流行時期(いつ流行った?)
ビリー・バンバンさんの「さよならをするために」は、昭和47年にヒットしました。
オリコンランキングによると、2月に発売されたレコードは、6月末から9月中旬にかけてヒットしています。
同時期に流行った曲(昭和47年6月末~9月中旬)
この作品も首位となっていますが、前後では、天地真理さんの「ひとりじゃないの」とよしだたくろうさんの「旅の宿」が首位となっています。
アイドル系の作品では、新三人娘の小柳ルミ子さんは「瀬戸の花嫁」と「京のにわか雨」、南沙織さんは「純潔」がヒットしています。沢田研二さんの「あなただけでいい」や麻丘めぐみさんの「芽ばえ」もヒットしています。
フォーク系の作品では、あがた森魚さんの「赤色エレジー」、チェリッシュさんの「ひまわりの小径」がヒットしています。
そのほか、ハニー・ナイツさんの「ふりむかないで」、アンディ・ウィリアムスさんの「ゴッド・ファーザーの愛のテーマ」、山本リンダさんの「どうにもとまらない」がヒットしています。
※ビリー・バンバン - トピックの動画
抽象的な歌詞
この作品、実は私は歌詞を読んでも意味が理解できません。分からないなりに、“昨日は枯れていた花が、今日は咲いている”というフレーズが最も印象に残っています。そのまま解釈すれば、ありえない話ですので…。
主人公は別れた恋人を未練に感じているのか、登場人物が何人出てくるのか、それもよく分かりません。タイトルを「さよならをするために」と題した理由も不明確ですが、作詞された石坂浩二さんは、意図的に心情をあいまいに表現していると考えられます。
数年後に登場する小椋佳さんの作品と同様、現代詩のように抽象的な表現を用いる手法に似ていると感じます。
音楽はフィーリングで感じるものと捉えていますが、歌詞で取り組んだ作品はおそらくレコード流行歌史上、初めてと考えられます。“歌詞の意味を解釈する事が難しい作品”のヒット曲です。
画期的な作品ですが、ヒットしたという事は、こういった手法を否定せず受け入れる世代が登場し始めた時期と考えられます。
印象に残るメロディ
「さよならをするために」は、どちらかというと歌詞よりもメロディが印象に残る作品です。この作品は流行歌では珍しい旋律的短音階の作品です。名の通り、メロディをスムーズにするために作られた音階です。
コード進行で考えると、この時代のヒット曲は1つの調だけの世界で完結しているようなシンプルな作品が多いです。ヒットしている曲を覚えやすい要因のひとつと考えていますが、聴いていると、音楽に詳しくなくてもベタな印象を受けてしまい、飽きやすい性質も備えています。
しかし、この作品は1つの調の世界をはみ出して、聴き手にベタな印象を与えない進行になっているようです。本来の調性には存在しない和音を用いる事で、「この曲は一体どの調に向かおうとしているのか?」と聴き手には不安定な印象を与えてくれます。
サビの部分で登場しますが、主となるⅠmが急にⅠ7になってⅣmに向かう箇所で聴き手の予想を裏切っていると感じます。
「さよならをするために」はロ短調ですが、この部分だけで考えるとホ短調のⅤ7→Ⅰmの進行です。
・・・こういった区切り方が正しいのかどうか分かりませんが、聴いていて「アレ?雰囲気が変わったぞ。」と感じる部分です。
その後、Ⅱ7→Ⅴに進行する箇所も続きます。これは代理コードと呼ばれるテクニックらしいですが、この部分も調性があいまいで引き続き「どうなっていくんだろう?」という印象を与えてくれます。
歌詞だけでなく音楽面でも、不透明な印象を表現しようとした作品であると感じます。
曲情報
発売元:日本コロムビア株式会社
品番:X-11
A面
「さよならをするために」
英題:SAYONARA O SURU TAMENI
作詞:石坂浩二
作曲・編曲:坂田晃一
演奏時間:3分1秒
ゲイオン・レコーディング・オーケストラ
日本テレビ グランド劇場「3丁目4番地」主題歌
B面
「野ばらの咲いてた道」
英題:NOBARA NO SAITETA MICHI
作詞:菅原孝
作曲:菅原進
編曲:青木望
演奏時間:2分40秒
参考資料
「さよならをするために」レコードジャケット
『ORICON No.1 HITS 500 1968~1985 上』株式会社クラブハウス
『全音歌謡曲全集21』全音楽譜出版社
『歌謡曲の構造』小泉文夫 平凡社ライブラリー
『松田昌の音楽講座 ポピュラーアレンジの基礎知識』株式会社ヤマハミュージックメディア
「You大樹」オリコン
「バンドプロデューサー5」