ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。現在は明治~1950年代をけんきゅうちゅう。

「夢想花」円広志(昭和54年)

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 「夢想花」(むそうばな)は、昭和53年11月に発売されました。円広志(まどかひろし)さんのデビュー曲です。

 

 翌年の1月から2月に、ベストテン入りするヒット曲となりました。

 

 「夢想花」というタイトルではなく、曲中に何度も繰り返される“とんで”や“まわって”で、多くの人たちに知られているこの作品は、第9回世界歌謡祭グランプリ受賞曲というキャッチコピーがジャケットに印刷されています。

 

 


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注)円広志 - トピックの動画

 

 

 世界歌謡祭というのは、昭和4、50年代にヤマハさんが主催されていた音楽イベントです。中島みゆきさんを輩出されたコンクールです。

 

 昭和45年の大阪万博の翌年に、国際的なイベントが必要だ!という事で創設されたと何かの書籍で読んだことがあります。

 

 第1回は、“東京国際歌謡音楽祭”という名称で、イスラエル出身の歌手が歌う「ナオミの夢」がグランプリとなりましたが、年を重ねるにつれて、シンガー・ソングライターの登竜門のイベントと変化したようです。

 

 円広志さんもこのイベントをきっかけにデビューされ、作品がレコード化されました。

 

 

 コンテストのイベントで優勝するには、審査員や他の応募者たちが思いつかないテクニックが必要になると思います。

 

 「夢想花」がグランプリに選ばれた理由は、みなさんがお考えの通り、サビの部分であると感じます。

 

 「夢想花」は恋人との別れ間際の心理を描いた作品です。しかし明るい曲調です。この点も聴き手には意外さを感じさせます。

 

 歌い出しのモチーフは普通ですが、"夢の中に飛ぶ”と歌ったあとから、何十年たっても忘れられないサビのフレーズが始まります。

 

 よく作品として成立できたと感じますが、その理由はサビのフレーズの使い方にあると感じます。

 

 歌詞カードを見ると、

  1番、とんで×2回 ⇒ 2番、とんで×2回 ⇒ 2番後半、とんで×5回

 と曲の後半になるにつれて、サビの繰り返しが増えていきます。そして、そのままフェードアウトします。

 

 演奏時間も5分20秒と長く、意図的に繰り返されていると感じます。

 

 小泉文夫さんの『歌謡曲の構造』では、ヘミオラという手法を用いている、としてこの作品について触れられています。

 

 ヘミオラは、例えば4分の4拍子なのに、拍の規則と異なる区切り方をしているメロディの事であると私は解釈していますが、「夢想花」のサビは、確かに何拍目かを見失ってしまうフレーズになっていると感じます。

 

 後世では、同じ事を繰り返し歌っている曲、という記憶だけが残っている印象を受けますが、単純に繰り返すだけではグランプリには届かなかったはずです。

 

 リズムをずらすようなサビのフレーズに作曲技法が隠されている事を感じさせてくれる作品です。

 

 おそらく、登場人物の心理描写として、現実では素直になれなくて別れてしまったけれど、恋愛中の楽しかった忘れられない想い出に浸る心理を、過去の夢の世界を飛び回る蝶に例えておられるのだと感じます。

 

 バンドプロデューサーの分析では、「夢想花」はDメジャー(ニ長調)です。後半は半音上がってE♭メジャー(変ホ長調)になります。

 

 

曲情報

 発売元:株式会社キャニオン・レコード

 品番:V-35

 A面

  「夢想花」

  演奏時間:5分20秒

 

 B面

  「朝から晩まで」

  演奏時間:2分58秒

 

 

参考資料

 「夢想花」レコードジャケット

 『歌謡曲の構造』小泉文夫

 『全音歌謡曲大全集5』全音楽譜出版社

 『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン

 「you大樹」オリコン

 「バンドプロデューサー5」