流行時期(いつ流行った?)
五木ひろしさんの「愛の始発」は、昭和51年(1976年)にヒットしました。
2月初めに発売されたレコードは3月に最もヒットしています。
<『レコード・マンスリー』の月間売上ランキング推移>
年月 | 順位 |
昭和51年02月 | 14位 |
昭和51年03月 | 11位 |
昭和51年04月 | 19位 |
昭和51年05月 | 30位 |
注)五木ひろし Official YouTubeチャンネル 公式アーティストチャンネルの動画
橋ではなく川が主語
「愛の始発」の主人公は明日駆け落ちをする決断をされていますが、「花嫁」のように駆け落ちを実行した後の心理ではない事で聴く人によって解釈が異なる歌詞と思います。
作中に何度も繰り返される"川が流れる橋"が気になります。
ヒット曲の歌詞には"現在の境遇を脱出する境界線"が何かに例えられる事があります。"それを越えれば新しい世界が広がる"、「愛の始発」の場合は"橋"です。
橋を渡った先に駅があるのだと思います。それを渡る事で"愛を信じて故郷と決別する心理"が描かれていると感じますが、「"川"が主語になっている事」が気になります。
川は遠く離れた地域から流れて来ます。駆け落ちした後、主人公がどこに行き着くのか描かれていませんが、もしかしたら故郷とつながっているかも知れません。
そのため"何もかも捨てる"という決別よりも、故郷に未練を残しているのではないか?と感じてしまいます。
問わず語りの"ですます口調"
歌い出しで「生まれ育った街に未練はない」と言い切っていますが、私は「本当に未練はないの?」と感じる派です。
ですます調で語られる心情は誰に向けて言っているのでしょう?
おそらく親に向けて語りかけているのだと感じさせてくれます。
駆け落ちを実行する明け方に、何も知らずに眠っている親の寝顔を見てしまって、心の中で「ごめんなさい!」と思いながら実家を去ろうとする場面が思い浮かびます。
聴き手の想像力を刺激して、映像を思い浮かべる事が出来るような歌詞はめったに登場しません。この曲がヒットした理由のひとつになっていると思います。
若者の歌で描かれる主題
五木ひろしさんは人気を得られた頃から演歌歌手という印象です。そして当時の演歌歌手が歌ったヒット曲で"駆け落ち"を題材にした作品が思い浮かびません。
この主題はヒット曲では「花嫁」のインパクトが大きいですが、"親に認められない愛"という解釈をすると、映画では『卒業』、『ロミオとジュリエット』や『ある愛の詩』が思い浮かびます。いずれも主題歌がヒットしています。
若者視点で描かれる作品では盲目的に愛を信じる希望の気持ちが描かれがちですが、「愛の始発」で描かれる心情はそれだけではないと思います。
愛を信じる気持ちと親の気持ちを裏切る事をしてしまう罪悪感も描かれているように感じます。
歌詞の文字数が少ないのに、この心理表現を作詞出来る山口洋子さんはスゴイ!と感じます。
曲情報
徳間音楽工業株式会社
ミノルフォンレコード
品番:KA-588
A面
「愛の始発」
英題:Ai no shihatsu
作詞:山口洋子
作曲:猪俣公章
編曲:森岡賢一郎
演奏時間:3分55秒
ミノルフォンオーケストラ
B面
「恋は淡雪(あわゆき)」
作詞:山口洋子
作曲:猪俣公章
編曲:竜崎孝路
演奏時間:3分22秒
ミノルフォンオーケストラ
参考資料
「愛の始発」レコードジャケット
『レコード・マンスリー』日本レコード振興株式会社
『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン