ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。誤字はちょっとずつ修正します。

日本で最も支持されたブラス・ロックのシングル盤「黒い炎」チェイス(昭和46年)

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 昭和40年代前後、ビートルズさんの登場をきっかけにして、日本でも、若い世代がバンドを組み、オリジナルの作品を吹き込める時代に変わっていきました。

 

 昭和30年代のエルヴィス・プレスリーさんが登場した頃は、日本の音楽業界は若者に対して、商品化する活動をする事を認めていなかったようで、海外の作品を日本語でカバーする、ロカビリー歌手しか登場しませんでした。

 

 レコード音楽が若者の文化へと移行し始めた昭和40年代ですが、日本ではアイドルソングやフォークソングが主流となり、海外の流行とは違うルートを歩み始めていました。

 

 シングル盤でも洋楽ヒットが少なくなり始めた時期に登場したのが、チェイスさんの「黒い炎」です。発売日は1971年8月21日。同年10月から12月にかけてヒットしました。


 

 「黒い炎」は、カテゴリ分けするとブラス・ロックに該当する作品です。1970年代初頭に人気となったジャンルで、レコードジャケットに記載されているブラッド・スウェット・アンド・ティアーズさん、シカゴさんが代表的なバンドです。

 

 シングル盤ではチェイスさんの「黒い炎」が高い支持を得ましたが、LP盤ではシカゴさんが最も人気となっていたようです。

 

 金管楽器が編成に含まれているロックバンドの作品が、ブラス・ロックと定義されているようです。

 

 チェイスさんは、すでにシカゴさんが活躍している時期に登場しましたが、「黒い炎」は、迫力のあるトランペットのサウンドから始まり、一気に作品の世界に引き込まれてしまいます。

 

 ボーカルも、ブラスに負けずに力強く畳みかけるような歌唱をするので、聴いていて楽しい作品です。

 

 バンドプロデューサーの分析では、「黒い炎」はFメジャー(ヘ長調)。「ある愛の詩」や「小さな恋のメロディ(メロディ・フェア)」の映画主題歌がヒットしていた年に、今でも新鮮さを感じる「黒い炎」がヒットしていた事が意外に感じました。

 

曲情報

 発売元:CBS・ソニーレコード株式会社

 品番:EPIC-83001

 

 A面

  「黒い炎」

  原題:GET IT ON

  演奏時間:2分58秒

 

 

 B面

  「リバー」

  原題:RIVER

  演奏時間:4分34秒

 

 

参考文献

 「黒い炎」レコードジャケット

 『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン

 『オリコンチャートブック〈LP編(昭和45年‐平成1年)>』

 「バンドプロデューサー5」

南米ベネズエラの民族楽器の響き「コーヒー・ルンバ」ウーゴ・ブランコとそのアルパ・ヴィアヘラ(昭和36年)

 昭和36年(1961年)に流行した「コーヒー・ルンバ」は、海外の作品です。

 

 オリジナルは「MOLIENDO CAFE」と言う名前で、パラグアイの民族楽器であるアルパの一種で演奏される作品です。

 レコードジャケットの解説によると、従来のハープより小型で、持ち運びが便利なインディアン・ハープと呼ばれる楽器です。

 

 元々歌詞のない作品ですが、西田佐知子さんが日本語詞を載せて歌唱した作品が著名です。それをカバーした荻野目洋子さんの盤(1992年)や井上陽水さんの盤(2001年)も、やや話題となりました。時代をまたいで親しまれています。

 


 

 

 

「コーヒー・ルンバ」の売上ランキング推移

集計日付 ウーゴ・ブランコさんの盤 西田佐知子さんの盤
昭和36年7月31日現在 4位  
昭和36年8月31日現在 2位  
昭和36年9月30日現在 1位  
昭和36年10月31日現在 1位 16位
昭和36年11月30日現在 1位 9位
昭和36年12月25日現在 3位 13位
昭和37年1月31日現在 3位 18位
昭和37年2月28日現在 5位 17位
昭和37年3月31日現在 10位  

※『ミュージック・マンスリー』参照 

 

 演奏しているのはウーゴ・ブランコさん。グループ名となっているアルパ・ヴィアヘラ(Arpa Viajera)は冒頭にふれたアルパの一種です。パラグアイではなく、ベネズエラの楽器です。

 

 西田佐知子さんの「コーヒー・ルンバ」は、伴奏の音色に硬さが感じられます。おそらく、当時の日本では、アルパという楽器や演奏できる方を見つける事は出来ず、ポリドール・オーケストラさんは、似た響きのする楽器を代用されたのでしょう。

 

 ベネズエラの音楽は、日本人にとっては、どのような歌が流行っているのか、あまり情報が入って来ない国です。解説には「ポリドールがヴェネズエラのレコード会社と特別契約を結んでレコーディングしたものです。」と書かれています。


 

 ポリドールさんはどうして「コーヒー・ルンバ」を発掘できたのだろう?と思っていました。

 

 しかし、ベネズエラというよりも、面するカリブ海で発達した音楽であるカリプソが当時の日本では有名でした。 

 1957年、「バナナ・ボート」をきっかけにカリプソがブームとなり、その4年後に「コーヒー・ルンバ」がレコード化されています。 

 

 ブームが過ぎた後でも、ポリドールさんの誰かが「ベネズエラの民族楽器の音色は、日本人に親しみやすい」と、その国の音楽文化に気付いた事がきっかけで、長きにわたって日本で親しまれる作品が誕生したと言えます。

 

 縁というか出会いというのは不思議だと感じます。1960年代は、海外で人気のなかった盤がヒットする事がありましたが、似たような経緯があるのだと思われます。

 

曲情報

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    演奏:ウーゴ・ブランコとそのアルパ・ヴィアヘラ

 発売元:日本グラモフォン株式会社

 品番:DP-1223

 A面「コーヒー・ルンバ」

   原題:Moliendo Cafe

   演奏時間:2分50秒

 B面「らんの花」

   原題:Orquidea

   演奏時間:2分25秒

 

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    歌:西田佐知子

 発売元:日本グラモフォン株式会社

 品番:DJ-1157

 A面「欲望のブルース」

   作詞:中沢清二

   作曲:メッサー

   編曲:川上義彦

 B面「コーヒールンバ」

   作詞:中沢清二

   作曲:マンソ

   編曲:川上義彦

 

 ポリドール・オーケストラ

 

参考文献

 「コーヒー・ルンバ」レコードジャケット

 『ミュージック・マンスリー』月刊ミュジック社

イギリス生まれの曇ったサウンド「ふたりのシーズン」ザ・ゾンビーズ(昭和44年)

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流行時期(いつ流行った?)

 ザ・ゾンビーズさんの「ふたりのシーズン」は、昭和44年(1969年)にヒットしました。

 

 3月下旬に発売されたレコードは6月に最高順位を記録しています。

 

<『レコードマンスリー』洋楽月間ランキング推移>

年月 順位
昭和44年04月 24位
昭和44年05月 11位
昭和44年06月 2位
昭和44年07月 4位
昭和44年08月 7位
昭和44年09月 21位

 

 

注)The Zombies Music 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

個性的な洋楽ヒットが多い1969年

 オリコンチャートに記録された1969年の洋楽ヒットには、「悲しき天使」、「雨」、「マンチェスターとリヴァプール」、「西暦2525年」、「輝く星座」、「白い恋人たち」、そして「ふたりのシーズン」などがあります。

 

 映画音楽、カンツォーネ、フォークソングなど、それぞれの作品に共通点はうかがえず、レコード会社が作り出すブームで誕生した作品群では無かった事が興味深いです。

 

 強いて言えばイギリス発の作品が多く登場したと思います。

 

 「悲しき天使」のメリー・ホプキンさん、「マンチェスターとリヴァプール」のピンキーとフェラスさん、「ふたりのシーズン」のザ・ゾンビーズさんが英国発のヒットメーカーでした。

 

 

曇りを感じるイギリスの音楽

 イギリスの音楽といえばビートルズさんが代表格ですが、同じ英語圏ながらアメリカの音楽とは違いがあります。

 

 英米のヒット曲を聴いたときの個人的な印象ですが、アメリカ発の音楽は明快で分かりやすい作品が多く、イギリス生まれの音楽は表現の世界観を深く掘り下げた作品が多い傾向があります。

 


 この音楽性の違いは国の面積の大きさや、島国か大陸かで決まるのか?

 

 もしくは、日本のレコード会社が各国にレッテルを貼って、そのような傾向を作り出しているのか?と色々考えています。

 

 「ふたりのシーズン」はイギリスの音楽なので、音楽で表現できる世界観を追及した作品と感じます。他のヒット曲が持っていない独特の雰囲気を感じる作品です。

 

 

 「あまり聴いたことがないサウンドだ」と感じる理由の1つが、楽器を用いずにリズムを刻んでいる事です。

 

 レコードジャケットの解説でも触れられていますが、タメ息が吹き込まれている事です。

 

 タメ息はイントロから吹き込まれていますが、誰かが「パンッ」と手を叩くと、すぐに「アー」とタメ息がをつきます。

 

 規則的に繰り返されており、リズムを刻むための音に、手拍子とタメ息を用いている事が分かります。

 

 人間の動作で生まれる音でリズムを作っている点が「ふたりのシーズン」の特徴であると感じます。

 

 

前衛的な音楽表現?

 この独特なリズム表現だけで「他の曲には存在しない世界観を持っている!」と感じると思いますが、「ふたりのシーズン」にはもう1つ個性的なパートがあります。

 

 それはキーボードがアドリブ演奏するパートです。

 

 聴いた感じでは電子オルガンの音色ですが、よくよく聴いているとオルガンの音と、もう1つ別の鍵盤が鳴っているように感じます。

 

 もしかしたら、1つのキーボードで音の高いところと低いところを同時に弾いているのかも知れません。

 

 「ブルー・シャトウ」(1967年)を聴いたとき、フルートの間奏が珍しいと感じるように、キーボードのソロ間奏も当時では珍しいように感じます。

 

 それもメロディをなぞるような演奏ではなく、自由に演奏するアドリブのスタイルは画期的だと感じます。

 

 この演奏は2番を歌い終えた後から始まります。


 アドリブ演奏時は手拍子もタメ息も無いのですが、演奏が終わると何事も無かったかのように3番が始まり、歌い終わると再びキーボードの独奏が始まります。

 

 そしてそのままフェードアウトして曲は終わります。

 

 昨今のシンセサイザーの音色に慣れてしまった私は、この作品の新しさに気づきにくかったですが、当時はかなり斬新なサウンドだったと感じます。

 

 「ふたりのシーズン」のエンディング部分のキーボードの演奏は、1970年代前半に登場するエマーソン・レイク・アンド・パーマーさんの『展覧会の絵』(1972年)を聴いたときと同じような印象を受けます。

 

 これからやって来る未来の音楽表現を先取りしているかのような演奏が、当時は今までに聴いたことの無いサウンドとして人気を集めたのだと思われます。

 

 バンドプロデューサーの分析では、キーはBm(ロ短調)。冒頭のメロディは、ヨナ抜き長音階の5つの音しか使っていないので、耳に残りやすくなっています。

 

 

曲情報

 発売元:CBS・ソニーレコード株式会社

 型番:SONG-80047

 

 A面「ふたりのシーズン」

   原題:TIME OF THE SEASON

   演奏時間:3分32秒

 

 B面「フレンド・オブ・マイン」

   原題:FRIENDS OF MINE

   演奏時間:2分16秒

 

 Produced by Rod Argent - Chris White

 

 

参考資料

 「ふたりのシーズン」レコードジャケット

 『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン

 『レコードマンスリー』日本レコード振興株式会社

 『永遠のポップス1』全音楽譜出版社

 『歌謡曲の構造』小泉文夫 平凡社ライブラリー

 「you大樹」

 「バンドプロデューサー5」