「硝子坂」は昭和52年にヒットしました。1970年代後半、テレビのオーディション番組『君こそスターだ!』をきっかけに歌手となられた高田みづえさんのデビュー曲です。テイチクレコードのレーベル、ユニオンレコードから発売されました。
レコードは1977年3月末に発売され、5月から7月にかけてヒットしました。
1970年代は、“アイドル”と呼ばれる若い世代の歌手が多く登場し、支持された時代です。このブームに拍車をかけたのは、業界人のスカウトではなく、一般の視聴者が参加できるオーディション番組が存在していた事が大きいと感じます。
高田みづえさんは6年後の1977年にデビューされましたので、1970年代のアイドルブームの後期に登場した方になります。この年はピンク・レディーさんが大変なブームとなっていました。
オーディション番組でスカウトされた方の特権は、当時の流行の作詞家や作曲家の支えを得られる事だと考えます。
「硝子坂」は、当時、絶大な人気を獲得していたアイドルの山口百恵さんの作品を担当されていた宇崎竜童(うざき りゅうどう)さんが作曲された作品です。
「硝子坂」は、宇崎竜童さんの個性が感じられるメロディですが、高田みづえさんの歌唱が生きており、歌手の個性の方が生きているように感じます。高田みづえさんの高く伸びる声は民謡の歌唱に近いものがあり、無理して歌っているのではなく、自然に耳に入って来ます。
バンドプロデューサーの分析では、「硝子坂」はDm(ニ短調)です。曲を聴いて、明るいか暗いかは長調か短調かで判断できますが、耳に残りやすいメロディかどうかは、使用する音階に左右されます。
短音階なので、レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ♭・ド・レの音階ですが、6番目のシ♭を極力用いないメロディになっています。
1つでも音が少ない分、旋律には、ありふれた印象というか、どこかで聴いたことのある印象が生じます。
26抜き短音階の6の音だけを抜いた音階ですが、聴いた印象は耳に残りやすいメロディです。
作曲に工夫が感じられるのはこれだけではありません。最低音と最高音の音域が1オクターブに収まっている点も挙げられます。
やはりスカウト歌手と違って訓練を積んでいない原石であるため、自然に発生できる音域が狭いからかもしれません。80年代に人気を得た薬師丸ひろ子さんの作品も音域が限られている印象があります。
メロディは、高田みづえさんの音域の中で、無理せず出せる音を最大限に生かして作曲されているように感じます。
「硝子坂」のレコードジャケットには、プロフィールが記載されており、自己紹介が記載されていますが、追記という欄には「スターになったらおじいちゃんとおばあちゃんを東京見物させてあげたい。」と記載されています。
歌手の個性をアピールするために記載されたのでしょうが、おそらく、デビューに際してインタビューを受けたときに、取材する側の心に響いたために、追記として記載されたのだと思われます。
この作品には、製作陣が、新しい若い歌手の個性を尊重し、伸ばそうとする姿勢が形になっている事も感じ取る事ができます。
曲情報
発売元:テイチクレコード
レーベル:ユニオンレコード
品番:UC-30
A面
「硝子坂」
演奏時間:3分57秒
作詩:島武実
作曲:宇崎竜童
編曲:馬飼野康二
B面
「DOMO DOMO」
演奏時間:3分4秒
作詩:みうらよしこ
作曲:加藤和彦
編曲:馬飼野俊一
製作担当:松井浩
録音担当:田村行市
参考資料
「硝子坂」レコードジャケット
『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン
『全音歌謡曲大全集5』全音楽譜出版社
「you大樹」オリコン
「バンドプロデューサー5」