流行時期(いつ流行った?)
松山恵子さんの「アンコ悲しや」は、昭和36年(1961年)にヒットしました。
月刊ミュジック社発刊の『ミュージック・マンスリー』に掲載されている「今月のベスト・セラーズ」のランキング推移は下記の通りです。
年月 | 順位 |
昭和36年02月 | 15位 |
昭和36年03月 | 10位 |
上位20位までの月間ランキングでは記録されたのはふた月だけで、順位もそれほど高くありません。
松山恵子さんは現在でいう演歌歌手のような存在だったと推測されます。
おそらく20位以下でも長期間支持されるような売れ方をしており、一般的なヒット曲よりも息が長かった作品ではないか?と想像しています。
注)松山恵子 - トピックの動画
長音階メロディに合う歌声
「アンコ悲しや」は明るい印象を受ける長調(長音階)です。声質を分析する知識が無いため個人的な感想となりますが、松山恵子さんの歌声は、短調よりもこの作品のような長調が合っているように感じます。
松山恵子さんの作品では、「だから言ったじゃないの」(1957発売)や「お別れ公衆電話」(1959発売)、「別れの入場券」(1963発売)も有名ですが、残念ながらランキングの記録は見つけられません。
当時どれくらいレコードが売れたかが不明の作品ですが、短調の「お別れ公衆電話」よりも長調の「だから言ったじゃないの」や「別れの入場券」の方が、聴いていて辛くなく、自然に耳に入って来る印象を受けます。
高い声を出せる方なので、高い音域を短調の作品で聴くと、切なさが必要以上に増してしまうのかも知れません。
音楽知識は学生時代の授業で習った程度しかなく、調性には明るく聞こえる長調と悲しく聞こえる短調という基礎しか知りません。
松山恵子さんのヒット曲で考えると、「アンコ悲しや」の他に、「恋の三度笠」(1961)、「キュッキュ節」(1962)や「酒場小唄」(1966)と長音階の作品が目立ちます。
悲しいストーリーに合う歌声
調性は明るくても、歌詞で描かれる心情は明るさではなく、切なさを感じる内容が多いです。どの作品でも、慕う人が遠くに離れてしまって、自分自身の恋心を伝えられない女性の心理が描かれています。
「アンコ悲しや」の舞台は伊豆大島です。"アンコ"は島倉千代子さんの「東京の人よさようなら」(1956発売)にも登場し、流行歌では頻出する単語ですが、伊豆大島の方言で"女性"を意味しています。
想いを寄せる男性は東京に行ってしまったようで、帰ってくる日を待ち焦がれる心情が描かれています。
(そういえば伊豆大島が舞台の作品は、なぜか想いを寄せる人が東京に行ってしまいますね…(^_^;A)
声の響きにも明るさや悲しさを感じさせる要素があると思いますが、松山恵子さんの場合は、こういった悲しい気持ちを表現するのに適した、"泣き節"と呼ばれる声質を備えているように感じます。
作詞家さんもその事を心得ていたのか、どの作品でも悲恋のストーリーで描いたように感じます。
泣き節で、悲しい話で、さらに調性まで短調にしてしまうと、聴き手に与える悲しさが強くなるため、長調で作曲されているように感じます。
楽曲分析
バンドプロデューサー5の分析では、「アンコ悲しや」はE♭メジャー(変ホ長調)です。
歌唱で用いられている音階は完全なヨナ抜き長音階です。
歌唱についても気になる事が2点あります。
1つ目は、出だしのフレーズで歌唱のなかで最も高い音がいきなり登場し、その時点で歌の世界に引き込まれてしまう事です。歌詞もたくさん歌われている印象があります。
そして、曲の後半になると、息継ぎする箇所が歌詞の区切りとは異なる部分があったり、♪アンアアの歌詞が無い部分では、松山恵子さんの節回しがメインになっている部分がある事です。
曲の構成が凝っており、松山恵子さんの歌唱力を活かすために作られた作品のように感じます。
曲情報
1961年 年間43位(邦楽)
レコード
発売元:東京芝浦電気株式会社
品番:JP-1207
A面
「アンコ悲しや」
作詩:藤間屮雄
作曲・編曲:増田幸造
演奏時間:3分30秒
三味線 豊静
東芝レコーディング・オーケストラ
B面
「さようなら東京さん」
作詩:十二村哲
作曲・編曲:袴田宗孝
演奏時間:3分27秒
東芝レコーディング・オーケストラ
参考資料
「アンコ悲しや」レコードジャケット
『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社
『全音歌謡曲全集3』全音楽譜出版社
「バンドプロデューサー5」