歌謡曲では、地理的に日本の果ての街にいる人物が描かれる事があります。
知り合いのいない最果ての地に赴き、そこで打ち明けられる心情は悲しみが多いため、つい北国が思い浮かびますが、太平洋側の南国の作品も多いです。
昭和37年11月に発売され、翌年にヒットした「島育ち」は南国を舞台にした歌謡曲です。
当時、沖縄がアメリカの統治下だったからか、日本の南の果てに選ばれたのは奄美大島でした。
「島育ち」はレコード会社各社で競作となりました。曲のヒットをきっかけに映画化もされました。
キング仲宗根美樹さん | 東芝朝丘雪路さん | テイチク田端義夫さん | |
昭和38年1月 | 8位 | 12位 | 17位 |
昭和38年2月 | 14位 | - | - |
昭和38年3月 | 16位 | 4位 | 10位 |
昭和38年4月 | - | 2位 | 6位 |
昭和38年5月 | - | 3位 | - |
昭和38年6月 | - | 5位 | 3位 |
昭和38年7月 | - | 10位 | 5位 |
昭和38年8月 | - | - | 7位 |
※『ミュージック・マンスリー』歌謡曲部門のランキング
注)田端義夫 - トピックの動画
「島育ち」が売れ始めた当初は、仲宗根美樹さんのレコードが支持されていたようです。続いて朝丘雪路さんの歌唱がさらに支持を得ています。
この作品は田端義夫さんの歌というイメージがありますが、3名のなかで最も息の長いランキング推移となっていますので、おそらく売上も大きかったのでしょう。
所々でランクインしていない月があります。おそらく、予想外の支持が集まったために、追加のプレス生産が間に合わなかったのではないか?と考えます。
歌詞は4番まであります。1・3番が男性、2・4番が女性の心情が歌われています。そのためか、男女3名の盤を聴いても、表現に大きな差を感じる事はありません。
歌詞カードに注意書きがあります。
田端義夫さん盤
・奄美大島では北風のことを にしかぜ と言います。
・二番は奄美大島の方言のまま歌唱されています。
朝丘雪路さん盤
・か那(恋人の意味)
仲宗根美樹さん盤
・加那:「恋人」のこと
全て奄美大島の方言に関する脚注です。他にも、黒潮(くろしお)を「くるしゅ」と歌うなど、流行歌では、なじみの少ない方言だったため、脚注が加えられたのだと思います。
「島育ち」がヒットした事で、「奄美の雰囲気を感じるような作品をもっと作ろう!」と各社が動き始めたようです。結果、なじみの少ない奄美大島をテーマにした音楽が日本中に流行する事になりました。ビクターさんの「島のブルース」やキングさんの「奄美恋しや」もヒットしました。
昭和38年7月に発売された「永良部百合の花」(えらぶゆりのはな)はランクインしていませんが、この流行に合わせてレコードが企画されたようです。
歌詞カードには『≪島育ち≫が全国を風靡、歌を通じて奄美が世に広く知られるようになりました。』(一部抜粋)と名瀬市長の“推薦のことば”や、奄美観光協会推薦・奄美芸能無形文化財保存協会推薦と印刷されています。
1つの作品のヒットが、多くの人たちに影響を与えた事を物語っているように感じます。
バンドプロデューサーの分析では、田端義夫さんの「島育ち」はDメジャー(ニ長調)。仲宗根美樹さん盤はCメジャー(ハ長調)、朝丘雪路さん盤はAメジャー(イ長調)です。
どの盤を聴いても、素朴さを感じるヨナ抜き音階のメロディを、のびのびとした雰囲気で歌われています。
当時はジャズ風にアレンジするリバイバルブームが落ち着いた時期でしたが、そういった流行りのリズムや楽器などを取り入れなかった事で、奄美大島の文化を感じる作品となっているのかな?と考えます。
曲情報
田端義夫さん盤
発売元:テイチク株式会社
品番:NS-630
A面
「島育ち」
演奏時間:2分47秒
B面
「道頓堀行進曲」
演奏時間:2分28秒
テイチク・レコーディング・アンサンブル
2ndジャケットには、
松竹映画「島育ち」主題歌
と記載されています。
朝丘雪路さん盤
発売元:東芝音楽工業株式会社
品番:JP-1508
A面
「島育ち」
演奏時間:3分29秒
B面
「嘆きのピエロ」
演奏時間:3分14秒
東芝レコーディング・オーケストラ
仲宗根美樹さん盤
発売元:キングレコード
品番:EB-824
A面
「島育ち」
演奏時間:3分53秒
B面
「ツーラッタ節」
演奏時間:3分52秒
キングオーケストラ
参考資料
「島育ち」レコードジャケット
「永良部百合の花」レコードジャケット
『ミュージック・マンスリー』月刊ミュジック社
『全音歌謡曲全集13』全音楽譜出版社
「バンドプロデューサー5」