昭和33年(1958年)の洋楽ヒットチャートを眺めていると、この年の流行がうかがえるランキング推移に気づく事ができます。
1つは、この年に登場したポール・アンカさんの活躍
2つは、同じくベルト・ケンプフェルト楽団さんの活躍
3つめは、『戦場にかける橋』主題曲である「クワイ河マーチ」の流行
もっと注意深く見れば、細かな部分が明らかになりそうですが、今回は、ポール・アンカさんの活躍に注目したいと思います。
昭和33年、「ダイアナ」のヒットから注目を浴びたポール・アンカさんは、その後に発売されたレコードが、立て続けにヒットする事になりました。
3rdシングル「ユー・アー・マイ・ディスティニ(君は我が運命(さだめ))」と4thシングル「クレイジー・ラヴ」です。
2ndシングルの「お嬢さんお手やわらかに」は、あまりヒットしませんでした。
当時を知らない世代にとって、ポール・アンカさんの代表曲といえば、「ダイアナ」と「君は我が運命」しか思い浮かびません。
歳月が他のヒット作品の存在を忘れさせるのは、よくある事ですが、私もヒットチャートを見つけるまで、「クレイジー・ラヴ」という作品の存在を知りませんでした。
集計日付 | 順位 |
昭和33年6月 | 4位 |
昭和33年7月 | 1位 |
昭和33年8月 | 2位 |
昭和33年9月 | 4位 |
昭和33年10月 | 7位 |
※『ダンスと音楽』EP盤のランキング推移
お聞きになられると、お気づきになられる方も多いと思いますが、「クレイジー・ラヴ」は、「ダイアナ」ではなく「君はわが運命」の二番煎じのような作風になっています。
「クレイジー・ラヴ」のリズムは、「君は我が運命」と同じスロー・ロックです。マイナー調の仕上がりも、視聴した印象では似たものを感じます。
歌い出しでフレーズを引っ張るような歌い方をされていますが、この歌い方が「クレイジー・ラヴ」の作品の個性と感じます。
代表曲であるポップスの「ダイアナ」よりも、バラード調の「君はわが運命」の方が、聴き手に受けが良かった、と判断されたかのような選曲と感じます。
実際に、当時の日本のチャートで1位を獲得する支持を得ていましたので、「発信するレコード会社も、聴き手もニーズが一致したのかな?」と感じます。
作品内容に注目すると、つい、上記のような思考になってしまいます。しかし、昭和33年以降のポール・アンカさんの活躍を考えると、「この時点で多くの固定ファンを獲得していたから売れたのではないか?」とも推測できます。
ご自身で曲作りをされる方だからか、「クレイジー・ラヴ」のレコードジャケットでは、ポール・アンカさんの事を“ロカビリーのニュー・スター”と紹介されています。
私は、ポール・アンカさんの作品を聴いたときに、エルヴィス・プレスリーさんやジーン・ヴィンセントさんの作品のような、ロックン・ロールの魂を感じる事はありませんので、ポップス界のアーティストと捉えています。
前年に同じような形で人気者となったパット・ブーンさんと同じ系統のポップス歌手と感じます。
バンドプロデューサーの分析では、「クレイジー・ラヴ」はAマイナー(イ短調)です。シンプルな短調であるため、分かりやすさを感じます。この基本の音階で構成された作品が、ポップスと感じる理由だと思います。
コード進行については勉強中ですが、マイナー調ながら、作品に明るさも感じる作品です。
曲情報
発売元:キング・レコード
品番:PS-10
A面
「クレイジー・ラヴ」
原題:CRAZY LOVE
B面
「ロマンスの鐘は鳴る」
原題:LET THE BELLS KEEP RINGING
ドン・コスタ編曲・指揮の楽団
このレコードは78回転盤(P-4)と45回転盤(PS-10)の両方で販売しています。
参考資料
「ダイアナ」レコードジャケット
「君はわが運命」レコードジャケット
「クレイジー・ラヴ」レコードジャケット
『ダンスと音楽』ダンスと音楽社