ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。2025年は昭和100年。

「ホテル」島津ゆたか(昭和60年)

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流行時期(いつ流行った?)

 島津ゆたかさんの「ホテル」は、昭和60年(1985年)にヒットしました。

 

 オリコンランキングでは、2月に発売されたレコードは、4月下旬に最高順位を記録しています。

 

 最高順位は40位台とかなり低く、その年を代表するヒット曲ではないかも知れません。しかし、1年間にわたってランクインし続けた事が特徴的な作品です。

 

 "特定の層で支持され続ける"という、かなり記録に残りにくいヒットをしています。

 

 当時、カラオケブームで支持が集まった作品かも知れませんね。

 

 


島津ゆたか - ホテル

注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 KING RECORD CO., LTD.(KING RECORDS の代理); Muserk Rights Management、その他 2 件の楽曲著作権管理団体

 

 

 「ホテル」は、「矢切の渡し」(1983)や「浪花節だよ人生は」(1984)、「片恋酒」(1984)のように、各社競作となっています。

 

 立花淳一さんのレコードも発売されていますが、オリコンでは島津ゆたかさん盤が最も支持を集めています。

 

 

光景が目に浮かぶ生々しい歌詞

 「ホテル」は、主人公の心情が手に取るように伝わってくる作品です。曲を聴くと、描かれる場面を頭の中で容易に想像する事ができます。

 

 "歌詞は聴く人によって解釈が異なる"というのが一般的ですが、この作品は誰が聴いてもほぼ同じようなイメージを思い描くだろうと感じます。

 

 歌詞の意味を考えさせるような事が無い作品、まるで作詩家が「書いてある通りです。」と言っているかのような"分かりやすさ"は、かなり珍しい表現であると感じます。

 

 それだけ具体的に描写しており、まるで小説の一場面を抜粋したような作風です。

 

 

なかにし礼さんの作詩力

 作詩されたなかにし礼さんの作品には、「ホテル」のように、登場人物のリアルな感情を捉えた描写が登場する事があります。

 

 「今日でお別れ」(1970)の恋人がネクタイを直す描写も、同じくらい印象に残っています。

 

 「ホテル」では、電話帳や休日の不倫相手の自宅を見てしまう愛人の行為が描かれていますが、現実を見てしまったショックな気持ちが前面に描いています。

 

 おそらく、歌の主人公は偶然見かけたのでは無いと思います。背徳の行いをしながらも期待を寄せて、見てはいけないけど見てみたいと、欲望と道徳心のあいだで葛藤し、欲に負けた心理が描写されています。

 

 登場人物の行動を描くことで、その人の裏に隠れている気持ちを描写する作詞のテクニックは、よほど人が好きな方で無いと出来ないと思います。

 

 おそらく、なかにし礼さんは人が好きで、普通の人が気付かない些細な事も見落とさずに、理解しようとする才能を持っておられたのだと思います。

 

 

 形が残らない会話や発言ではなく、目に見える"行動"を描写する。

 

 その振る舞いの背景に隠された心情を、歌詞で表現できる方は、有名な作詞家の方々でもあまり思いつきません。

 

 

不倫が主題のヒット曲

 1980年代前半、若者向けの作品では、不良と呼ばれる人物像が描かれる事が目立ちます。

 

 大人向けの演歌・歌謡曲はどうだったか?というと、“夫婦愛”が主流だったのに、“不倫”を題材にした作品がヒットし始めます。

 

 「3年目の浮気」(1982)と「さざんかの宿」(1983)がヒットし始めた頃から、「ホテル」や「愛人」(1985)がヒットした数年間です。

 

 ちょうどテレビドラマ『金曜日の妻たちへ』の3シリーズ(テレビドラマデータベースのWebページ)が放送された期間と重なります。

 

 不倫が題材となったドラマのようですね…(^^;A。当時、道徳に背く行為の代表としてブームになってしまっていたのでしょう。

 

 

価値観の変化が生まれた1980年代

 1980年代は、不良や不倫といった主題が扱われ支持を得始めました。しかし、この年代だけが特に荒れていたとは感じません。

 

 1980年代以降、現在もなお続いている、個人の心の荒れ具合、満たされない欲求が描かれたエンタメ(小説、ドラマ、歌)が登場し始めた時代と解釈しています。

 

 1970年代以前の日本であれば潔くあきらめれたのに、あきらめられなくなった時代と変化したのでしょう。

 

 これは、日本の生活水準がかなり豊かになった事が背景にあると考えています。

 

 日常生活に必要なモノではなく、己の欲望を刺激するモノが世の中にあふれ始めた年代だったのだと思います。

 

 不倫は、当時芽生え始めた"叶うなら手に入れたいという願望"を簡単に当てはめる事が出来るテーマなので、ヒット曲の世界でも多用されたのではないか?と考えています。

 

 

曲情報

 発売元:キングレコード株式会社

 品番:K07S-685

 

 A面

  「ホテル」

  作詩:なかにし礼

  作曲:浜圭介

  編曲:竜崎孝路

  収録時間:4分36秒

 

 B面

  「ホテル(カラオケ)」

 

 

 Director:坂本敏明

 Engineer:柄沢喜一

 Photo:三上路生

 Design:山口義信

 

 

参考資料

 「ホテル」レコードジャケット

 「テレビドラマデータベース」Webサイト

 『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン