手の表情が見えない電話では、別れ・すれ違いといった悲しい場面が描かれる事が多いと感じます。

 

 歌詞に“受話器”は登場しませんが、「青春アミーゴ」(2005)も同様の心理状態を描いているように感じます。

 

 声だけで情報が不足しがちなコミュニケーションが、お互いの気持ちのズレを暗に例えており、悲しい話が聴こえて来る受話器が、別れの象徴として認識され始めたのかも知れません。

 

 


お久しぶりね # 小柳ルミ子

注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 Watanabe Music Publishing Co .,ltd.(WARNER MUSIC JAPAN INC. の代理); Muserk Rights Management、その他 6 件の楽曲著作権管理団体

 

 

 

1980年代以降、電話は一家に複数台の時代?

 受話器は1980年代に入ってから流行し始めた単語です。それだけ日常生活になじんだ事を示していると推測されます。

 

 もしかすると、電話は一家に一台の時代では無くなっていたかも知れません。

 

 「あなたを・もっと・知りたくて」、「Automatic」では、想いを寄せている人とのつながりを電話で表現する作品もヒットしています。

 

 …話しながら眠ってしまうなんて、親に怒られそうな状況です(^^;A。

 

 


あなたを・もっと・知りたくて/薬師丸ひろ子

注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 UMG(Universal Music LLC の代理); Muserk Rights Management、その他 4 件の楽曲著作権管理団体

 

 

 


宇多田ヒカル - Automatic

注)Hikaru Utada 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

あとがき

 歌詞分析はデータを集めるのに時間がかかっています。また面白い事が見つかれば取り上げる予定です。

 

 

参考文献

 『近代日本の心情の歴史ー流行歌の社会心理士』見田宗介

 「形態素解析システム MeCab」京都大学情報学研究科−日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所 共同研究ユニットプロジェクト

ヒット曲の歌詞分析~「明日(あす、あした)」はどう歌われて来た?

年代別で見る「明日」

 どの年代でも、歌詞に「明日」が用いられる作品がヒットしています。

 

 下図は、1960年代から2010年代の主なヒット曲で、「明日」が用いられた作品数の割合です。

 

 おそよ3500作品のうち、600作品ほどの歌詞に「明日」が登場しています。

 

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 グラフでは目に見えて特殊な数値は見受けられませんが、1960年代は1割ちかく(9.7%)のヒット曲に用いられています。

 

 「全体の1割近く」は、意識して聴いていなくても「なんとなく多いなぁ。」と感じる割合と感じます。

 1960年代以降、登場する頻度は少なくなり、2000年代以降は1960年代の半分以下(3~4%)になります。

 

 

ポジティブな「明日」、ネガティブな「明日」

 「明日」は、これまでに取り上げてきたキーワードと異なります。時々の感情によって、プラスにもマイナスにもなる言葉です。

 

 例えば、“明日に向かって歩き出そう”や“明日を信じる”、“きっと明日は”という表現は、明日に対して希望を持つ、登場人物の前向きな心理を感じます。

 

 反対に、"明日が見えない(明日がない)"や"明日を占う"、“明日はひとり”という表現では、登場人物が不安を抱いている事を示しているように感じます。

 

 この視点で、心情を分類すると下図のようになります。

 

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 どの年代でも前向きな心情で捉えていると考えていましたが、意外と1970年代はマイナスの意味合いで用いられているようです。

 

 黄色のフラットは、「明日」に対してプラスでもマイナスでもない心情が描かれていると判断される作品です。”「明日」に対して特別な感情は無く、何とも思わない”と歌う作品です。

 

 不明は、プラスかマイナスか分類できない作品です。このタイプの作品は「明日」を、“もし明日世界が終わるとしても”という例え話で用いたり、"今が良ければ明日はいらない"と、比較のために用いる心理表現がされている作品です。

 

 

 それでは、「明日」はどう歌われて来たかを、年代別に見ていこうと思います。

 

 

1960年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~1960年代>

曲名 歌手名
北帰行 小林旭 1961
出世街道 畠山みどり 1963
ヘイ・ポーラ 梓みちよ、田辺靖雄 1963
美しい十代 三田明 1963
明日があるさ 坂本九 1964
さすらい 克美しげる 1964
恋をするなら 橋幸夫 1964
君といつまでも 加山雄三 1966
今夜は踊ろう 荒木一郎 1967
ラブユー東京 ロスプリモス 1967
悲しくてやりきれない ザ・フォーク・クルセダーズ 1968
グッド・ナイト・ベイビー ザ・キング・トーンズ 1969
三百六十五歩のマーチ 水前寺清子 1969
港町ブルース 森進一 1969
いいじゃないの幸せならば 佐良直美 1969

 

 若い世代の作品で、「明日」に対して希望を持つ主人公が多く登場しています。

 

 友達や恋人同士の会話で、”また明日”や”明日も会おう”という表現が目立ちます。日常生活で用いられる一日の最後の別れの言葉で、“今日も楽しかった”と感じている事もうかがえます。

 

 明日に対して不安を感じる心情が若者によって表現されたのは1960年代後半のフォーク・ソングがブームになった時期です。

 ザ・フォーク・クルセダーズさんの「悲しくてやりきれない」(1968年)が初めてかも知れません。

 

 この年代で「明日」をネガティブに捉えている作品には、”さすらう”という表現が目立ちます。「北帰行」のように”自分は明日どこにいるだろうか”と、自らの境遇の不安定さを表現する際に用いられています。

 

 「出世街道」のように、”明日もつらいだろうけど立ち向かおう”という、主人公の勇気が感じられる作品も登場しています。

 

 

1970年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~1970年代>

曲名 歌手名
京都の恋 渚ゆう子 1970
手紙 由紀さおり 1970
圭子の夢は夜ひらく 藤圭子 1970
希望 岸洋子 1970
瀬戸の花嫁 小柳ルミ子 1972
心の旅 チューリップ 1973
恋のダイヤル6700 フィンガー5 1974
追憶 沢田研二 1974
心のこり 細川たかし 1975
22才の別れ 1975
センチメンタル 岩崎宏美 1975
憎みきれないろくでなし 沢田研二 1977
あずさ2号 狩人 1977
サクセス ダウン・タウン・ブギウギ・バンド 1977
みちづれ 牧村三枝子 1979
カリフォルニア・コネクション 水谷豊 1979
HERO(ヒーローになる時,それは今) 甲斐バンド 1979

 

 この年代で最も多い表現は、”明日には別れる(旅に出る)”という心情を歌う作品です。

  「北国行きで」「心の旅」「心のこり」「あずさ2号」等、1970年代のキーワードである【旅】と結びつき、別れを描く作品で「明日」が多用される事になります。

 

 1970年代がマイナスの意味で「明日」を用いた作品が多いのはこの影響と考えます。

 

 「瀬戸の花嫁」「恋のダイヤル6700」のように、別れを迎えながらも前向きに希望や勇気を表現する作品もあります。 

 

 1970年代は、後半で「明日」の表現が多様化していると感じます。「憎みきれないろくでなし」のように、明日に特別に意味を持たせない表現が登場しています。

 

 また、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドさんの「サクセス」(1977年)では、”昨日と今日、今日と明日では印象が変わる、気まぐれな女性の心理”を描くために「明日」が用いられています。

 化粧品メーカーのCMソングで、女性の魅力を表現するために登場した新しい表現と感じます。

 

 

1980年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~1980年代>

曲名 歌手名
大都会 クリスタルキング 1980
唇よ、熱く君を語れ 渡辺真知子 1980
セクシー・ナイト 三原順子 1980
キッスは目にして! ザ・ヴィーナス 1981
チェリーブラッサム 松田聖子 1981
みちのくひとり旅 山本譲二 1982
ハイティーン・ブギ 近藤真彦 1982
すみれSeptember Love 一風堂 1982
さざんかの宿 大川栄策 1983
矢切の渡し 細川たかし 1983
トワイライト 中森明菜 1983
長良川艶歌 五木ひろし 1984
もしも明日が…。 わらべ 1984
六本木心中 アン・ルイス 1985
今だから 松任谷由実・小田和正・財津和夫 1985
My Revolution 渡辺美里 1986
時の流れに身をまかせ テレサ・テン 1987
Get Wild TM NETWORK 1987
輝きながら… 徳永英明 1987
乾杯 長渕剛 1988
祝い酒 坂本冬美 1988
MUGO・ん…色っぽい 工藤静香 1988
DAYBREAK 男闘呼組 1988
瞳がほほえむから 今井美樹 1989
ANNIVERSARY 松任谷由実 1989
GLORIA ZIGGY 1989

 

  1980年代前半には、若者向けの作品でも、”今が良ければ明日はいらない”と歌う「セクシー・ナイト」「キッスは目にして!」が登場します。

 「さざんかの宿」でも登場する心理表現で、ひとときの幸福に夢中になっている事を示すために「明日」が用いられています。

 

 アイドルポップスや演歌・歌謡曲作品では、従来通りの「明日」の表現が用いられています。

 

 この年代の後半に、「My Revolution」「輝きながら・・・」と、”勇気を出して明日に向かう”心理描写が支持されているように感じます。

 

 おそらく「Get Wild」で歌われる、明日に対して不安を抱きながらも、自らの意思で踏み出そうという心理で表現されていると推測されます。

 

 

1990年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~1990年代>

曲名 歌手名
夢を信じて 徳永英明 1990
にちようび JITTERIN’JINN 1990
愛は勝つ KAN 1991
ラブ・ストーリーは突然に 小田和正 1991
こころ酒 藤あや子 1993
寒い夜だから… TRF 1994
Tomorrow never knows Mr.Children 1994
春よ、来い 松任谷由実 1994
TOMORROW 岡本真夜 1995
WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント H Jungle With t 1995
奇跡の地球 桑田佳祐&Mr.Children 1995
BODY&SOUL SPEED 1996
DEPARTURES globe 1996
JAM THE YELLOW MONKEY 1996
WHITE BREATH T.M.Revolution 1997
愛されるより 愛したい KinKi Kids 1997
幸せな結末 大滝詠一 1997
夜空ノムコウ SMAP 1998
snow drop ラルク・アン・シエル 1998
つつみ込むように… Misia 1998
誘惑 GLAY 1998
Face the change Every Little Thing 1998
あの紙ヒコーキ くもり空わって 19 1999
HEAVEN 福山雅治 1999
Garden Sugar Soul feat.Kenji 1999
ラストチャンス サムシング・エルス 1999
Boys&Girls 浜崎あゆみ 1999
A・RA・SHI 1999
First Love 宇多田ヒカル 1999

 

 この年代は前半では、明快に「明日」に対して希望を抱く表現が目立ちます。

 

 主人公の前向きさを感じる作品が多い年代ですが、1990年代後半になると、”明日は来ないもの”という前提で、それでも探し出そうとする心情が描かれているように感じます。

 

 若者の作品で”明日が見えない”という表現が目立ちますが、この年代のキーワードとなる【時代】と組み合わさって、「明日」が用いられているようです。

 

 同じ事を繰り返しているような毎日から抜け出すための「明日」、満たされていない現状を変えようとする心理を表現した作品が登場しています。

 

 英語表記が多い年代で、タイトルに「Tomorrow」を用いた作品が登場しています。

 

 

2000年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~2000年代>

曲名 歌手名
楽園 平井堅 2000
SEASONS 浜崎あゆみ 2000
愛情 小柳ゆき 2000
ギブス 椎名林檎 2000
if... DA PUMP 2000
PIECES OF A DREAM CHEMISTRY 2001
天体観測 BUMP OF CHICKEN 2001
明日があるさ ウルフルズ 2001
fragile Every Little Thing 2001
二人のアカボシ キンモクセイ 2002
Life goes on Dragon Ash 2002
もらい泣き 一青窈 2002
鳥取砂丘 水森かおり 2003
明日への扉 I WiSH 2003
青いベンチ サスケ 2004
ケツメイシ 2004
やさしいキスをして DREAMS COME TRUE 2004
ツバサ アンダーグラフ 2005
Dreamland BENNIE K 2005
NO MORE CRY D-51 2005
SMILY 大塚愛 2005
何度でも DREAMS COME TRUE 2005
マタアイマショウ SEAMO 2006
タイヨウのうた Kaoru Amane 2006
WINDING ROAD 絢香×コブクロ 2007
中孝介 2007
キセキ GReeeeN 2008
手紙 ~拝啓 十五の君へ~ アンジェラ・アキ 2008
羞恥心 羞恥心 2008
One Love 2008
海雪 ジェロ 2008
Aqua Timez 2008
Ti Amo EXILE 2008
YELL いきものがかり 2009
明日がくるなら JUJU with JAY'ED JUJU 2009

 

 歌詞に「明日」を用いる作品が少ない年代ですが、タイトルに用いた作品が多く、「明日」が主題となるヒット曲が多いように感じます。

 

 この年代に登場した新しい表現は、未来を”あした”、明日を”みらい”と読む事です。EXILEさんの「Ti Amo」いきものがかりさんの「SAKURA」が該当します。

 

 ”明日=未来”という価値観は1980年代から登場し始めましたが、この年代で定着しているように感じます。

 歌詞に「明日」が登場する作品のなかで、「未来」も登場する作品の割合が増えています(下図)。

 

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2010年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~2010年代>

曲名 歌手名
あとひとつ FUNKY MONKEY BABYS 2010
マル・マル・モリ・モリ! 薫と友樹、たまにムック。 2011
家族になろうよ 福山雅治 2011
Sexy Zone Sexy Zone 2011
恋するフォーチュンクッキー AKB48 2013
峠越え 福田こうへい 2014
シュガーソングとビターステップ UNISON SQUARE GARDEN 2015
もしも運命の人がいるのなら 西野カナ 2015
私以外私じゃないの ゲスの極み乙女。 2015
ラピスラズリ 藍井エイル 2015
Beautiful Superfly 2015
麦の唄 中島みゆき 2015
なんでもないや (movie ver.) RADWIMPS 2016
四万十川 三山ひろし 2016
みんながみんな英雄 (フルバージョン) AI 2016
アンサー BUMP OF CHICKEN 2016
やってみよう WANIMA 2017
HANABI Mr.Children 2017
明日も SHISHAMO 2017
LOSER 米津玄師 2018
ともに WANIMA 2018
恋町カウンター 竹島宏 2018
パプリカ Foorin 2019
白日 KingGnu 2019
君を待ってる King & Prince 2019
高遠 さくら路 水森かおり 2019
大丈夫 氷川きよし 2019
HAPPY BIRTHDAY back number 2019
雪恋華 市川由紀乃 2019
兵、走る B'z 2019

 

 この年代では、「明日」を前向きに捉えた作品のなかで、積極的に行動を起こそうとする描写が多いように感じます。 

 「家族になろうよ」のように、今日明日ですぐに変われないとしても自分を変える事ができるように頑張ろうという表現が印象に残ります。

 

 また、子供が歌う「マル・マル・モリ・モリ!」「パプリカ」で、”明日は晴れるのかな?”と、希望を抱くフレーズが用いられているのも印象的です。

 

 

 

あとがき

 歌詞分析の方法は、あまり良く分かっていません…(^_^;A。

 

 ヒット曲の歌詞は、聴き取れなかったり、聞き間違えて覚える事はよくある話ですので、歌詞を読むような事はせず、雰囲気で調べています。

 

 歌詞分析は調査にかなり時間がかかりますが、興味深いテーマです。いろいろ試行錯誤して新たな発見が出来ればと思います♪

 

 大変長々と失礼いたしましたm(_ _)m。

 

 

参考資料

 対象曲数  3568曲

 サンプル数   638曲

 

 『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社

 『レコードマンスリー』日本レコード振興

 「you大樹」オリコン

 「mora ~WALKMAN®公式ミュージックストア~」Webサイト

ヒット曲の歌詞分析~「時代」が多用された時期

1990年代中期~2000年に好まれたフレーズ

 歌詞の中で“時代”が登場する作品は、1990年代中頃~2000年に目立ちます。

 

 「学生時代」「青春時代」「同棲時代」「少年時代」のように、自分自身の人生のなかの季節で用いるのではなく、自分が生きている世の中を「時代」と表現する作品が多く見受けられます。

 

 20世紀から21世紀、1900年代から2000年代と、視覚でも明確な線引きを感じられた事が理由かも知れません。特に、ミレニアムと言われた千年単位の変化は心理に与える影響が大きかったのかも知れません。

 

 その時がやってくるのを待つしかない1990年代には、世紀末を思わせる価値観として「時代」が用いられています。

 1990年代の前半には見かけない価値観です。

 

 主なヒット曲で「時代」を用いた作品は下記の通りです。どうも自分が生きる時代を良い時代であると捉えていない価値観がうかがえます。

 

<歌詞に「時代」が登場する主なヒット曲>

曲名 歌手名 表現
1995 【es】~Theme of es~ Mr.Children 何が起こってもおかしくない時代
1996 マシンガンをぶっ放せ-Mr.Children Bootleg- Mr.Children 正義も悪もない時代
1997 WHITE BREATH T.M.Revolution こんなに寒い時代
1998 つつみ込むように… Misia 誰も満たされぬ時代
1998 BE WITH YOU GLAY 癒されない時代
1999 Garden Sugar Soul feat.Kenji 空気も蝕まれそうな時代
1999 A・RA・SHI 悲惨な時代
2000 楽園 平井堅 壊れ逝く時代
2000 SEASONS 浜崎あゆみ 不自然な時代

 

 

 もちろん、KinKi Kidsさんの「硝子の少年」CHEMISTRYさんの「PIECES OF A DREAM」のように、“時代”を自分の人生の季節として用いている場合もあります。

 

 しかし、当時のヒット曲を聴いた印象では、上記の価値観を聴き手に連想させる作品が多い気がします。

 時代という単語は登場しませんが、鬼束ちひろさんの「月光」も、自らの境遇を嘆く悲観的な心理は、時代をネガティブに捉える価値観に共通しているように感じます。

 

 

なぜ、“こんな時代”と思うのか?

 理由は、テレビが発信する情報です。上記の表のなかでは、「マシンガンをぶっ放せ-Mr.Children Bootleg-」や「A・RA・SHI」で歌われています。

 

 その、テレビに依存する心理?が描かれている作品もいくつかあります。

 

<テレビを連想させる表現のあるヒット曲> 

曲名 歌手名
1996 ら・ら・ら 大黒摩季
1996 JAM THE YELLOW MONKEY
1999 サバイバル GLAY
2000 ナンダカンダ 藤井隆
2002 宇多田ヒカル
2002 もらい泣き 一青窈

 

 この中で最もインパクトのある表現をしているのは、THE YELLOW MONKEYさんの「JAM」と思います。単に自らの孤独を紛らすためにテレビを点けるのではなく、流れてくる情報が加工された内容である事を理解した上で葛藤する心理が表現されているからです。

 

 この時代は、なぜかテレビもあまりいい印象で表現されていません。

 

 携帯電話、Windowsのパソコン(インターネット)という新たな電子機器がコミュニケーションツールとして誕生した時代で、若い世代でも、たまごっちがブームになるくらい電子機器に対する好奇心はありながらも、それを通した触れ合いに対しては、心のどこかで抵抗を感じていたのかも知れません。

 

 

 また、この時代の表現では、"欲しいものがたくさんある"とか、“本当に欲しいものは無い”といった価値観も登場します。この心理表現も、時代をネガティブに捉えた表現と考えています。

 

 "~して欲しい"という表現は昔から存在しますが、“自らの欲望”という意味を帯びた表現に感じるからです。こちらは別の機会に、考えようと思います。

ヒット曲の歌詞分析~「ララバイ」が多用された時代

1980年代に好まれたフレーズ

 「愛」や「恋」、「夢」と言った単語は、どの時代のヒット曲の歌詞にも登場します。しかし、【特定の時期だけ、頻繁に登場する言葉】も存在します。

 

 例えば、1980年代に頻繁に登場した「ララバイ」があります。当時をご存知の方であれば、「ヒット曲でよく登場する言葉」と認識されている事と思います。

 

 歌詞に「ララバイ」が用いられた作品数の推移は下図の通りです。

 

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 1970年代は、中原理恵さんの「東京ららばい」(1978年・昭和53年)のみです。

 それが1980年代になると、突然、登場する曲数が伸びています。そして、後の年代では0%になっています。

 

※ヒット曲の基準を、ヒットチャートの売上や最高順位だけでなく、ランクインした週数等も考慮しています。このフィルタによって、もしかした対象外になっている曲もあるかもしれません。

 

<歌詞に「ララバイ」が使用された曲一覧>

曲名 歌手名 ヒットした年
東京ららばい 中原理恵 1978
サンセット・メモリー 杉村尚美 1981
ハイスクールララバイ イモ欽トリオ 1981
心の色 中村雅俊 1982
ギザギザハートの子守唄 チェッカーズ 1984
サヨナラは八月のララバイ 吉川晃司 1984

 

 「ララバイ」は1980年代に頻出したと言っても、1981年~1984年の数年間の間だけ人気となったフレーズのようです。

 

 一時期にもてはやされて、それ以外の時代では誰も振り向かなかった言葉といえます。このように表現すると、流行語に近い存在かも知れません。

 

「ララバイ」=「子守唄(子守歌)」の歴史

 「ララバイ」は英語、日本語でいう「子守唄(子守歌)」です。

 

 “英語を用いる事で何が変わるの?”という話ですが、「ララバイ」と「子守唄」の違いは、心を静める対象が、“赤ちゃん(赤ん坊)が対象になっているのか、赤ちゃん以外の人物が対象になっているのか?” の違いであると考えます。

 

 子守唄というと歴史は古く、赤い鳥さんの「竹田の子守唄」(1971年・昭和46年)のように、他人の赤ん坊を世話しないといけない子守の心理が描かれる事が発祥です。

 

 流行歌の世界では、『母親があやす赤ちゃんを、何らかの事情があって男性がしなければならない境遇』というドラマで表現する作品が流行しました。

 

 東海林太郎(しょうじ たろう)さんの「赤城の子守唄」(1934年・昭和9年)や一節太郎さんの「浪曲子守唄」(1966年・昭和41年)などがヒットしました。

 

 戦前戦後で変わらない感情表現と捉えていますが、第二次世界大戦中の軍国主義の時代にも塩まさるさんの「軍国子守唄」(1937年・昭和12年)がヒットしています。

 

 戦後には、『実の母親が、我が子と離ればなれで暮らさないといけない』という状況を描いた白川奈美さんの「遠く離れて子守唄」(1971年・昭和46年) もヒットしています。

 

 上記の作品は全て歌う対象が赤ちゃんです。

 

 字面が原因でしょうが、「子守唄」と表現すると、どうしても対象が赤ちゃんになってしまいます。そのため、歌謡曲の世界では、“本当なら、我が子を抱っこして歌えるはずの子守唄を歌えない親の心理”が表現されがちでした。

 

 それを、ララバイと英語に置き換える事で、言葉の意味が聴き手にも拡大解釈されるようになったのではないか?と考えます。 

 

英語っぽくない響きの「ララバイ」

 もしも、言葉の響きがカッコよかったなら、1990年代に入ってもヒット曲で用いられていた事と思います。しかし、「ララバイ」という言葉の響きは、なぜか今時ではない感じがします。

 

 ラ(la)・ラ(la)・バ(ba)と、日本語に置き換えると、明確に発音するア段が3つ続くからでしょうか?

 なんとなく他の英単語に比べて、聴き手にとってはダサさを感じてしまいます。シュッとしていません。

 

 1980年代は、英単語や英文が歌詞に用いられ始めた時代ですが、言葉の響きのカッコ良さが重視されていたと思います。

 

 母音が明確に発音される「ララバイ」は、ちょっと時代が求める発音と一致していなかったのかも知れません。

 

 しかし、“傷ついた誰かを癒す”という意味合いで用いたヒット曲が支持されたので、この言葉の持つ役割は十分に果たされていると感じます。

 

 

当ブログの歌詞分析の視点について

 歌詞分析は、社会学者の見田宗介さんの『近代日本の心情の歴史―流行歌の社会心理史』(講談社学術文庫)のように、歌詞で表現される心情を解釈した上で、楽しい、悲しい、といった人間の本能的な感情に分類して集計を行うべきだと思います。

 

 しかし、その分析でアプローチをするには、とても時間が掛かります。そのため、当ブログでは、「特定の時代でしか支持されなかったフレーズ」を探して、歌詞分析をしようとしています。

 

参考文献

 『近代日本の心情の歴史ー流行歌の社会心理士』見田宗介

 「you大樹」オリコン

 『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社

 『レコードマンスリー』日本レコード振興

 「形態素解析システム MeCab」京都大学情報学研究科−日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所 共同研究ユニットプロジェクト

歌詞に「月」が登場しなくなった時代がありました…。

 歌詞に「月」が登場する作品数の移り変わり

 ヒット曲の歌詞には、誰が聴いても伝わる言葉が用いられていると感じます。

 

 多用される単語には、夢、今、心、涙、愛、恋、手、空・・・と色々挙げる事が出来ますが、今回は「月」について考えてみます。

 

 「月」も頻繁に登場する単語ですが、他の単語とは異なる特徴があります。

 

 

グラフでみる「月」の特徴

 主なヒット曲の歌詞で、“月”が登場した作品数の割合を、グラフにしてみました。

 

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 2010年代は現在進行形ですので、このグラフで減少している事に注目する必要はありません。

 CD売上だけで考えたグラフですので、この年代はサンプルとして抽出できる曲数が少なく、参考にならないからです。

 

 注目していただきたいのは、1960年代と1970年代の差です。8%台から2%台という小さな数字の世界の話ですが、突然、大幅に減少しているように感じます。

 

 その後、2000年代になって、ようやく1960年代と同じ水準に回復しているように見えます。

 

 2000年代に月を歌った作品と言えば、鬼束ちひろさんの「月光」(2000年)やB'zさんの「今夜月の見える丘に」(2000年)、柴崎コウさんの「かたちあるもの」(2004年)、ジャンヌダルクさんの「月光花」(2005年)、絢香さんの「三日月」(2006年)等が思い浮かびます。

 やはりタイトルに月を使用した作品が、印象に残っています。

 

 グラフで見ると、数パーセントの小さい数値の世界ですが、「そういえば、よく耳にする」という感覚を数値で表すと、このような感じになりました。

 

なぜ月が歌詞に登場しなくなったのか?

 理由は1つしかありません。1969年7月にアポロ11号が月面に着陸し、人類が初めて月の上を歩く映像が、テレビで放送されたからです。

 

 この出来事は、今まで月を見て、色々な想像していた人たちにとって、現実的な存在に変化してさせしまったと感じます。

 

 

 夜になると誰でも見える存在である月を見て、「私が今見てる月を、あの人も見てると思う」と描写する絢香さんの「三日月」が、月を題材にした作品のなかでも秀逸と感じます。

 

 月を通して、好きな人と気持ちが繋がっている事を信じる気持ちが文脈から表現されています。ただ月を見ているのではない登場人物の心情が少ない文字数で明確に表現されています。

 

 しかし、宇宙飛行士が足跡を付けた月を見た当時の人たちは、とても、そんな気持ちにはなれなかったと推測されます。

 

 人類史上初の月面着陸という衝撃的なニュースが、時が経つと共に埋もれていき、再び月が従来の価値観を取り戻したのが、2000年代のようです。

 

 

1970年は、「月」は0%だった

 アポロ11号が理由だと判断する理由は、翌1970年のヒット曲の歌詞に「月」が全く登場しなかった事も挙げられます。

 1960年から2018年までで集計してますが、毎年、主なヒット曲の何曲かには必ず「月」が用いられていました。 

 0%になった年は1970年だけでした。

 

 翌年には加藤登紀子さんや森繁久弥さんの歌った「知床旅情」がヒットしますが、この作品も元々1965年に製作された作品です。そのため、1971年も0%と言っても良いのかも知れません。

 

 アポロ11号が月面着陸した以降、しばらくはヒット曲の歌詞に「月」が登場しなくなったのは間違いありません。

 

 

あとがき

 歌詞に登場する単語の抽出には、「MeCab」を使用しています。デフォルトの設定のまま使用していますので、「月日」や「五月雨」という単語が入っていると、「月」を使用されている、と認識された状態のデータですので、参考程度のデータと思っていただけたらと思います。

 

 

参考資料

 「you大樹」オリコン

 『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社

 『レコードマンスリー』日本レコード振興

 「形態素解析システム MeCab」京都大学情報学研究科−日本電信電話株式会社コミュニケーション科学基礎研究所 共同研究ユニットプロジェクト

ヒット曲における喫煙率の推移(-。-)y-゜゜゜

歌詞にタバコが登場する歌の数

 歌は世につれ、という言葉を聴いた事がありますが、ヒット曲の歌詞に“煙草・タバコ、たばこ”が登場する作品の割合を調べてみたら、下表のようになりました。 


 下のグラフは曲数ではありません。「サンプルで抽出した全作品のうち、何作品にタバコが含まれているか?の割合」をグラフにしています。

 

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21世紀に姿を消したタバコ

 このグラフ、視覚的には「1990年代が最も高かったんだ!」と受け取ってしまいますが、 全体の1%が1.5%になったくらいの差ですので、大した違いではありません。

 

 このグラフで注目していただきたいのは、21世紀に入ってから、極端に登場する頻度が減少している事です。

 2010年代は、ついに0%になってしまいました。

 

歌詞での役割

 タバコの歌といえば、ダウンタウン・ブギウギ・バンドさんの「スモーキン・ブギ」(1974年・昭和49年)が真っ先に思い浮かぶのですが、別に1970年代も特異な値ではありませんでした。

 

 この年代は、男性の歌謡曲歌手の作品で、タバコを持つ姿がレコードジャケットの写真となっていた作品が多かった印象もあります。

  

 タバコと言えば、中条きよしさんの「うそ」(1974年・昭和49年)や、八代亜紀さんの「雨の慕情」(1980年・昭和55年)のように、登場人物の心情を、タバコを通して表現する詞が印象に残っています。

 

 主に演歌・歌謡曲のジャンルで用いられる頻度が高い作品なので、過去にさかのぼるほど、割合が多いと思っていましたが、そうでも無いようです。

 

 若い世代の作品でも煙草を扱った作品はありました。小坂恭子さんの「想い出まくら」(1975年・昭和50年)のように、恋人との思い出のエピソードの象徴として、用いられたりしていました。

 

 いしだあゆみさんの「ブルーライト・ヨコハマ」のように、恋人が好きなタバコの香り、と歌詞の一部に自然と用いられている作品もあります。

 

 

突然姿を消すタバコ 

 全体的な推移を見れば、年々タバコが歌詞に登場する機会に変化は無いように感じます。1999年にヒットした宇多田ヒカルさんの「First Love」が流行っていた時も、歌詞に登場するタバコに対して、特に違和感は覚えなかった記憶があります。

 しかし、2000年代に入った途端に、タバコが登場しなくなります。

 

 倖田來未さんの「夢のうた」(2006年・平成18年)が、今のところヒット曲でタバコが最後に登場した作品です。

 ※1970年代以降は、オリコンのCD売上ランキングのみで集計したグラフのため、音楽配信曲のヒット曲には存在するかもしれません。

 

 

 時代背景

 昭和から平成にかけて変化した価値観の代表に、“煙草(タバコ)・喫煙”と“お酒・飲酒”に対する許容があります。

 

 酒とタバコ、どちらも身体に害がある事が報道されるにつれて、有害なものというイメージが強くなったように感じます。

 

 特に煙草の場合は、喫煙者が吐いた煙、煙草から出る煙が、副流煙として他人にも害を与える存在である事から、お酒に比べて、地位の低下に拍車がかかったように感じます。

 

 昭和の頃は、電車でも灰皿が備え付けられた車両があり、新幹線や特急で無くてもタバコが吸えた時代がありました。

 私はその時代を知りませんが、電車のなかには、灰皿が前の座席のシートの背面に備え付けられた車輛があった事は記憶にあります。当時はすでに使えないようになっていましたが。

 

 それを考えると、同じものでも、時代によって見方が変わる世の中の価値観の変化は興味深いと感じます。

 

参考資料

 『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社

 『レコードマンスリー』日本レコード振興

 「you大樹」オリコン