誰でも分かる"間違い"を歌う
「間違えば節」は明治20年、21年頃(1887年、1888年頃)に流行したようです。
様々な言葉をさかさまに入れ替えただけの歌詞です。
♪間違えば 間違うものだよ
♪稲妻ごろごろ 雷ぴかぴか
♪蚊帳よかかつれ ヘソ立て線香隠せ
本来は「稲妻ぴかぴか雷ごろごろ」、「かか(配偶者)よ蚊帳つれ、線香立てヘソ隠せ」と誰でも分かる単純な間違いです。
注)【三味線】藤本秀統の動画
・・・気になるのが、「間違えば節」を「字あまり都々逸」というタイトルで記載する書籍が存在している事です(下図)。
注)『古今俗曲全集 : 西洋楽譜 1集 - 国立国会図書館デジタルコレクション』(1916年出版)
気になって調べると、
♪雨はほろりほろり
♪稲妻ぴかぴか 雷ごろごろ
♪と言うて抱(いだ)きしめたが 縁のはし
という字余り都々逸が存在する事が分かりました。
いつ頃誕生したか分かりませんが「稲妻ぴかぴか 雷ごろごろ」と正しく歌っているため、「間違えば節」より先に存在していたと思われます。
「間違えば節」誕生の経緯を妄想
都々逸は明治時代も人気のある娯楽だったようで、本当は七七七五調です。
♪ざんぎり頭を 叩いてみれば 文明開化の 音がする
という感じです。
字余り都々逸は字数が多いため、【語呂の悪さを早口でカバーする歌唱力?が必要=難易度が高い】です。
なので明治時代に粋な人たちが集まって、真面目に都々逸を楽しんでいるときに・・・
A「俺、字余り都々逸やります!」
B「おお~!がんばれ!」
A「♪雨はほろりほろり ♪稲妻ごろごろ・・・」
C「・・・♪稲妻ぴかぴかでしょう(笑)」
一同「ワハハ(大爆笑)」
みたいなに素で間違えた事があって、
D「俺も字余りやります(笑)♪稲妻ごろごろ 雷ぴかぴか ♪蚊帳よかかつれ ヘソ立て線香隠せ」
一同「ワハハ(大爆笑)」
と、おそらく通人のユーモアから始まり、やがて多くの人たちにとって「気軽に歌える字余り都々逸」に変化して「間違えば節」が広まっていったのでは?と妄想します。
もし明治維新の頃に誕生していたら・・・
なぜ「間違えば節」が明治時代の中ごろに登場したのだろう?と考えていました。
現代でも当たり前に存在する「世の中間違っている」の心理を代弁するような歌詞とも解釈できるからです。
そう考えると「短期間に近代化が行われた明治維新の頃にこういう歌が登場しても良かったのでは?」の思考に至ります。
しかし、いつの時代も流行歌は「面白いから!」が理由で広まる事がほとんどです。
変に時代に結び付けて考える事はないと思い直しました。
参考文献
『古今俗曲全集 : 西洋楽譜 1集 - 国立国会図書館デジタルコレクション』西野琴彦 編 西野虎吉(1916年)