記録が残っていない昭和歌謡の代表曲
井沢八郎(いざわはちろう)さんの「あゝ上野駅」(ああうえのえき)は、昭和39年(1964年)に発売されました。
195、60年代の高度経済成長期の集団就職を題材にした作品です。
後世に歌い継がれている昭和歌謡の代表曲ですが、当時レコードが売れた、という記録が残っていません。
音楽雑誌に掲載されている売上ランキングに「あゝ上野駅」は登場しておらず、「アレ?」と感じます。
井沢八郎さんの異色作
井沢八郎さんは男気を歌う作品がヒットチャートに登場しています。
初ヒットは「男船」(1963)です。先にヒットしていた、コロムビアの北島三郎さんの「なみだ船」で描かれる心理表現や場面設定が似ています。
続いて、「男傘」(1964)、「北海の満月」(1965)などがヒットしています。どの作品も力強い歌唱が印象に残る作品です。今で言う演歌のこぶしを効かせた作品です。
「あゝ上野駅」は1964年発売で、品番で推測すると「男船」と「男傘」の間に発表されています。
一連のヒット曲と比較すると、「あゝ上野駅」は題材が異なるため違和感があります。
謎のTBS田園ソング
レコード自体が売れなかったとしても、多くの人が「あゝ上野駅」を耳にする機会があったようです。
レコードジャケットに印字されているTBS田園ソングです。
ラジオ番組のタイトルで、おそらくヘビーローテーションで「あゝ上野駅」が放送されていた時期があったのだと推測されます。
同年に発表された村田英雄さんの「皆の衆」(1964)も田園ソングです。
この作品も売上ランキングには登場しておりません。
後世に名が残るくらい歌い継がれている事を考えると、レコードではなくラジオ番組から多くの人々に広まった流行歌と言えそうです。
当時のモノラル盤にはセリフが無かった
「あゝ上野駅」には、間奏にセリフが入っているバージョンがあります。これは、1960年代後半に発売されたステレオ盤のようです。
発売当時のモノラル盤には、セリフはありません。
現在歌い継がれているのはセリフ入りの「あゝ上野駅」と感じますが、ステレオ盤も売れた記録が残っておりません…。
おそらく、毎週のベスト100位の売上ランキングでは把握できない程の、小さな規模で支持され続けた作品であると感じます。
1週間に100枚として、1年で5200枚。10年続けば5万枚となります。
音楽配信ランキングでは、10年後に10万ダウンロードを達成する作品も多いですが、同じような形で支持を得続けたのだろう、と感じます。
記録が残っていないため断言はできませんが、高度経済成長期を経た1970年代になってからの方が人気が高かった?とも推測してしまいます。
青春時代の思い出を振り返るとき、共感しやすい「あゝ上野駅」を心に思い浮かべる方が多くいて、ひそかに支持を集め続けていたのかな?と想像します。
1970年代後半にカラオケがブームとなった時期もありますので、セリフ入りの「あゝ上野駅」は感情移入もしやすく、想い出に浸れる懐メロの人気曲だったのかな?と想像しています。
曲情報
発売元:東芝音楽工業株式会社
品番:TR-1053
A面
「あゝ上野駅」
作詩:関口義明
作曲・編曲:荒井英一
演奏時間:3分16秒
TBS田園ソング
東芝レコーディング・オーケストラ
B面
「艶歌一代」
作詩:松井由利夫
作曲・編曲:大沢浄二
演奏時間:3分37秒
東芝レコーディング・オーケストラ
参考資料
「あゝ上野駅」レコードジャケット