ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。誤字はちょっとずつ修正します。

ヒット曲の歌詞分析~「明日(あす、あした)」はどう歌われて来た?

年代別で見る「明日」

 どの年代でも、歌詞に「明日」が用いられる作品がヒットしています。

 

 下図は、1960年代から2010年代の主なヒット曲で、「明日」が用いられた作品数の割合です。

 

 おそよ3500作品のうち、600作品ほどの歌詞に「明日」が登場しています。

 

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 グラフでは目に見えて特殊な数値は見受けられませんが、1960年代は1割ちかく(9.7%)のヒット曲に用いられています。

 

 「全体の1割近く」は、意識して聴いていなくても「なんとなく多いなぁ。」と感じる割合と感じます。

 1960年代以降、登場する頻度は少なくなり、2000年代以降は1960年代の半分以下(3~4%)になります。

 

 

ポジティブな「明日」、ネガティブな「明日」

 「明日」は、これまでに取り上げてきたキーワードと異なります。時々の感情によって、プラスにもマイナスにもなる言葉です。

 

 例えば、“明日に向かって歩き出そう”や“明日を信じる”、“きっと明日は”という表現は、明日に対して希望を持つ、登場人物の前向きな心理を感じます。

 

 反対に、"明日が見えない(明日がない)"や"明日を占う"、“明日はひとり”という表現では、登場人物が不安を抱いている事を示しているように感じます。

 

 この視点で、心情を分類すると下図のようになります。

 

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 どの年代でも前向きな心情で捉えていると考えていましたが、意外と1970年代はマイナスの意味合いで用いられているようです。

 

 黄色のフラットは、「明日」に対してプラスでもマイナスでもない心情が描かれていると判断される作品です。”「明日」に対して特別な感情は無く、何とも思わない”と歌う作品です。

 

 不明は、プラスかマイナスか分類できない作品です。このタイプの作品は「明日」を、“もし明日世界が終わるとしても”という例え話で用いたり、"今が良ければ明日はいらない"と、比較のために用いる心理表現がされている作品です。

 

 

 それでは、「明日」はどう歌われて来たかを、年代別に見ていこうと思います。

 

 

1960年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~1960年代>

曲名 歌手名
北帰行 小林旭 1961
出世街道 畠山みどり 1963
ヘイ・ポーラ 梓みちよ、田辺靖雄 1963
美しい十代 三田明 1963
明日があるさ 坂本九 1964
さすらい 克美しげる 1964
恋をするなら 橋幸夫 1964
君といつまでも 加山雄三 1966
今夜は踊ろう 荒木一郎 1967
ラブユー東京 ロスプリモス 1967
悲しくてやりきれない ザ・フォーク・クルセダーズ 1968
グッド・ナイト・ベイビー ザ・キング・トーンズ 1969
三百六十五歩のマーチ 水前寺清子 1969
港町ブルース 森進一 1969
いいじゃないの幸せならば 佐良直美 1969

 

 若い世代の作品で、「明日」に対して希望を持つ主人公が多く登場しています。

 

 友達や恋人同士の会話で、”また明日”や”明日も会おう”という表現が目立ちます。日常生活で用いられる一日の最後の別れの言葉で、“今日も楽しかった”と感じている事もうかがえます。

 

 明日に対して不安を感じる心情が若者によって表現されたのは1960年代後半のフォーク・ソングがブームになった時期です。

 ザ・フォーク・クルセダーズさんの「悲しくてやりきれない」(1968年)が初めてかも知れません。

 

 この年代で「明日」をネガティブに捉えている作品には、”さすらう”という表現が目立ちます。「北帰行」のように”自分は明日どこにいるだろうか”と、自らの境遇の不安定さを表現する際に用いられています。

 

 「出世街道」のように、”明日もつらいだろうけど立ち向かおう”という、主人公の勇気が感じられる作品も登場しています。

 

 

1970年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~1970年代>

曲名 歌手名
京都の恋 渚ゆう子 1970
手紙 由紀さおり 1970
圭子の夢は夜ひらく 藤圭子 1970
希望 岸洋子 1970
瀬戸の花嫁 小柳ルミ子 1972
心の旅 チューリップ 1973
恋のダイヤル6700 フィンガー5 1974
追憶 沢田研二 1974
心のこり 細川たかし 1975
22才の別れ 1975
センチメンタル 岩崎宏美 1975
憎みきれないろくでなし 沢田研二 1977
あずさ2号 狩人 1977
サクセス ダウン・タウン・ブギウギ・バンド 1977
みちづれ 牧村三枝子 1979
カリフォルニア・コネクション 水谷豊 1979
HERO(ヒーローになる時,それは今) 甲斐バンド 1979

 

 この年代で最も多い表現は、”明日には別れる(旅に出る)”という心情を歌う作品です。

  「北国行きで」「心の旅」「心のこり」「あずさ2号」等、1970年代のキーワードである【旅】と結びつき、別れを描く作品で「明日」が多用される事になります。

 

 1970年代がマイナスの意味で「明日」を用いた作品が多いのはこの影響と考えます。

 

 「瀬戸の花嫁」「恋のダイヤル6700」のように、別れを迎えながらも前向きに希望や勇気を表現する作品もあります。 

 

 1970年代は、後半で「明日」の表現が多様化していると感じます。「憎みきれないろくでなし」のように、明日に特別に意味を持たせない表現が登場しています。

 

 また、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドさんの「サクセス」(1977年)では、”昨日と今日、今日と明日では印象が変わる、気まぐれな女性の心理”を描くために「明日」が用いられています。

 化粧品メーカーのCMソングで、女性の魅力を表現するために登場した新しい表現と感じます。

 

 

1980年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~1980年代>

曲名 歌手名
大都会 クリスタルキング 1980
唇よ、熱く君を語れ 渡辺真知子 1980
セクシー・ナイト 三原順子 1980
キッスは目にして! ザ・ヴィーナス 1981
チェリーブラッサム 松田聖子 1981
みちのくひとり旅 山本譲二 1982
ハイティーン・ブギ 近藤真彦 1982
すみれSeptember Love 一風堂 1982
さざんかの宿 大川栄策 1983
矢切の渡し 細川たかし 1983
トワイライト 中森明菜 1983
長良川艶歌 五木ひろし 1984
もしも明日が…。 わらべ 1984
六本木心中 アン・ルイス 1985
今だから 松任谷由実・小田和正・財津和夫 1985
My Revolution 渡辺美里 1986
時の流れに身をまかせ テレサ・テン 1987
Get Wild TM NETWORK 1987
輝きながら… 徳永英明 1987
乾杯 長渕剛 1988
祝い酒 坂本冬美 1988
MUGO・ん…色っぽい 工藤静香 1988
DAYBREAK 男闘呼組 1988
瞳がほほえむから 今井美樹 1989
ANNIVERSARY 松任谷由実 1989
GLORIA ZIGGY 1989

 

  1980年代前半には、若者向けの作品でも、”今が良ければ明日はいらない”と歌う「セクシー・ナイト」「キッスは目にして!」が登場します。

 「さざんかの宿」でも登場する心理表現で、ひとときの幸福に夢中になっている事を示すために「明日」が用いられています。

 

 アイドルポップスや演歌・歌謡曲作品では、従来通りの「明日」の表現が用いられています。

 

 この年代の後半に、「My Revolution」「輝きながら・・・」と、”勇気を出して明日に向かう”心理描写が支持されているように感じます。

 

 おそらく「Get Wild」で歌われる、明日に対して不安を抱きながらも、自らの意思で踏み出そうという心理で表現されていると推測されます。

 

 

1990年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~1990年代>

曲名 歌手名
夢を信じて 徳永英明 1990
にちようび JITTERIN’JINN 1990
愛は勝つ KAN 1991
ラブ・ストーリーは突然に 小田和正 1991
こころ酒 藤あや子 1993
寒い夜だから… TRF 1994
Tomorrow never knows Mr.Children 1994
春よ、来い 松任谷由実 1994
TOMORROW 岡本真夜 1995
WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント H Jungle With t 1995
奇跡の地球 桑田佳祐&Mr.Children 1995
BODY&SOUL SPEED 1996
DEPARTURES globe 1996
JAM THE YELLOW MONKEY 1996
WHITE BREATH T.M.Revolution 1997
愛されるより 愛したい KinKi Kids 1997
幸せな結末 大滝詠一 1997
夜空ノムコウ SMAP 1998
snow drop ラルク・アン・シエル 1998
つつみ込むように… Misia 1998
誘惑 GLAY 1998
Face the change Every Little Thing 1998
あの紙ヒコーキ くもり空わって 19 1999
HEAVEN 福山雅治 1999
Garden Sugar Soul feat.Kenji 1999
ラストチャンス サムシング・エルス 1999
Boys&Girls 浜崎あゆみ 1999
A・RA・SHI 1999
First Love 宇多田ヒカル 1999

 

 この年代は前半では、明快に「明日」に対して希望を抱く表現が目立ちます。

 

 主人公の前向きさを感じる作品が多い年代ですが、1990年代後半になると、”明日は来ないもの”という前提で、それでも探し出そうとする心情が描かれているように感じます。

 

 若者の作品で”明日が見えない”という表現が目立ちますが、この年代のキーワードとなる【時代】と組み合わさって、「明日」が用いられているようです。

 

 同じ事を繰り返しているような毎日から抜け出すための「明日」、満たされていない現状を変えようとする心理を表現した作品が登場しています。

 

 英語表記が多い年代で、タイトルに「Tomorrow」を用いた作品が登場しています。

 

 

2000年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~2000年代>

曲名 歌手名
楽園 平井堅 2000
SEASONS 浜崎あゆみ 2000
愛情 小柳ゆき 2000
ギブス 椎名林檎 2000
if... DA PUMP 2000
PIECES OF A DREAM CHEMISTRY 2001
天体観測 BUMP OF CHICKEN 2001
明日があるさ ウルフルズ 2001
fragile Every Little Thing 2001
二人のアカボシ キンモクセイ 2002
Life goes on Dragon Ash 2002
もらい泣き 一青窈 2002
鳥取砂丘 水森かおり 2003
明日への扉 I WiSH 2003
青いベンチ サスケ 2004
ケツメイシ 2004
やさしいキスをして DREAMS COME TRUE 2004
ツバサ アンダーグラフ 2005
Dreamland BENNIE K 2005
NO MORE CRY D-51 2005
SMILY 大塚愛 2005
何度でも DREAMS COME TRUE 2005
マタアイマショウ SEAMO 2006
タイヨウのうた Kaoru Amane 2006
WINDING ROAD 絢香×コブクロ 2007
中孝介 2007
キセキ GReeeeN 2008
手紙 ~拝啓 十五の君へ~ アンジェラ・アキ 2008
羞恥心 羞恥心 2008
One Love 2008
海雪 ジェロ 2008
Aqua Timez 2008
Ti Amo EXILE 2008
YELL いきものがかり 2009
明日がくるなら JUJU with JAY'ED JUJU 2009

 

 歌詞に「明日」を用いる作品が少ない年代ですが、タイトルに用いた作品が多く、「明日」が主題となるヒット曲が多いように感じます。

 

 この年代に登場した新しい表現は、未来を”あした”、明日を”みらい”と読む事です。EXILEさんの「Ti Amo」いきものがかりさんの「SAKURA」が該当します。

 

 ”明日=未来”という価値観は1980年代から登場し始めましたが、この年代で定着しているように感じます。

 歌詞に「明日」が登場する作品のなかで、「未来」も登場する作品の割合が増えています(下図)。

 

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2010年代の「明日」

<「明日」が登場する主なヒット曲~2010年代>

曲名 歌手名
あとひとつ FUNKY MONKEY BABYS 2010
マル・マル・モリ・モリ! 薫と友樹、たまにムック。 2011
家族になろうよ 福山雅治 2011
Sexy Zone Sexy Zone 2011
恋するフォーチュンクッキー AKB48 2013
峠越え 福田こうへい 2014
シュガーソングとビターステップ UNISON SQUARE GARDEN 2015
もしも運命の人がいるのなら 西野カナ 2015
私以外私じゃないの ゲスの極み乙女。 2015
ラピスラズリ 藍井エイル 2015
Beautiful Superfly 2015
麦の唄 中島みゆき 2015
なんでもないや (movie ver.) RADWIMPS 2016
四万十川 三山ひろし 2016
みんながみんな英雄 (フルバージョン) AI 2016
アンサー BUMP OF CHICKEN 2016
やってみよう WANIMA 2017
HANABI Mr.Children 2017
明日も SHISHAMO 2017
LOSER 米津玄師 2018
ともに WANIMA 2018
恋町カウンター 竹島宏 2018
パプリカ Foorin 2019
白日 KingGnu 2019
君を待ってる King & Prince 2019
高遠 さくら路 水森かおり 2019
大丈夫 氷川きよし 2019
HAPPY BIRTHDAY back number 2019
雪恋華 市川由紀乃 2019
兵、走る B'z 2019

 

 この年代では、「明日」を前向きに捉えた作品のなかで、積極的に行動を起こそうとする描写が多いように感じます。 

 「家族になろうよ」のように、今日明日ですぐに変われないとしても自分を変える事ができるように頑張ろうという表現が印象に残ります。

 

 また、子供が歌う「マル・マル・モリ・モリ!」「パプリカ」で、”明日は晴れるのかな?”と、希望を抱くフレーズが用いられているのも印象的です。

 

 

 

あとがき

 歌詞分析の方法は、あまり良く分かっていません…(^_^;A。

 

 ヒット曲の歌詞は、聴き取れなかったり、聞き間違えて覚える事はよくある話ですので、歌詞を読むような事はせず、雰囲気で調べています。

 

 歌詞分析は調査にかなり時間がかかりますが、興味深いテーマです。いろいろ試行錯誤して新たな発見が出来ればと思います♪

 

 大変長々と失礼いたしましたm(_ _)m。

 

 

参考資料

 対象曲数  3568曲

 サンプル数   638曲

 

 『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社

 『レコードマンスリー』日本レコード振興

 「you大樹」オリコン

 「mora ~WALKMAN®公式ミュージックストア~」Webサイト