ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットするのか?は証明できないと思ってます。結果論であれこれ考えてます。

「同棲時代」大信田礼子[ナレーター:阿井喬子](昭和48年)

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 音楽が若者の娯楽となった昭和40年代。若者に支持された作品には、大学生の主人公が登場していました。

 

 昭和41年に、若者の音楽として誕生したフォーク・ソングが、大学生によって支えられていたからかもしれません。しかし、「同棲時代」がヒットした昭和48年には、若者固有の反体制の思想が歌詞に含まれる事も無くなり、音楽表現のひとつとなっていました。

 

 大信田礼子(おおしだれいこ)さんの歌う「同棲時代」(1973)で登場するのは、故郷をはなれて下宿屋の借り部屋で生活をする大学生です。学生ながら、勉学に励むとか、生活費をアルバイトで稼ぐ、といった昭和30年代に歌われた真面目な若者像ではありません。

 

 一人住まいの下宿の部屋で、恋人と二人で生活をしていた頃を想い出す歌詞が描かれています。

 

 「同棲時代」はフォークではなく、歌謡曲に属するサウンドで、題材は当時週刊誌に連載されていた漫画です。

 

 レコードジャケットには『現代のロマン“同棲時代”独占レコード化!』、『週刊漫画アクション連載 上村一夫原作“同棲時代”より』と印刷されています。

 

 原作が漫画なので、歌詞に描かれる登場人物の感情が豊かに表現されています。

 

 「同棲時代」の主人公は女性です。下宿屋で恋人と一緒に住んでいた頃を想い出しています。

 

 自分の恋焦がれる想いが相手に伝わらなければケンカをするような、一方的な感情表現をしていたような歌詞になっています。

 歌詞では彼女の心理ばかりで、彼の気持ちが描かれる箇所がほとんどありませんが、お互い同じような事をしていたと感じる事ができます。

 

 自分がどれだけ相手の事を深く想っているか、“彼を殺して私も死のう”、“現実を見ず、理想を見て暮らしていた”、“それが愛と信じて、喜んでいた”と歌われています。当時、同棲していた恋人に対して行った自分の愛情表現が、間違っていた事を想い出しています。

 レコードには「LOVE'S SWEET ERRORS」という英語タイトルも記載されています。

 

 同じテーマで描かれた「神田川」も同じ年にヒットしましたが、「同棲時代」の方が、当事者の心情を深く描写できていると感じます。

 

 同棲相手への激しい感情を描写していますが、この作品は、青春の真っただ中では、夢中で気付けなかった事を、何年か過ぎた後に冷静になって振り返る視点で描かれています。

 さらに、第三者の視点で、恋人の姿を風景として描写するようなナレーションも吹きこまれており、さらに客観的な視点で描いている事が強調されています。

 

 バンドプロデューサーの分析では、「同棲時代」はG♯マイナー(嬰ト短調)。暗い響きのする音階で、冒頭の下降和声進行の女声スキャットも独特の世界へ誘ってくれる、印象的な作品です。

 

曲情報

  発売元:CBS・ソニーレコード株式会社

  品番:SOLB-5

  A面

   「同棲時代」

   英題:LOVE'S SWEET ERRORS

   演奏時間:3分8秒

 

   ナレーター:阿井喬子

 

 

 

  B面

   「今日子と次郎」

   英題:KYOKO AND JIRO

   演奏時間:2分30秒

 

 

 

 現代のロマン“同棲時代”独占レコード化!

 週刊漫画アクション連載 上村一夫原作“同棲時代”より

 

参考資料

 「同棲時代」レコードジャケット

 『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン

 『全音歌謡曲全集22』全音楽譜出版社

 「バンドプロデューサー5」

 「you大樹」オリコン