ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。戦前戦中をけんきゅうちゅう。

当時の音楽雑誌に記録されていた「上を向いて歩こう」のヒットの軌跡

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流行時期(いつ流行った?)

 坂本九さんの「上を向いて歩こう」は、昭和36年(1961年)にヒットしました。

 

 当時、発刊されていた『ミュージックマンスリー』に掲載されている月間の売上ランキングの順位の推移は下記のとおりです。

 

集計日付 順位
昭和36年10月 4位
昭和36年11月 1位
昭和36年12月 1位
昭和37年1月 2位
昭和37年2月 4位
昭和37年3月 6位
昭和37年4月 10位
昭和37年5月 19位
昭和37年6月 20位

※『ミュージックマンスリー』歌謡曲部門のランキング推移 

 

 日本人が作詞作曲した作品という事で、歌謡曲部門に計上されています。このジャンルは、今で言う演歌もノミネートするランキングです。村田英雄さんや三橋美智也さんの歌われる、いわゆる演歌・歌謡曲が支持されていた時代です。

 

 しかし、演歌歌手の作品が多いなか、ポップス歌手の坂本九さんが歌う「上を向いて歩こう」は、9か月間ものあいだ上位にランクインしていました。

 

 数カ月が寿命である流行歌の世界で、異例のロングセラーとなった記録は、昭和36年の時点で、すでに「上を向いて歩こう」が、高く評価されていた事を裏付けているように感じます。

 

 実は、アメリカのビルボードチャートで1位を獲得する前に、作品の良さが日本で理解されていた作品だったと推測されます。

 

 昭和36年の11月と12月に、2か月間連続で首位を獲得しています。年末が最も流行していたようです。

 


Sukiyaki (Ue o Muite Arukou) - Kyu Sakamoto (English Translation and Lyrics)

 

同時期に流行った曲

 『ミュージックライフ』のランキングでは翌年の1月も首位になっています。そのため、3か月連続1位となっていますが、『ミュージックマンスリー』では、仲宗根美樹さんの歌う歌謡曲「川は流れる」に首位の座を奪われていました。

 

 「上を向いて歩こう」が流行っていた頃は、この年のレコード大賞に選ばれる事になるフランク永井さんの「君恋し」も流行していました。 

 洋楽では、コニー・フランシスさんが日本語で歌う「夢のデイト」や、ヘレン・シャピロさんの「悲しき片想い」がヒットしていました。

 

 

2年後にも小ヒット

 「上を向いて歩こう」は、「SUKIYAKI」というタイトルで海外で発売され、アメリカのビルボードチャート(Billboard)で1位を獲得するヒットとなった事は有名です。

 

 アメリカでのヒットを受けて、日本でも「スキヤキ」というタイトルで再発売され、ヒットした記録が残っています。

 

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 レコードジャケットには、『世界のヒット! 上を向いて歩こう「スキヤキ」』と印字されています。

 

 「スキヤキ」は、2年後の昭和38年のヒットチャートに登場します。しかし、表のレコードジャケットが一新されただけで、裏の歌詞カードや、レコードの品番、B面曲は最初に発売された盤と全く同じ内容です。

 

 21世紀になった現在でも唯一の記録を保持する「上を向いて歩こう」は、当時、特別な扱いをされる事が無く、「売れたから、ジャケットを変えて発売しよう!」という程度の、別ジャケの再販程度の企画になったようです・・・(>_<)。

 

 「スキヤキ」がランクインしているのは、『ミュージックライフ』さんと、海外誌『CASHBOX』のINTERNATIONALのコーナーで不定期に掲載されていたJAPANの週間ランキングのみです。

 『ミュージックマンスリー』にはランクインしていません。おそらく編集部では「スキヤキ」を、邦楽か洋楽のどちらに分類すれば良いのか議論があって、結局分からなくなったので、集計対象外としたのかも知れません。

 

 

 海外で高く評価された「スキヤキ」は、「上を向いて歩こう」とは異なり、ヒットチャートの首位になる事もなく、勢いが感じられない推移となっています。

 

 “全米1位”の偉業がどれだけすごい事か?という事を、当時の人たちもあまりピンと来ていなかったのだと思われます。

 そのため、2年前に大流行した「上を向いて歩こう」が、タイトルを変えて再発売されても、特に購買意欲を掻き立てる動機にはならなかったのかも知れません。

 

 

 バンドプロデューサーの分析では、「上を向いて歩こう」は、Gメジャー(ト長調)です。

 長調と表現すると、明るいメロディと捉えてしまいますが、曲全体を聴いた印象は、悲しめな印象を受ける作品です。

 

 間奏に吹き込まれている口笛も印象的ですが、孤独を感じる若者が前向きな気持ちを持とうとする心情が描かれており、なぜか励まされているように感じる作品です。

 

 

曲情報

 発売元:東芝音楽工業株式会社

 品番:JP-5083

 A面

  「上を向いて歩こう」

  作詞:永 六輔

  作曲:中村 八大

  編曲:中村 八大

  演奏時間:3分5秒

 

  東芝レコーディング・オーケストラ

 

 B面

  「あの娘の名前はなんてんかな」

  作詞:永 六輔

  作曲:中村 八大

  編曲:中村 八大

  演奏時間:2分53秒

 

  東芝レコーディング・オーケストラ

 

 

参考資料

 「上を向いて歩こう」レコードジャケット

 「スキヤキ」レコードジャケット

 『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社

 『ミュージュック・ライフ 東京で1番売れていたレコード 1958~1966』澤山博之 監修・著

 『CASHBOX』海外誌