流行時期(いつ流行った?)
本田路津子(ほんだ るつこ)さんの「耳をすましてごらん」は、昭和47年(1972年)にヒットしました。
オリコンランキングによると、7月下旬に発売されたレコードは、9月、10月ごろにヒットしています。
同時期に流行った曲(昭和47年9月、10月)
よしだたくろうさんの「旅の宿」、小柳ルミ子さんの「京のにわか雨」、天地真理さんの「虹をわたって」が首位となっています。
麻丘めぐみさんの「芽ばえ」、郷ひろみさんの「男の子女の子」、森昌子さんの「せんせい」と、若い世代のデビュー曲が次々と人気となった時期です。
洋楽では映画『ゴッド・ファーザー』の主題曲の人気が高く、アンディ・ウィリアムスさんの歌う「ゴッド・ファーザーの愛のテーマ」と、ニーノ・ロータさんの演奏盤「ゴッド・ファーザー」がヒットしています。
NHK連続テレビ小説(朝ドラ)のヒット曲
「耳をすましてごらん」は当時放送されていたNHK連続テレビ小説『藍より青く』の主題歌です。
NHK連続テレビ小説(朝ドラ)からヒット曲が生まれたのは、このドラマが初めてではないか?と考えています。
1960年代には『おはなはん』(1966年)が人気を集めた事から、倍賞千恵子さんの歌う同名主題歌が広く知れ渡ったように推測されますが、当時のレコード売上の資料には、その作品が見当たらないからです。
朝ドラからヒット曲が生まれる構図は平成後期から目立ち始めます。作品に合った作品というより、その時代の流行歌手に吹き込んでもらうように依頼するスタイルに変化したからかも知れません。
フォークソング調の作品
ヒットした理由は、当時流行していたフォークソングを意識した作品だったからだと考えています。
「耳をすましてごらん」は、若者が抱く勇気が感じられる作品です。これからどういう人生を歩むか不安もあるでしょうが、希望を持って生きる姿が描かれていると感じます。
ドラマで描かれる時代背景は戦争末期~戦後間もない頃のようですが、苦しくても、自分は一人ではないという意気込みは、ドラマの主人公の心理と一致していたのだろうと推測されます。
この作品がヒットした頃のフォークソングが描いた世界は独創的で興味深い作品が多いです。60年代末から活躍されたザ・フォーク・クルセダースさんのメンバーが製作した音楽や、後々登場するよしだたくろうさんの音楽とも違うサウンドを持っています。
“主題歌がフォークソング”というと、市川崑劇場『木枯し紋次郎』の「だれかが風の中で」(昭和46年)も個性的な世界観を感じます。
短い期間ですが、「耳をすましてごらん」や「だれかが風の中で」がヒットした時期のフォークソングでは、“若者が胸に抱く希望”に焦点が当てられた作品が多いと感じます。
短調で始まって長調で終わる曲
「バンドプロデューサー5」の分析では、「耳をすましてごらん」は、B♭メジャー(変ロ長調)です。しかし、曲を聴いても、楽譜を見ても、出だしのメロディは短調に感じます。
『アナと雪の女王』の「Let It Go ~ありのままで~」や、斉藤和義さんの「やさしくなりたい」のように、最初はマイナーな響きなのに、最後で並行調の長調で終止するパターンの作品のようです。
こういった作品を聴くと不思議な印象が残ります。悲しい響きのなかに明るさを感じるのですが、やはり視聴後に残る響きは悲しさの割合が多いように感じます。
不安の中で希望を持とうとするような、揺れる心理を描いた作品にはピッタリの終止テクニックだと感じます。
楽曲分析
レ→ド→シ♭→ラ→ソと、音階を順に下降するイントロが印象的です。歌い出しのAメロでも、徐々に下降するようなメロディになっています。
Aメロのコード進行もⅠm→Ⅶ7→Ⅵ→Ⅴ7→Ⅳm6と、一つずつ下降しています。
下がり切ったと思ったら、Bメロはどんどん上がっていくような動きになっています。このあたりから、聴いていて、曲に明るさが生まれているように感じます。
最後のメロディは、明るさが勝っているような印象があります。
作曲された方が、流行歌の世界ではあまり耳にした事が無い方で、独特なメロディを作られていると感じます。
他のヒット曲で表現されていなかった世界観が、メロディからも感じる事ができる作品です。
曲情報
発売元:CBS・ソニーレコード株式会社
品番:SOLA34
A面
「耳をすましてごらん」
英題:LISTEN TO THE SILENCE
作詞:山田太一
作曲・編曲:湯浅譲二
演奏時間:3分21秒
NHK連続テレビ小説「藍より青く」主題歌
B面
「藍より青く」
英題:Theme from DEEPER THAN BLUE
作詞:山田太一
作曲・編曲:湯浅譲二
演奏時間:3分40秒
NHK連続テレビ小説「藍より青く」より
番組のテーマ音楽に作詩したものです。
参考資料
「耳をすましてごらん」レコードジャケット
「you大樹」オリコン
『全音歌謡曲全集21』全音楽譜出版社
「バンドプロデューサー5」