昭和44年(1969年)の洋楽のヒット曲には個性的な作品が多く登場しました。
当時のオリコンチャートに記録されている作品には、「悲しき天使」、「雨」、「マンチェスターとリヴァプール」、「西暦2525年」、「輝く星座」、「白い恋人たち」、そして、今回取り上げる「ふたりのシーズン」などがあります。
映画音楽、カンツォーネ、フォークソングと、それぞれの作品に共通点はうかがえず、レコード会社が作り出すブームで誕生した作品群では無かった事が興味深いです。
強いて言えば、イギリス発の作品が多く登場した年です。「悲しき天使」のメリー・ホプキンさん、「マンチェスターとリヴァプール」のピンキーとフェラスさん、「ふたりのシーズン」のザ・ゾンビーズさんが英国発のヒットメーカーでした。
イギリスの音楽といえばビートルズさんが代表格ですが、同じ英語圏ながらアメリカの音楽とは違いがあります。
英米のヒット曲を聴いたときの個人的な印象ですが、アメリカ発の音楽は明快で分かりやすい作品が多く、イギリス生まれの音楽は表現の世界観を深く掘り下げた作品が多い傾向があります。
この音楽性の違いが、国家の面積の大きさや、島国か大陸かで決まるのか?もしくは、日本のレコード会社が各国にレッテルを貼って、そのような傾向を作り出しているのか?と色々考えています。
ザ・ゾンビーズさんの「ふたりのシーズン」は1969年3月21日に発売され、6,7月頃にヒットしました。
「ふたりのシーズン」はイギリスの音楽なので、音楽で表現できる世界観を追及した作品と感じます。他のヒット曲が持っていない独特の雰囲気を感じる作品です。
あまり聴いたことがないサウンドだ、と感じる理由の1つが、楽器を用いずにリズムを刻んでいる事です。
レコードジャケットの解説でも触れられていますが、タメ息が吹き込まれている事です。
タメ息はイントロから吹き込まれていますが、誰かが「パンッ」と手を叩くと、すぐに「アー」とタメ息がをつきます。規則的に繰り返されており、リズムを刻むための音に、手拍子とタメ息を用いている事が分かります。
人間の動作で生まれる音でリズムを作っている点が「ふたりのシーズン」の特徴であると感じます。
この表現だけで、聴き手は「他の曲では表現されていない世界観を持っている!」と感じると思いますが、「ふたりのシーズン」には、もう1つ個性的なパートがあります。それはキーボードがアドリブ演奏されているパートです。
聴いた感じでは電子オルガンの音色ですが、よくよく聴いているとオルガンの音ともう1つ別の鍵盤が鳴っているように感じます。もしかしたら、1つのキーボードで音の高いところと低いところを同時に弾いているのかも知れません。
「ブルー・シャトウ」(1967)を聴いたとき、フルートの間奏が珍しいと感じるように、キーボードのソロ演奏も当時では珍しいように感じます。それもメロディをなぞるような演奏ではなく、キーボードを自由に演奏するアドリブのスタイルは画期的だと感じます。この演奏は2番を歌い終えた後から始まります。
アドリブ演奏時は、手拍子もタメ息も無いのですが、演奏が終わると何事も無かったかのように3番が始まり、歌い終わると、再びキーボードの独奏が始まります。そしてそのままフェードアウトして曲は終わります。
昨今のシンセサイザーの音色に慣れてしまった私は、この作品の新しさに気づきにくかったですが、当時はかなり斬新なサウンドだったと感じます。
「ふたりのシーズン」のエンディング部分のキーボードの演奏は、70年代前半に登場するエマーソン・レイク・アンド・パーマーさんの『展覧会の絵』(72)を聴いたときと同じような印象を受けます。
これからやって来る未来の音楽表現を先取りしているかのような演奏が、当時は今までに聴いたことの無いサウンドとして、人気を集めたのだと思われます。
バンドプロデューサーの分析では、キーはBm(ロ短調)。冒頭のメロディは、ヨナ抜き長音階の5つの音しか使っていないので、耳に残りやすくなっています。
曲情報
発売元:CBS・ソニーレコード株式会社
型番:SONG-80047
A面「ふたりのシーズン」
原題:TIME OF THE SEASON
演奏時間:3分32秒
B面「フレンド・オブ・マイン」
原題:FRIENDS OF MINE
演奏時間:2分16秒
Produced by Rod Argent - Chris White
参考資料
「ふたりのシーズン」レコードジャケット解説
『永遠のポップス1』全音楽譜出版社
『歌謡曲の構造』小泉文夫 平凡社ライブラリー
「you大樹」
「バンドプロデューサー5」