ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。誤字はちょっとずつ修正します。

「傷だらけの人生」鶴田浩二(昭和46年)

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流行時期(いつ流行った?)

 鶴田浩二さんの「傷だらけの人生」は、昭和46年(1971年)にヒットしました。

 

 オリコンランキングによると、昭和45年12月末に発売されたレコードは、翌年4月~8月上旬にかけてヒットしています。

 ロングセラーとなった作品ですが、5月下旬から6月末に最高順位を記録していますので、最も流行ったのはこの時期と推測されます。

 

 

同時期に流行った曲(昭和46年5月下旬~6月末)

 尾崎紀世彦さんの「また逢う日まで」が首位となっています。

 

 映画『ある愛の詩』が大ヒットしており、フランシス・レイさんが演奏する主題曲「ある愛の詩」アンディ・ウィリアムスさんの歌う歌詞付きの「ある愛の詩」「ある愛の詩(日本語)」がヒットしています。

 

 ポップス系の若手歌手が歌う作品ではあおい輝彦さんの「二人の世界」加藤和彦と北山修さんの「あの素晴しい愛をもう一度」、歌謡曲ではいしだあゆみさんの「砂漠のような東京で」森進一さんの「おふくろさん」がヒットしています。

 

 

 


傷だらけの人生(予告編)

 

 上の動画は、映画の宣伝予告です。曲が人気を集めた事から、映画化されたようです。

 

 

全盛期を過ぎてからのヒット曲

 鶴田浩二さんは映画俳優ですが、レコードも吹き込んでおられます。流行歌の世界で活躍されたのは1950年代です。「傷だらけの人生」がヒットする20年前の時代になります。

 

 さすがに当時の記録は残っていませんが、「街のサンドイッチマン」「好きだった」は、後世に語り継がれるくらいヒットしたようです。

 

 流行歌の世界ではごく稀に、長年の人生経験を積まなければ表現できない音楽がヒットする事があります。「孫」(平成12年)や「千の風になって」(平成19年)といった作品で歌われる心境は、今の私ではピンと来ません。

 

 「傷だらけの人生」も、人生経験がなければ歌えない心理が描かれた作品だと感じます。

 

 

伝えたい事を伝える事が出来ている作品 

 「傷だらけの人生」は端的に型に当てはめると"説教ソング"です。昔活躍された方が今の世の中を見て、「それは違うんじゃありませんか?」と諭す歌です。他に類がないテーマで、大変珍しい作品です。

 

 ヒットした事を考えると、聴き手は発言者の考えに耳を傾けさせ、「おっしゃる通りです。」と感じさせるような、伝える事が出来る表現力を持った作品であると感じます。

 

 日常生活で様々な場面で、「言った言わない。」がまかり通っていると思われますが、「言う」というのは、発言した本人の行動を示すだけで、発言した内容が相手に伝わったかどうかは不明です。

 

 この作品も言いたいことを言っているものの、聴き手に伝える事が出来ている作品だと感じます。

 

 

伝えたい事って何?

 鶴田浩二さんは戦争を経験された世代で、「同期の桜」も同時期にロングセラーとなっています。この作品はカバー曲ではなく「同期の桜」のメロディをバックに、特攻隊として出撃する若者が綴った日記を朗読する作品となっています。

 

 「同期の桜」が先に支持を集めているため、「傷だらけの人生」には、戦争を経験された世代の方が、復興した1970年代初めの日本の姿を見つめて思われた心情が綴られていると感じてしまいます。

 

 歌詞で歌われる、故郷は荒れ放題、というのは、1950年代中頃から多く歌われて来た、若者が故郷を離れて都会に勤めるようになった世の中の仕組みを嘆いているように感じます。

 また、心からの愛ではない一時の恋心にうかれる若者の姿を嘆く心理も描かれています。

 

 

相手に伝わる伝え方

 1、2番は「今の世の中はおかしいのでは?」と問いかける歌詞になっていますが、3番では、「偉そうな事を言う自分は、素直に今の平和な世の中を喜べない拗ねた人間です。」と、急に自虐的に自分を落としています。

 

 

 3番の心理が「傷だらけの人生」が支持を得た理由だと考えます。自虐的ですが、歌謡曲でよく見られる恋人にフラれたときに自分を責める心理でもありませんし、世の中を完全に否定するような拒絶の心境でもありません。

 

 本当はもっと言いたい事があるのでしょうが、それを言わずに身を引き、後は相手に考えさせるような歌詞になっています。

 

 生きるか死ぬかがかかった敗戦末期・戦後期の日本を生きて来られた方々の心理を、控えめに代弁しているような作品と感じます。 

 

 

楽曲分析

 「傷だらけの人生」はBマイナー(ロ短調)です。音階はヨナ抜き短音階です。この音階が用いられる作品と言うと、ついコブシを効かせた演歌を連想してしまいますが、あっさりとした歌謡曲の印象があります。

 

 サビの部分で、4つ目の音がメインで使用される箇所もあり、演歌的な響きはほとんど感じられません。

 

 歌謡曲で、たまに登場する4分の3拍子です。この拍子になると、歌手の持ち味である歌唱の節回しが少なくなりますが、なぜか聴きやすい作品が多いです。

 

 

曲情報

 発売元:日本ビクター株式会社

 品番:SV-2114

 

 A面

  「傷だらけの人生」

  作詞:藤田まさと

  作編曲:吉田正

  演奏時間:3分55秒

 

   ビクター・オーケストラ

 

 B面

  「嘘で男が泣くものか」

  作詞:藤田まさと

  作編曲:吉田正

  演奏時間:3分4秒

 

 

 

参考資料

 「傷だらけの人生」レコードジャケット

 「you大樹」オリコン

 『全音歌謡曲全集20』全音楽譜出版社

 「バンドプロデューサー5」