ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。2025年は昭和100年。

昭和25年(1950年)のヒット曲ランキング(レコード会社発表)

オリコン以前のレコード売上集計

 1950年代以前は定期的にレコード売上を集計した記録がほぼ見当たりません。

 

 レコードが書籍や映画と肩を並べるほどの存在では無かった事を感じます。

 

 この年代では【実際の売上枚数ではなく、レコード会社各社が生産した枚数、もしくは出荷した枚数を発表していた】ようです。

 

 毎年12月に各社が発表していたようですが、出版社も「実際に売れた枚数ではないので、たいしたデータではない」の感覚で記事にしている印象です。

 

 特定の雑誌や新聞で定期的に掲載されておれば、連続性が生れて多少は信憑性が高くなるデータですが・・・仕方ないと思います。

 

 今回はそのような感覚で受け止めていただきたいデータです。

 

 『平凡 昭和二十六年三月号』(『読者とともに20年 平凡出版株式会社小史』によると昭和26年1月発売)で、文章で記載されている1950年の各社ランキングを表形式に編集しました。

 

 「最近一ヵ年の各社の売れ行き」と記述されているだけで具体的な集計期間も不明な残念なデータです。

 

コロムビア
順位 曲名 歌手名 枚数(万) 発売日 品番
1 買物ブギー 笠置シズ子 13 7月 A822
2 ボタンとリボン 池真理子 8 7月 A820
3 想い出のボレロ 高峰三枝子 8 2月 A734
3 悲しき口笛 美空ひばり 8 1949年9月 A622
5 東京キッド 美空ひばり 7 9月 A857
5 涙の紅ばら 美空ひばり 7 4月 A736
6 涙のチャング 小畑実 記載なし 8月 A915
7 山のかなたに 藤山一郎 記載なし 5月 A788
7 水色のワルツ 二葉あき子 記載なし 2月 A735

 

 

ビクター
順位 曲名 歌手名 枚数(万) 発売日 品番
1 異国の丘 竹山逸郎、中村耕造 20 1948年9月 V40155
2 月よりの使者 竹山逸郎、藤原亮子 18 1949年3月 V40199
3 銀座カンカン娘 高峰秀子 14 1949年7月 V40256
4 君待てども 平野愛子 11 1948年1月 V40048
5 夜来香 山口淑子 7 1月 V40303
5 今日われ恋愛す 竹山逸郎 7 1949年3月 V40197
5 火の鳥 渡辺はま子、宇都美清 7 11月 V40506
5 桑港のチャイナ街 渡辺はま子 7 11月 V40521

 

 

キング
順位 曲名 歌手名 枚数(万) 発売日 品番
1 男の涙 岡晴夫 20 1949年9月 C488
2 かりそめの恋 三条町子 15 1949年11月 C497
3 マドロスの唄 岡晴夫 13 1949年10月 C519
4 長崎の花売娘 岡晴夫 8 8月 C603
4 旅笠街道 岡晴夫 8 1949年9月 C493
6 星かげの小径 小畑実 7 1949年11月 C533
6 長崎のザボン売り 小畑実 7 1948年6月 C341

注)書籍には「旅笠道中」と記述されていますが「旅笠街道」の誤表記と判断しています。

 

 

テイチク
順位 曲名 歌手名 枚数(万) 発売日 品番
1 かよい船 田端義夫 15 1949年4月 C683
2 月の出船 田端義夫 13 1月 C810
3 玄海ブルース 田端義夫 12 3月 C714
4 別れ出船 田端義夫 9 1948年9月 C570
4 ロマンス航路 田端義夫 9 9月 C3090
5 憧れの住む街 菅原都々子 記載なし 2月 C826
5 アリラン 菅原都々子 記載なし 12月 C3119

注)書籍には「別れ船」と記載されていますが、戦中ポリドール時代の「別れ船」が戦後テイチクで再発売された記録が見つかりませんでしたので「別れ出船」の誤表記と判断しています。

 

 

ポリドール
順位 曲名 歌手名 枚数(万) 発売日 品番
1 ビギン・ザ・ビギン 越路吹雪 1 10月 30001
2 炭坑節 日本橋きみ栄 1未満 3月 7835
2 ジングル・ベル - 1未満 - -
2 テキサスのやんちゃ娘 宮城まり子 1未満 7月 2017

注)「ジングル・ベル」は『日本流行歌総覧』に掲載されていないため歌手名も不明です。

 

輸入盤
順位 曲名 歌手名 枚数(万) 発売日 品番
1 ボタンとリボン ダイナ・ショア 20 - L2(コロムビアL盤)
2 バンブル・ブギー フレディ・マーティン 10 - S1(ビクターS盤)
2 バリ・ハイ ペリー・コモ 10 - -(ビクターS盤)

 

 

1950年はヒット曲が生まれなかった年

 コロムビアさんのランキングのように「今年発売した曲がヒットする」が当たり前ですが枚数が少なめです。

 

 ビクターさん、キングさんは去年おととし発売の曲でランキングが構成されている印象です。

 

 確かに上記のランキングを眺めて、

「銀座カンカン娘」以後ヒット盤らしいものが1曲も出ない。『朝日年鑑 1951年版』
秋以来『銀座カンカン娘』『長崎の鐘』『星かげの小径』位しかヒット・ソングといえるものが生れていない『毎日新聞 昭和25年4月27日』
ヒット歌謡と名のつくものが一つも生れず、歌手、作曲家を通じて新人が一人もデビューしなかったというまれにみる不毛の年であった。『毎日新聞 昭和25年12月5日』
昨年一年間は、レコード界初まつて以来の不況であつた。特に春から夏にかけて甚しかつたがやつと秋になつて従来の勢いを回復して新年を迎えた。『平凡 昭和二十六年三月号』

 

 という記事に納得できます。

 

 1949年から1950年にまたがってヒットした「銀座カンカン娘」の累計枚数が気になりますが、世間で「あの曲とても流行っている」と感じる規模の作品が無かったのかも知れません。

 

 

新しい時代が始まる予感

 ただ、美空ひばりさんのA面デビュー曲「悲しき口笛」「東京キッド」がランクインしている事に翌年以降のご活躍を感じますし、コロムビアさんのL盤とビクターさんのS盤の登場で洋楽シングル盤がヒット曲になる時代の始まりも感じます。

 

 今回の不完全なデータでも【1950年は今までの価値観で作ったレコードが売れなくなった年】と読み取る事ができると思います。

 

 ビクターさんが不況を打破するために復帰した渡辺はま子さんの盤に力を注いでいる事(数年後に「あゝモンテンルパの夜は更けて」がヒットします)、ポリドールさんで越路吹雪さんの初ヒット曲「ビギン・ザ・ビギン」に人気が出始めている様子も読み取る事が出来ます。

 

 この年の2月に発売された「イヨマンテの夜」(コロムビア)がランクインしておらず、発売当初売れなかった事実と一致するので、割と正確な流行指標と感じます。

 

 現代でも流行する歌は支持する世代の価値観に左右されます。

 

 1950年は世の中の価値観が変化し始める過渡期だったのだろうと思います。

 

 

参考資料

 『平凡 昭和二十六年三月号』合資会社 凡人社

 『読者とともに20年 平凡出版株式会社小史』平凡出版株式会社

 『昭和流行歌総覧(戦後編-1)』オンデマンド版 加藤正義 柘植書房新社

 『朝日年鑑 1951年版 - 国立国会図書館デジタルコレクション

 『毎日新聞 昭和25年4月27日』

 『毎日新聞 昭和25年12月5日』