歌だけ残った映画主題歌のヒット曲
ディック・ミネさんの「人生の並木路」は昭和12年(1937年)に発売されました。
歌の登場人物が"兄と妹"という設定は珍しいですが、映画主題歌として製作された作品です。
注)TEICHIKU RECORDSの動画
「人生の並木路」は1937年2月に発売されたようです。1937年7月に盧溝橋事件が起き、日中戦争の戦況が日常生活で報道され始める戦時下の数か月前です。
国民生活が戦前の価値観で製作された作品と思いますが、この曲が歌う主題は戦時下になってからますます支持されたのではないか?と感じます。
妹の心を支える兄の気持ち
映画の原作『検事の妹』を読んだ事はありません。しかし「人生の並木路」で描かれる場面、"幼くして親を亡くし故郷を離れざるを得なかった不憫な境遇"や"妹が頼れる存在は兄だけで、「自分が親代わりにしっかりしなければいけない」という兄の心情"を読み取る事ができます。
「人生の並木路」は"兄が妹を想う心情"が描かれた数少ない作品です。おそらく、この心情を描いたのは流行歌史上初めてで、ヒット曲の世界では名を残す理由のひとつと思います。
同じ主題で思い浮かぶヒット曲は、1970年代に目立ちます。かぐや姫さんの「妹よ」(1974年)や加山雄三さんの「ぼくの妹に」(1976年)、さだまさしさんの「親父の一番長い日」(1979年)です。
シンガーソングライターが作曲する時代に描かれ始めた心理と思います。
それぞれの作品で歩んだ人生や時代が違いますが、"兄が妹を想う気持ち"は共通していると感じます。
映画では現在でも名が知られている『火垂るの墓』が思い浮かびます。しかし戦後のヒット曲では、親を亡くした兄妹の戦災孤児が主人公の作品は描かれませんでした。
戦前に兄妹を主人公にした「人生の並木路」の主題が異例である事が分かります。
突然描かれた"兄妹愛"
私は映画も文学もほとんど知らないため、浅はかな考えで想像を続けますが映画『検事とその妹』があまり後世に名を残していない事が気になります。
映画より曲の歌詞が主題を描いている事で支持され、「人生の並木路」だけが後世に名を残す事になったのではないか?と疑ってしまいます。
"ドラマやアニメがヒットしなくても主題歌が流行る"という現象でヒットしたのではないか?と想像しています。
キネマ旬報ベストテン歴代1位(2022年発表)キネジュン作品賞の受賞映画 (gaffer.jp)には、1937年の『検事とその妹』はノミネートしていませんが、1936年のベストテンに『兄いもうと』がノミネートしている事が気になります。(1939年の『兄とその妹』もとても気になりますね・・・(^^;A)
それぞれどういった映画か分かりませんが『検事とその妹』は、室生犀星さんの『あにいもうと』(1934年連載)の人気から映画化された『兄いもうと』(1936年公開)に便乗して企画された作品だったのではないか?と思ってしまいます。
1937年の『検事とその妹』に関する当時の評価などの資料があれば良いのですが、現時点で見つけられていません・・・(>_<)。
しかし流行歌の視点から見ると『検事とその妹』のおかげで、「人生の並木路」で描かれる心情がとても斬新な視点でドラマチックな内容になっており、とてもありがたいと感じています。
歌詞が4番まであります。3拍子の作品ですが、歌詞を増やすために古賀政男さんは3拍子で作曲されたのでしょうか。
戦前の作品ですが、歌で描かれる心情は今聴いても通用すると思います。
参考文献
『日本流行歌史(上)1868~1937』社会思想社