昭和の流行歌に登場する“ご当地ソング”。実在の街の文化を象徴する単語がちりばめられた作品ですが、このジャンルには暗黙の価値観があります。
それは“都会と地方都市”の関係です。都会と言えばもちろん首都である東京です。歌謡曲に登場する街で人気なのは、長崎、京都、北海道、神奈川、大阪と様々な街があります。他にも流行歌の舞台となった街は数々あります。別の機会に集計してみようと思います。
極端な表現をすると、“東京にいて都会生活を楽しむ視点”と“東京にあこがれて上京する視点”があります。どちらも都会を意識した作品です。
東京を舞台にした流行歌は数々ありますが、その中で最も人気となった街は銀座と思われます。昭和41年にヒットした「銀座ブルース」はタイトル通り、銀座に生きる人たちの心情を歌った作品です。
歌っているのは、「誰よりも君を愛す」(昭和35年)、「お座敷小唄」(昭和39年)で有名な、松尾和子さんと和田弘とマヒナスターズさんのデュエットソングです。
集計日付 | 順位 |
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昭和41年5月 | 17位 |
昭和41年6月 | 11位 |
昭和41年7月 | 7位 |
昭和41年8月 | 15位 |
昭和41年9月 | 19位 |
※『ミュージックマンスリー』歌謡曲部門のランキング推移
注)松尾和子/和田弘とマヒナスターズ - トピックの動画
マヒナスターズさんは、様々な女性歌手とデュエットをされたコーラスグループです。ヒット曲の数で考えると、最も相性が良かったのは松尾和子さんだったようです。
松尾和子さんは大人の世界を描く作品にとてもマッチしていると感じます。ソロで歌唱される作品であっても、「お座敷小唄」のようなコミカルな作品であっても、聴き手は、大人の女性の繊細な心情が歌唱で表現されていると感じます。
大人の世界である銀座を舞台にした作品を歌うために、再びデュエットが実現したのだろうと思います。
「〇〇ブルース」という歌謡曲が流行していた時期ですが、その流れに乗って登場した「銀座ブルース」は、「誰よりも君を愛す」や「お座敷小唄」と違う点が1つあります。
それは、「東京ナイト・クラブ」(昭和34年)のように、男女が会話しているかのように、交互に歌うパートが存在している事です。
夜の世界の男女のかけひきが歌詞に登場しますが、お互いの心理を読みあう様子が描かれています。歌謡曲にありがちな断片的なセリフで、聴き手に登場人物の心理を想像させる面白い作詞であると感じます。
「銀座ブルース」は、都会での生活を謳歌しているような作品です。しかし、こういった作品は聴き手の共感を得にくい印象があります。
東京を舞台にした作品でも、恋人にフラれた主人公の心理を歌う「ラブユー東京」(昭和42年)や「新宿の女」(昭和45年)のように、やはり悲しさを取り上げた作品の方が支持されている印象があります。
もしかしたら、都会での生活を楽しむ様子を歌う事は、レコード業界ではあまり好ましくないと判断されていたのかも知れません。しかし、長年活躍している歌手の作品ならば、レコード化しても聴き手に受け入れられるのではないか?と考えた末に製作されたのだろうと考えます。
昭和41年は、なぜか比較的明るい心理を歌った作品が多く支持された年ですが、「銀座ブルース」も時代の空気にマッチして流行したのかも知れません。
マヒナスターズさんは、「北上夜曲」、「寒い朝」、「島のブルース」、「お座敷小唄」、「愛して愛して愛しちゃったのよ」と、毎年女性歌手とのデュエットで大ヒットを記録してきましたが、この年の「銀座ブルース」は、それらの作品と比べると、大ヒットとは言えない規模の流行です。
バンドプロデューサーの分析では、「銀座ブルース」はB♭マイナー(変ロ短調)です。
曲情報
発売元:日本ビクター株式会社
品番:SV-386
A面
「銀座ブルース」
演奏時間:3分40秒
歌:和田弘とマヒナスターズ、松平直樹、松尾和子
B面
「東京の夜は楽し」
演奏時間:2分35秒
歌:和田弘とマヒナスターズ、三原さと志
参考資料
「銀座ブルース」レコードジャケット
『ミュージックマンスリー』月刊ミュジック社