半年遅れで発売されたシングル盤
コロムビア・ローズさんの「東京のバスガール」は、蓄音器で再生するSP盤が昭和32年(1957年)9月に発売されています。
当時の売上ランキングは見つかっていませんので、何月ごろに流行ったかは分かりません。
「東京のバスガール」はシングル盤も発売されています。ただ、SP盤と同日に発売されていなかったようです。
発売月の表記で、SP盤では57.9となっているところが、シングル盤では半年後の58.3と印刷されています。
コロムビアさんは「人気の曲だからシングル盤も発売しよう!」と企画されたのでしょうか?
確かに、1958年には映画化され、後世に語り継がれる作品となっている事を考慮すると、当時はかなり人気を集めていたのだろうと感じます。
注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 Nippon Columbia Co., Ltd.(COLUMBIA の代理)
邦楽レコードがシングル盤に転換した1958年
ヒット曲の歴史を、“録音メディアの変遷”でたどると、SP盤>シングル盤(EP盤)>8cmCD>12cmCD(マキシシングル)>音楽配信と移り変わっています。
日本でシングル盤が登場したのは1954年です。レコード流行歌史上で初めて、再生する音源(ソフト)の規格が変わる出来事が起こった時期になります。
シングル盤は電気式蓄音器(電蓄)で再生されます。レコードを回転させる動力が電気となり、ボタンを押せば自動で再生されるようになります。
メリットはそれだけではなく、録音できる時間も長くなり、音質や耐久性も向上しています。製造する側からすれば安価で生産できる、長所が目立つレコードです。
長所ばかりのシングル盤ですが、1つだけ短所があります。従来のSP盤の蓄音器では再生できない事です。
レコードを買う人には、新しく電気式蓄音器を購入する負担が生まれてしまいます(>_<)。
家電製品の洗濯機・冷蔵庫・白黒テレビが、三種の神器と呼ばれていた事を見聞きした事がありますが、家電の仲間入りをした電蓄がどのように普及したかは記録が残っていないためよく分かりません。
1957年のヒット曲が1958年にシングル盤で生産されていた事を考えると、白黒テレビと同時に普及率が高まっていたのかも知れません。
当時のヒット曲をどちらの蓄音器でも聴けるように、あえてシングル盤を発売されたのかも知れません。
凝ったイントロの作品
「東京のバスガール」は前奏が長く感じる作品です。およそ30秒ほど続きますが、その間に演奏されるメロディには、モチーフが4種類ほど登場しているように感じます。
この作品は、オーケストラが尊重されているように感じます。間奏でも並行調に転調している箇所があり、ドラマチックな印象を聴き手に与えているように感じます。
コロムビア・ローズさんの歌唱は、自然的短音階というより日本特有のヨナ抜き短音階であると感じますが、オーケストラの演奏は西洋的な音階である和声的短音階、旋律的短音階の要素を感じます。
歌唱で用いられる音階は日本的ですので、聴き手にとっては口ずさみやすい作品と思います。これは流行歌特有の要素を備えていると感じます。
オーケストラが西洋的な音階で演奏する事は、舞台が東京である事が理由の1つかも知れません。都会で頑張る若い女性が主人公の作品なので、音楽も都会的でおしゃれな印象を表現しようと考えられたのかな?と感じます。
楽曲分析
「バンドプロデューサー5」の分析では、「東京のバスガール」はFm(ヘ短調)です。
音楽は凝っていると感じますが、サウンドはどちらかというと、テレビではなくラジオから流れて来る音楽という印象を受けます。
1960年代の流行歌よりも、戦後の流行歌に近いサウンドで、やはり1つ前の時代の音楽であると感じてしまいます。
この作品が当時シングル盤で発売されていた事は、個人的にかなり驚きでした(^_^;A。
曲情報
発売元:コロムビア・レコード
品番:SA-84
A面
「東京のバスガール」
英題:TOKYO NO BUS-GIRL
作詞:丘灯至夫
作曲:上原げんと
歌:コロムビア・ローズ
演奏時間:3分18秒
コロムビア・オーケストラ
B面
「街に灯がつけば」
英題:MACHI NI HIGA TSUKEBA
作詞:門田ゆたか
作曲:原六朗
歌:宝田明
演奏時間:2分51秒
コロムビア・オーケストラ
参考資料
「東京のバスガール」レコードジャケット
『日本流行歌史(中)1938~1959』社会思想社
『全音歌謡曲全集13』全音楽譜出版社
『歌謡曲の構造』小泉文夫
「バンドプロデューサー5」