ヒット曲けんきゅうしつ

なぜヒットする?は証明できないと思います。誤字はちょっとずつ修正します。

「トンコ節」久保幸江、加藤雅夫(昭和26年再発売)

2度発売されたレコード

 「トンコ節」はレコードが2度発売された珍しいヒット曲です。再発売されたとき歌詞もリメイクされています。

 

 レコード会社が企画したヒット予想が外れて「あぁ、名もなく消えてしまう・・・」と思いきや、時間差で人気に火が付いた事で後世に名を残した作品と思います。

 

 なぜそのような事になったのでしょうか?

 

 

<「トンコ節」に関する出来事の年表>

昭和24年01月 レコード(品番A500)を発売
昭和25年 朝鮮戦争勃発で特需景気
昭和26年04月 レコード(品番A1079)をリメイクして発売
昭和??年

ながいよう「日立ブルース」発売

(LP『関西フォークの歴史 1966-1974 (第2集) 』に収録)

 

 

 


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注)久保幸江/ポルチーニョ楽団 - トピックの動画

 

 

 朝鮮戦争で内需が拡大する前と後で、この作品の支持のされ方が変化したようです。

 

 国鉄ではなく省線と表現されている歌詞に、はるかかなたの現代社会を感じます。JR以前は国鉄と思い込んでいました。省線という呼称が存在していたのですね・・・)

 

 

流行る事が批判された?

 「トンコ節」は、今聴いても「俗っぽさ」が際立つ作品と思います。

 

 第一印象で拒絶される方もいれば、「面白い曲じゃない?」と思う方もいると思います。

 

 この心の働きは、現代でもTikTokで支持するかどうかの心理と変わりないと思います。

 

 しかし流行歌に関する書籍では、当時の「トンコ節」の流行を否定する記述が目立つ事が興味深いです。

 

「特需ブームで新興成金層がふえてくると、宴会などでさわぐためのお座敷ソングが流行した」と前置きして、「二十五年の特需ブームの頃、作詞者の西条八十がエロ味たっぷりの文句に書き直した」(『歌の昭和史』加太こうじ)

 

たいがいのことに驚かない大宅壮一氏も、さすがに「声のストリップ、それも全ストに近いものだ」と断じた。じつのところ、さいしょ、西条、古賀両氏も、筆名にしようか、と思案したそうだ。(『日本の流行歌』上山敬三)

 

 

 おそらく、多くの人たちに支持されている流行歌に対して「品が無さすぎる」とご指摘される心境と思います。

 

 エロ、ストリップ・・・この指摘、戦前にヒットした「忘れちゃいやョ」が内務省から指導される流れを感じます。

 

 戦後には検閲が存在しないため流行歌に対して行政指導した事例はありません。

 

 (代わりに民間企業の価値観でテレビ・ラジオの放送を自粛する流れが生まれています)

 

 行政ではなく民間で「こういう曲が流行るのは良くない」という価値観が生まれている事は大変興味深いです。

 

 

上にも下にもゆく日立のエレベーター

 「トンコ節」で検索すると、サジェスト候補に「トンコ節 替え歌」が出てくるので調べると面白いエピソードがヒットしました。

 

 特需景気の日立製作所でも「トンコ節」は愛唱され、替え歌が生まれていたようです。

 

 「日立トンコ節」で検索いただくと、春歌のように性行為を連想させながらも結局は自社製品をアピールする、というオチになる秀逸な替え歌が検索結果に登場します。

 

 替え歌は再発盤の「上へゆく下へゆく」が、自社製品のエレベーターを連想させたからと思います。

 

 当時、日立製作所に勤めておられた社員さんがひらめいたのだと思います。

 

 特需景気の頃に宴会の余興で歌われたであろう「日立トンコ節」は、時を経て生まれ変わります。

 

 関西でフォークソングがブームになった1970年代前後に永井ようさんが「日立ブルース」を発表されています。

 

 曲調はまったく異なりますが、歌詞は「日立トンコ節」を踏襲されています。

 

 

 現代では語られる事がはばかられる内容ですが、もしかすると「当時、多くの人がこの替え歌の存在を知る機会があるくらい広まっていたのでは?」と想像してしまいます。

 

 記録には残らない、戦後6年当時の日本の勢いを感じます。

「津軽平野」千昌夫(昭和59年、昭和60年)

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流行時期(いつ流行った?)

 千昌夫さんの「津軽平野」は、昭和59年(1984年)にヒットしました。

 

 1984年3月末に発売され、年末の紅白歌合戦で歌唱された事で人気が再燃したようで、翌1985年にも順位を上げています。

 

 


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注)千昌夫 - トピックの動画

 

 

 (もし可能でしたら、徳間ジャパンさんには公式フルコーラスMVの公開をお願いしたいと思っています。)

 

 

「待ち続ける心理」を描いた作品

 【待つ心理】は様々なヒット曲で用いられている印象です。

 

 【待ち続ける心理】を描いたヒット曲はなかなか思いつきません。

 

 最初に思いついたのが「津軽平野」です。

 

 1980年代初めには、「待つわ」(1982年)や「まちぶせ」(1981年)、「帰ってこいよ」(1980年)も思い浮かびます。

 

 これらの作品は【待ちつづける辛さ】より【私のもとに早く来てほしいと願う】心理を強く感じますので、主題は異なると思います。

 

 

 対義語か分かりませんが【勢いが止まらない心理】が支持される時代もあれば、【待ちつづける時代】もあるようです。

 

 1970年代中頃に三善英史さんの「雨」(1972年)がヒットした頃からもしばらく支持されたように感じます。

 

 小柳ルミ子さんの「冬の駅」(1974年)も待ち続ける主人公ですね。

 

 【待ちつづける心理】のみで考えると、二葉百合子さんがカバーした「岸壁の母」(1976年)がヒットした理由も納得です。

 

 

 「なぜ支持されたか分かりませんが、当時は【待ち続ける心理】が求められていた。」と思います。

 

 当時の日本人が心の中で"何"を待ち続けたのか?とても興味深いです。

 

 

会いたい人に会えない心理

 2020年代初めは新型コロナのパンデミックが人々を離れ離れにさせましたが、「津軽平野」では"降り積もる雪"が家族を離ればなれにさせる障害となっています。

 

 出稼ぎに向かったお父(おどう)の帰りを春まで待ち続ける主人公は、雪を「憎い」とは思わず、「仕方がない、耐えるしかない」と捉えています。

 

 私は雪国で生活した経験はありませんので、「津軽平野」で描かれるような"毎年冬になると家族が離れ離れになる事が当たり前だった時代"の辛さは想像できません。

 

 「津軽平野」のように、辛さに耐えて待ち続ける心理を描いたヒット曲は意外と少ないかもしれません。

 

 

 作詞・作曲された吉幾三さんは"人の優しさ"を表現されるアーティストと思います。

 

 千昌夫さんが歌われていても、曲を聴くと「やっぱり吉さんが作った歌か」となんとなく分かります。

 

 

曲情報

 発売元:株式会社徳間ジャパン

 レーベル:キャッツ・タウンレコード

 品番:CTS-2002

 

 A面

  「津軽平野」

  作詞・作曲:吉幾三

  編曲:京建輔

  演奏時間:3分47秒

 

 

 B面

  「旅の居酒屋」

  作詞:山田孝雄

  作曲:桜田誠一

  編曲:京建輔

  演奏時間:4分15秒

 

 

参考資料

 「津軽平野」レコードジャケット

 『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン

「竹田の子守唄」赤い鳥(昭和46年)

流行時期(いつ流行った?)

 赤い鳥さんの「竹田の子守唄」は、昭和46年(1971年)にヒットしました。

 

 『レコードマンスリー』の月間ランキングによると、2月に発売されたレコードは、3月から5月にかけてヒットしています。

 

 

<『レコードマンスリー』月間ランキング推移>

年月 順位
昭和46年02月 レコード発売
昭和46年03月 17位
昭和46年04月 12位
昭和46年05月 16位

 

 


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注)YouTube に使用を許可しているライセンス所持者 SME, Sony Music Entertainment (Japan) Inc.(Sony Music Direct (Japan) Inc. の代理); Polaris Hub AB、その他 1 件の楽曲著作権管理団体

 

 

ネガティブな感情も歌われる"民謡の子守唄"

 子守唄は【子供を寝かしつける事が目的の歌】と思います。

 

 字面から「こんにちは赤ちゃん」(1963年)のように【親の愛情が表現された歌】と解釈しがちですが、歴史的にそうでは無いようです。

 

 

 レコードのない時代に歌い継がれて民謡となった子守唄には【実親の代わりに子供の世話を強いられた人物が、早くおとなしく眠ってほしいと願う歌】が存在します。

 

 親代わりは"子守奉公"。この仕事が存在した時代の日本で民謡の子守唄が誕生したようです。

 

 

 ①「寝た子の可愛さ 起きて泣く子の 面憎さ(つらにくさ)」と歌う岡山県民謡の「中国地方の子守唄(ねんね守の唄)」

 ②「おどま嫌々 泣く子の守にゃ 泣くと言われて 憎まるる」の熊本県民謡「五木の子守唄」が有名です。

 

 他には「鳴くな鶏(にわとり) 夜明けの烏(からす) 鳴けば子守が きつござる」と歌う「博多子守唄」、「はよ寝ろ泣かんで おろろんばい」の「島原の子守唄」もあります。(『日本民謡選集』ドレミ楽譜出版社参照)

 

 

 「この子よう泣く 守りをばいじる 守りも一日 やせるやら」と嘆く「竹田の子守唄」もこちらに該当します。

 

 

 子守奉公の「とにかく、赤ちゃんはすやすや眠っていてほしい!」と願う本音が歌われています。

 

 関西より西側、西日本の民謡で多く歌い継がれている印象です。この地域限定の仕事だった?のかも知れません。

 

 

"子守奉公"の辛い想い

 子守奉公は"縁もゆかりもない勤め先で知らない赤ちゃんのお世話をする仕事"と思われます。

 

 「竹田の子守唄」を聴いていると、奉公人が赤ちゃんに対して「親に愛されずにかわいそうに」という人情も感じる事ができます。

 

 そして「でも仕事であやしているだけから、あまり泣かずに私に面倒かけないで」と願う複雑な心理も描かれています。

 

 【赤ちゃんが泣く=子守が下手⇒旦那さんや御寮さん(上司)に叱られる】という構図。

 

 現代でも容易に理解できる境遇ですね・・・。

 

 民謡の子守唄はこのような境遇におかれた主人公の心理を、短い言葉で深く掘り下げていると感じます。

 

 

若者の街・京都

 京都と言えば【歴史ある観光都市】というイメージを抱きますが、私は【最新の日本文化を発信できる都市】というイメージも持っています。

 

 1960年代末にブームを起こした関西フォーク、「竹田の子守唄」もこの延長で発掘された作品と感じます。そして2000年代のアニメーション技術。

 

 今後の京都も、新たな若者文化が発信される都市と感じています。

 

 このエネルギー源は、京都が【学生を大切にする都市】だからと解釈しています。

 

 いつの時代も若者は自分を縛る価値観が嫌い。

 

 これからの時代も、若者が「これは本物だ!」と感じたものがあれば、京都は先駆けて取り組み世界中を驚かせると感じています。

 

 

曲情報

 発売元:東芝音楽工業株式会社

 品番:LP-1220

 


 A面

  「竹田の子守唄」

  英題:TAKEDA-NO-KOMORIUTA

  作詩・作曲:不明

  編曲:赤い鳥

  演奏時間:3分5秒

 

 

 B面

  「翼をください」

 

  合歓ポピュラー・フェスティバル入賞曲

  最優秀新人賞・川上賞・作詩賞受賞曲

 

  英題:TSUBASA-O-KUDASAI

  作詩:山上路夫

  作曲・編曲:村井邦彦

  演奏時間:2分38秒

 

 

参考資料

 「竹田の子守唄」レコードジャケット

 『オリコンチャート・ブック アーティスト編全シングル作品』オリコン

 『レコード・マンスリー』日本レコード振興株式会社

 『日本民謡選集』ドレミ楽譜出版社

「あいさつの魔法」ACジャパンCMソング(平成23年)

国難に支持が集まる子供向けの歌

 大都市への空襲が本格化した昭和20年(1945年)に流行した「お山の杉の子」は戦前最後のレコード流行歌です。

 

 レコードは3月に発売されていますが、その後レコードを製造する工場が空襲を受けたようで、それ以降レコードの生産は行われなかったようです。

 

 

 「お山の杉の子」は子供たちが「お国のために」と歌う軍歌ですが、戦後には歌詞を書き直した希望の歌に生まれ変わっています。

 

 当時の大人たちが「曲に罪はない」と判断し、歌詞を変えて子供たちに親しんでもらおうと動いたのだろうと感じます。

 

 

 敗戦直前のような日本中が悲しみに暮れる状況はめったにありません。

 

 戦後では、平成23年(2011年)の東日本大震災が同じ規模で悲しみに暮れた年と感じます。

 

 この年も薫と友樹、たまにムック。さんが歌う「マル・マル・モリ・モリ!」がヒットしました。

 

 【大人たちも辛い状況の時、子供向けの歌に希望を感じる心理】は存在すると思います。

 

 

 東日本大震災が起きた時期にACジャパンのCMで何度も流れた「あいさつの魔法」にも似た心理が働いていたのではないか?と考えています。

 

 ただし、希望ではなく怒り?というかうんざりの心理です。

 

 この曲が茶化されたり、記憶に残り続ける理由と捉えています。

 

 


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日本中に衝撃を与えた能登半島地震

 2024年元旦に発生した能登半島地震は、どうしても「なぜ正月に起きるのか」という想いが拭えません。

 

 翌日に羽田空港で起きた航空機事故にさらなる衝撃を受けました。全員無事に脱出された報道で心が救われました。

 

 

リアルタイム映像の刺激

 元旦に発生した事に加えて、SNSに投稿されたリアルタイム動画がニュースで報じられた事も、ニュースを視聴する側に大きな心理ダメージを与えていると思います。

 

 私は震度7を被災した事はありませんので文字でしか認識していませんでしたが、ニュースで映されたSNS動画で、川の水が左右に波打つ映像や地面が生きているかのように揺れる様子を見ました。

 

 映像で震度7を見たのは今回が初めてかも知れません。

 

 事故直後の旅客機内の映像もリアルすぎます。

 

 心が痛む映像が生のままニュースで流されるので、見る側も気を付けないといけない時代になったと感じました。

 

 

不安な気持ちのサンドバッグ?

 失礼ながら、東日本大震災当時は「あいさつの魔法」が何度も流れるので、「まーた流れてるよ」と、うんざりしていた記憶があります。

 

 この曲を聴いて思い出すのは東日本大震災です。

 

 本来の「あいさつは大切です」という主題は全く無視された作品と思います。

 

 

 しかしこの作品は、当時の日本中が不安な気持ちのなか、図らずもイライラさせる心理に切り替えさせ、サンドバッグのように受け止める役割を果たしていた存在だったのかも知れないと感じています。

 

 この曲がしつこく流れたおかげで、いくらか不安が解消された可能性を感じます。

 

 こういった形で支持?された曲は他には全く思い浮かびません。

「幸せを掴んじゃおう」金田星雄、小宮恵子(昭和37年)

流行時期(いつ流行った?)

  金田星雄、小宮恵子さんの「幸せを掴んじゃおう」は、昭和37年(1962年)にヒットしました。

 

 海外雑誌『Cash Box』のJapan's Best SellersのLocalランキングによると、1962年8月に発売されたレコードは、10月6日発売号に掲載されたランキングから登場しています。(各週の集計期間は不明です)

 

【「幸せを掴んじゃおう」のランキング推移】

雑誌発売日 順位
1962/10/06号 8位
1962/10/13号 圏外
1962/10/20号 9位
1962/10/27号 不明(Japan's Best Sellersの掲載なし)
1962/11/03号 6位
1962/11/10号 8位
1962/11/17号 7位

 

 

 「幸せを掴んじゃおう」の音源を用いた動画が存在しますが「今現在、誰がこの作品の権利を持っているのか?」はまだ確認できていないようです。

 

 レコード会社を移籍された歌手の作品でもこの傾向が目立ちますが、「幸せを掴んじゃおう」の場合は、金田星雄さんが元プロ野球選手という経歴を持つ歌手だからと思われます。

 

 俳優が歌ったヒット曲も野放しになっている作品が多いと思います。

 

 早く適正な状態になってほしいと思っています。

 

 

"幸せ"とは何か?

 【幸せとは何か?】は数々のヒット曲で歌われています。

 

 1960年代、1970年代に目立つ印象です。

 

 おそらく当時の高度経済成長期は日常生活で価値観の変化が起こり、多くの人が何かを失っていると感じる心理が反映されていたのだと思います。

 

 最近は【正しさとは何か?】が目立ちますが、心の動きは同じことと思います。

 

 いつの時代でも、今を生きる人たちの心に芽生える違和感をヒット曲は代弁しているのだろうと思います。

 

 

幸せは"近くにあって、すぐ逃げる"

 「幸せを掴んじゃおう」は、【幸せは手の届かない遥か遠くに存在するものではなく、身の回りにたくさんあります】と歌っています。

 

 そして【すぐに逃げていくので見つけ次第ゲットしましょう。ただしゲットするときは優しく両手でね】と歌われています。

 

 

 "日常生活で幸せを見落としている状況"は「三百六十五歩のマーチ」(1969年)や「ふれあい」(1974年)など他のヒット曲でも描かれています。

 

 "幸せはすぐに消えたり逃げたりする"と表現している事に「幸せを掴んじゃおう」の個性を感じます。

 

 おそらく昨日あった場所に今日はいない。この作品が伝えようとしているのは、"人の優しさが幸せを運んでいる事"と思います。

 

 聴いていて心が暖まる作品です。

 

 

 歌詞カードにはタイトル上部に「うたごえの歌」と記載されています。

 

 当時ブームだったといわれるうたごえ喫茶で歌唱する作品向けに企画された盤?と感じています。

 

 B面が「武蔵野夜曲」。これは完全に「北上夜曲」(1961年)を意識していますね・・・。

 

 

 記録から、当時それほどヒットしなかったように感じます。

 

 その理由は「そんな事言われなくても分かってますよ」の価値観が一般的だったから?とも想像しています。

 

 

曲情報

 発売元:キングレコード

 品番:EB-717

 A面

  うたごえの歌

  「幸せを掴んじゃおう」

  作詩:横井弘

  作曲:中野忠晴

  編曲:上野正雄

  演奏時間:3分8秒

 

 B面

  うたごえの歌

  「武蔵野夜曲」

  作詞:横井弘

  作曲:中野忠晴

  編曲:上野正雄

  演奏時間:4分14秒

 

参考資料

 「幸せを掴んじゃおう」レコードジャケット

 『Cash Box』海外誌

 『昭和流行歌総覧(戦後編ー2)』柘植書房新社

「I'm a mess」MY FIRST STORY(令和5年)

流行時期(いつ流行った?)

 MY FIRST STORYさんの「I'm a mess」は令和5年(2023年)にヒットしました。

 

 「I'm a mess」は2021年7月14日に発売された「告白」のB面曲です。

 

 当時はmoraさんも配信されていなかったためか記録は残っておりませんが、オリコンランキングによると2023年4月中旬にダウンロードで初めてランクインしています。

 

 6月9日に『THE FIRST TAKE』にご出演されてからはダウンロードよりストリーミングでの人気が上昇してます。

 

 


www.youtube.com

注)MY FIRST STORY Official YouTube Channel 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

【コロナ禍真っ最中の心情】が描かれた曲

 上記の公式オーディオ動画も「告白」が発売された同日2021年7月14日にYouTubeで公開されています。


 サムネ画像が「告白」のため、レコード会社も『「I'm a mess」のメッセージ性を前に出したい!』という狙いは持っていなかったのだろうと推測します。

 

 歌詞に登場する「不要不急」や「隠された口元」、「宣言」は終わりの見えない新型コロナウイルスのパンデミックを経験した世代なら誰でも理解できます。

 

 2021年7月14日がどのような日だったか?

 

 『NHKニュース7』の電子番組表の見出しは、「▼東京の感染確認1149人 5月の第4波ピーク上回る」と表記されています。(NHKニュース7 | NHKクロニクル | NHKアーカイブス

 

 第5波が始まり始めた頃だったようです。(・・・正直に申し上げて私は当時の空気感を覚えていませんが、9日後の2021年7月23日に開催された東京オリンピックの開会式は覚えています。)

 

 「I'm a mess」がこの時期に発売されていた事を知ると、作品にとても関心が高まります。

 

 

【アフターコロナ】に注目を浴びる?!

 「I'm a mess」は2021年当時「終わりが見えないコロナ禍にうんざりしている心理を題材に曲でも作ろうか?」の気持ちで企画された作品だったかもしれない、と想像しています。

 

 そのコロナ禍真っ最中の心境を描いた「I'm a mess」が2023年に注目を浴びた事は興味深いです。

 

 2023年は数年間に及んだコロナ禍を、「そんな時代もあったよね」と軽く受け止められる心理になったから支持を集めたのではないか?と感じています。

 

 「I'm a mess」が発売された2021年7月は第5波が始まった頃、東京五輪を開催する事でさえ意見が分かれていた?という記憶もよみがえってきます。

 

 【誰もが何が正しいのか分からないまま進んでいた時代の混沌と希望】を直接的なフレーズで表現していると感じます。

 

 2023年のレコード大賞作詞賞に選ばれた事に納得しています。

 

 (レコード大賞の選考基準は【過去1年以内に発表された作品だけ】と思っていましたが変わったのでしょうか?「オトナブルー」(2020年発売)もノミネートしていて「?」と思いました。だったら個人的に「ケセラセラ」よりも「青と夏」を・・・)

 

 

シンプルに曲が良い

 コロナ禍に【TikTokでバズる事からバイラルヒットを生まれる流れ】を知りましたが、その縮小版?のような【ミームがきっかけで日本でヒット曲が生まれる流れ】が目立ち始めていると感じます。

 

 2023年4月に突然ランクインした「I'm a mess」の場合は、「アンパンマン新OP詐欺」と形容されるMAD動画のミームがきっかけになったのでは?と想像しています。

 

 2023年3月18日に「2023アンパンマン新OPが過去一良い」というMAD動画が投稿されています。

 

 


www.youtube.com

 

 

 「【音MAD】テイキョウ・ヘイセィ・ダイガク【帝京平成大学】」と「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ (feat. 花譜 & ツミキ)」(2023年)の関係を連想します。

 

 (「2023アンパンマン新OPが過去一良い」をYouTubeに投稿された方は2021年にMY FIRST STORYさんに注目されていたようで、「REVIVER」を題材にした「アンパンマン新OPがカッコいい」を投稿されています。)

 

 「I'm a mess」はボーカルもサウンド聴いていて心にスッと入って来ます。

 

 題材がコロナ禍になっているため、共感の気持ちが芽生えて心が救われる気持ちも生まれます。

 

 コロナが5類移行となった2023年のヒット曲には興味深い作品がたくさんヒットしていると感じています。

「可愛くてごめん」HoneyWorks(令和4年、令和5年)

流行時期(いつ流行った?)

 HoneyWorksさんの「可愛くてごめん」は令和4年末~令和5年(2022年~2023年)にかけてヒットしました。

 

 moraさんのランキングによると2022年11月に配信開始された作品は、4か月後の2023年3月に最高順位を記録しています。

 

 

<mora~WALKMAN公式ミュージックストア~月間ランキング推移>

年月 順位
令和04年12月 78位
令和05年01月 51位
令和05年02月 29位
令和05年03月 20位
令和05年04月 48位
令和05年05月 52位
令和05年06月 56位
令和05年07月 77位
令和05年08月 98位

 

 

 


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注)HoneyWorks OFFICIAL 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

かぴさんとちゅーたんさんの2バージョン

 「可愛くてごめん」は2022/11/18に公開された2つの動画で世間に浸透したようです。

 

 かぴさんが公開した「可愛くてごめん (feat. かぴ)」と、HoneyWorks OFFICIALが公開した「可愛くてごめん feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)」です。

 

 

 2023年11月現在は「可愛くてごめん feat. ちゅーたん(CV:早見沙織)」の再生回数が1億回を超えています。

 

 2つの動画の再生回数の推移は分かりませんが、「可愛くてごめん (feat. かぴ)」で楽譜が作られている事を考えると、最初はかぴさんの歌唱が人気を獲得していたと思われます。

 

 【同じ作品を複数の歌い手が歌う企画】は、1960年代のカヴァー・ポップスや1980年代の歌謡曲で登場した【競作】の要素も感じます。

 

 (歌い手が変わるだけで曲の印象も変わる。・・・「氷雨」と言えば今では日野美歌さんの歌ですが、当時は佳山明生さん盤が人気だった事を知ったとき驚きました。)

 

 

「自己肯定」の心理?

 「可愛くてごめん」は【自己肯定感】を強く感じる作品です。

 

 この視点で分析すると、ついついバブル経済期にヒットした「Diamonds」(1989年)や「勇気のしるし」(1990年)で描かれた心境に重なっている?と解釈してしまいます。

 

 『おしゃれをする心理』は「Diamonds」(1989年)の『好きな服を着ているだけで悪い事はしていない』の心理。

 

 『「ざまぁ」の心理』は「勇気のしるし」(1990年)の『海外企業を相手に自分のペースで商談を進めたビジネスマンの高笑い』に重なっていると思います。

 

 

 ・・・心情表現が似ているとは言え「可愛くてごめん」が支持された理由とまったく違うと思います。

 

 雑に表現すると【バブル期は高飛車な主人公で、現在はそれを目指す主人公】という価値観の差を感じます。

 

 

 「可愛くてごめん」は、周りから何と言われようと「自分らしく生きようと努力する姿勢」に共感や支持が集まったと思います。

 

 それは「自分が何者かになりたい!」と思う心理です。

 

 

「何者かになりたい」という心理!

 最近のヒット曲で気になっているフレーズは【「自分は何者か?」と問う葛藤】です。

 

 【何者】は他の年代でもほとんど登場した事の無い稀なフレーズです。

 

 (おそらく【何者】の初登場は、吉幾三さんが「レーザーディスクって何?」と表現されたときと思います・・・。)

 

 

<歌詞に【何者】が登場するヒット曲>

曲名 歌手名
ドラえもん 星野源 2018年
廻廻奇譚 Eve 2021年
怪物 YOASOBI 2021年
逆夢 King Gnu 2022年
ギターと孤独と青い惑星 結束バンド 2022年
なにもの King & Prince 2023年
青のすみか キタニタツヤ 2023年

 

 

 【「何かを成し遂げたい!」という胸に秘めた想い】を心強くしてくれる作品が、今の世代に支持されていると感じます。

 

 そして「自分は何物にもなっていない」とか「何者かになりたい!」というその心理が【コロナ禍になってから登場し始めた事】に興味があります。

 

 「廻廻奇譚」(2021年)が先駆けと思いますが、『呪術廻戦』に関連するヒット曲が目立つ事も気になります。

 

 「呪術廻戦」が2023年のレコード大賞の特別賞に選ばれた理由もこの流れが背景と思います。(輝く!日本レコード大賞|TBSテレビ

 

 

 おそらく「可愛くてごめん」の主題であろう【胸に秘めた闘志】は、過去のヒット曲でも描かれています。

 

 真っ先に思い浮かぶのは「王将」(1962年)です。

 

 たとえ時代や音楽表現が変わっても、ヒット曲が主題にする根本的な心理は何十年前も何百年前も変化はないのだろうと感じます。

「強風オールバック」ゆこぴ(令和5年公開)

流行時期(いつ流行った?)

 ゆこぴさんの「強風オールバック」は令和5年(2023年)に公開されバズりました。

 

 ヒットの記録を見つけられませんでしたので、2023年の何月に流行ったか?までは突き止められませんでした。

 

 


www.youtube.com

注)Yukopiさんの動画

 

 

 初めて聴いた時はまったくピンと来ませんでした。

 

 【ボーカロイドが歌っている曲】で知っているのは「千本桜」(2011年公開)だけです。

 

 "子供でも安心して見れるシンプルさ"が人気を集めたのだろうと想像しています。

 

 

流行り方は「帰って来たヨッパライ」と同じ?

 阪神タイガーズが日本一になった事で星野源さんイチ押しの「オマリーの六甲おろし」を知ることができました。(関西人ですが知りませんでした。ありがとうございます。)

 

 「オマリーの六甲おろし」のように【聴いている人に「何コレ?!」と感じさせる曲】がヒットチャートに登場することがあります。

 

 結果的にたくさんの支持を得てヒット曲に成長した作品がいくつもあります。

 

 

 そのなかで私がいまだによく分からないのが、オリコン史上初のミリオンセラーとなった「帰って来たヨッパライ」(1968年)です。

 

 このタイプには【瞬間的な勢いで多くの支持を集める傾向】もあります。

 

 

 「この爆発力は一体どこに存在していたんだろう?」と思います。

 

 「帰って来たヨッパライ」の起爆剤は深夜ラジオ放送と書籍で目にした事があります。

 

 「強風オールバック」もきっかけが深夜ラジオからインターネットに変わっただけで、「何コレ面白い!」と受け取る心理に差は無いのでは?と解釈しています。

 

 

 「強風オールバック」のナンセンスさはコミックソングに通じると思います。

 

 昭和から存在するコミックソングは、平成になってから数が減った印象です。

 

 規制が厳しくなったテレビから姿を消した印象です。

 

 インターネットが一般的になった令和から、ネット人口増加によりネットミーム(ミーム)が盛り上がり始めていると感じます。

 

 【ナンセンスな歌はネット経由で世間に浸透する時代】になったかも知れません。

 

 

恐るべし日清食品のマーケティング

 「強風オールバック」がネットで流行っているんだと知ったとき、すでに日清食品さんがCMに採用されていた事を知りました。

 

 


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注)日清食品グループ公式チャンネルの動画

 

 

 日清食品さんは企業名も商品名も世間に浸透している企業ですので、名前を覚えてもらう事を目的にCM製作されていないと思います。

 

 【商品を購入してくれるであろう世代の流行りをマーケティングする事】を重視されて「強風オールバック」を起用されたと思います。

 

 

 (・・・日清食品さんのおかげでORANGE RANGEさんの「SUSHI食べたい feat.ソイソース」(2021年)も知る事ができました。本当にありがとうございます。)

 

 


www.youtube.com

注)ORANGE RANGE 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

 

素人も発信する"ネットミーム"の危険性

 今年のユーキャン新語・流行語大賞のノミネート30語が公表されましたが、ネットミーム(ミーム)が入っていないのは意外でした。

 

 生成AIのインパクトが強すぎたからでしょうか。

 

 ネットミームはアンダーグラウンドな印象を持っていましたが、今では「自発的に調べなくてもYouTubeのおすすめに出てくる」とか「興味は無いけどよく目にするので検索してみる」で容易にたどり着く事ができる時代になっています。

 

 2023年、無駄に世間を騒がせた"寿司ペロ"もTikTok発のネットミームと思います。映画『バービー』の公式が原爆をバカにしたネットミームにいいねをした事も問題視されていました。

 

 個人のノリで気軽に発信できますが、事件・事故に限らず戦争の被害状況でさえ目撃者が即座に動画で発信して共有できる時代です。

 

 発信するかどうかは個人の常識次第、インターネットは私みたいな素人でも発信できますので、悪意があったりモラルを欠いた発信が存在する事も当たり前と思います。

 

 さらに今年は生成AIで簡単に嘘まで作れるようになってしまった印象です。

 

 【今までの良いか悪いか?の道徳に加えて、本物か偽物かを見極める知識も必要なネット時代になってしまった】と感じます。

「美しい鰭」スピッツ(令和5年)

流行時期(いつ流行った?)

 スピッツさんの「美しい鰭」は令和5年(2023年)にヒットしました。

 

 moraさんのランキングによると、4月中旬に配信開始された作品は翌5月に最高順位を記録しています。

 

 昭和の感覚では納得できないかもしれませんが、ロングセラーの作品と感じます。

 

<mora~WALKMAN公式ミュージックストア~月間ランキング推移>

年月 4/10
配信開始
4/12
配信開始
令和05年04月 8位 31位
令和05年05月 7位 57位
令和05年06月 14位 圏外
令和05年07月 35位 圏外
令和05年08月 65位 圏外

 

 

 


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注)spitzclips 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

聴きなれない"鰭"で何をする?

 タイトルに用いられた【鰭(ひれ)】はヒット曲でも目にしたことのない漢字です。

 

 そのため最初は「何と読むのだろう?」が気になりますが、聴いているうちに【一体その鰭で何をするの?】が気になってくる作品と思います。

 

 

 作品を聴いて印象に残るのは【主人公が"何か"に対して抗おうという、前向きで心強い気持ち】です。

 

 

 【抗】という漢字もヒット曲ではあまり目にしませんが、【抵抗や反抗の"抗"】で目にすることがあり、強い意味を持つ漢字です。

 

 歌詞に【抗】が用いられたヒット曲には、「不協和音」(2017年)や「Cry Baby」(2021年)、「第ゼロ感」(2023年)が思い浮かびます。

 

 【"抗"=敵対する何かに全力で立ち向かう姿勢】を連想しがちなのは、表現するアーティストにとっても同じようです。

 

 上記3曲とも、歌唱や曲調で【全力で何かに立ち向かう姿勢】を感じる作品です。

 

 

 ・・・同じことを主題にしているはずの「美しい鰭」を聴いていても、その【切羽詰まった必死さ】を感じません。

 

 強者の余裕で必死さが無いのではなく、【自分が強いのか弱いのか分からないけれど「やってやろうじゃん!」と意気込む心理】を感じます。

 

 今までのヒット曲が描かなかった「今の自分自身を許容する心理」も含まれていると感じます。

 

 

 【抗う事】が主題ではなく【自分なりの抗い方】に掘り下げた「美しい鰭」の個性を感じます。

 

 

何十年経っても心に残る歌を作れるアーティスト

 流行歌手流行歌の寿命は数年程度と思います。

 

 大変失礼な表現ですが"新曲を売りにするレコード市場"は、生鮮食品と同じで賞味期限が短いと思います。

 

 ”飽きられたらおしまい"が前提の業界で【何十年経っても心に残る歌】は純粋に素晴らしい事だと感じています。(私がヒット曲が好きな理由です。)

 

 

 スピッツさんは「空も飛べるはず」「ロビンソン」などなど、何十年経っても多くの方々の心に残り続けるヒット曲を残すだけでなく、現在でも支持されるヒット曲を生み出されるアーティストです。

 

 「美しい鰭」が【初登場後にすぐヒットチャートから消えていくような作品】ではなく【今年のヒット曲】と感じる事が出来るくらいの記録を残している事が証明していると思います。

 

 

"タイアップ"はアーティストの力試しか都合の良い使い捨てか

 「美しい鰭」は映画『名探偵コナン 黒鉄の魚影』の主題歌です。

 

 2020年代のヒット曲は【人気のアニメやドラマ等の主題歌・挿入歌のタイアップが前提で曲作りが行われている】と感じる時代です。

 

 タイアップは戦前から行われている事なので違和感がないのですが、多すぎる気がし始めています。

 

 今は相乗効果となって、とても良い作品がたくさん生まれていると感じますが、【音楽を志したアーティストがタイアップありきで曲作りをする事は、本来したかった音楽を表現できなくなるさせる縛りになっているのでは?】と、モヤモヤ気になり始めています。

 

 肯定的に捉えれば自らの表現力を試すコラボと解釈できますが、映像作品のために利用されるだけのポジションという側面が気になります。

 

 依存関係のバランスを勝手に心配しています。

 

 

参考資料

 「音楽ダウンロード・音楽配信サイト mora ~WALKMAN®公式ミュージックストア~」

「青と夏」Mrs. GREEN APPLE(令和5年[平成30年発売])

流行時期(いつ流行った?)

 Mrs. GREEN APPLEさんの「青と夏」は【数年かけて多くの方々に知れ渡った流行歌】です。

 

 流行り方が特殊なので「どの年のヒット曲か?」の定義が難しいです。

 

 週間や月間のヒットチャートでは推測できませんが、令和5年(2023年)に最も流行したと解釈できます。

 

 

<「青と夏」のヒットの記録>

 2018年8月に発売されたCDは初登場で最高順位を記録しています。

 

 2020年8月にストリーミング総再生数1億回突破されています。(参考:『青と夏』リリックビデオ公開! | Mrs. GREEN APPLE official site (mrsgreenapple.com)

 

 2021年以降はオリコンのストリーミングランキングによると、単なるヒット曲ではなく、毎年夏ごろに再生回数が伸びる【夏の定番ソング】に成長しています。

 

 そして2023年は、CDやダウンロードでのランキングが再び伸びています。

 

 2023年は「青と夏」が幅広い世代に知れ渡った年と推測されます。

 

 


www.youtube.com

注)Mrs. GREEN APPLE 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

まさかのコロナ後にヒット?!

 2023年は【数年前に発売された作品がヒットする現象】が目立ちます。

 

 新しい学校のリーダーズさんの「オトナブルー」が注目されがちですが、MY FIRST STORYさんの「I'm a mess」も気になります。

 

 この傾向の要因のひとつにコロナ禍がある事は容易に察しが付きます。

 

 

<2023年に人気を集めた【数年前に発表された曲】>

曲名 歌手 配信開始日 きっかけ
青と夏 Mrs. GREEN APPLE 2018年07月12日 Mrs. GREEN APPLEさんのブレイク
僕のこと Mrs. GREEN APPLE 2018年12月26日
怪獣の花唄 Vaundy 2020年05月11日 2022年紅白出場
オトナブルー 新しい学校のリーダーズ 2020年05月01日 TikTok?
I'm a mess MY FIRST STORY 2021年07月14日 ネットミームのMAD動画?

 

 

 Mrs. GREEN APPLEさんの作品はどちらも"コロナ前に発表された楽曲"です。

 

 "コロナ後"の2023年、「僕のこと」より「青と夏」に対する人気が高まっている事が気になります。

 

 

すでに"今まで通りの青春"に人気が集まっていた

 大人も経験した事のない数年間にわたるパンデミックは、結局右往左往している間に収束した印象です。

 

 2023年5月8日に新型コロナウイルスが5類移行され(新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について|厚生労働省 (mhlw.go.jp))、今は11月。

 

 「毎日毎日全国の感染者数が報道される事が当たり前だったあの日常は一体何だったのか?」と感じ始めています。

 

 この数年間は若い世代の価値観に大きな影響を与えたと思います。

 

 そんなゆがんだ時代の価値観ではなく、もともとの価値観で青春を歌う「青と夏」。

 

 

 Mrs. GREEN APPLEさんが表現する前向きな気持ちを受け止める気持ちは、すでに若い世代には芽生えていたと感じます。

 

 楽曲提供された「私は最強」(2022年)が人気を集めた2022年夏ごろから始まっていたと思われます。

 

 

 やはり若い世代が真っ先に今までの日常の感覚を取り戻していたと思います。

 

 この価値観が2023年になって他の世代にも広がって「青と夏」の人気がさらに高まったのではないか?という印象です。

 

 「青と夏」に限らず、今年に時間差でヒットした曲は「本来2020年にヒットしていたのだろう」と感じています。

 

 「アイドル」も名曲ですが、個人的に今年を象徴するヒット曲は「青と夏」と感じています。

 

 もしレコ大にコロナを考慮した例外措置があれば・・・と感じています。

 

 

参考資料

 『青と夏』リリックビデオ公開! | Mrs. GREEN APPLE official site (mrsgreenapple.com) 

 新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

 「you大樹」オリコン

「SPECIALZ」King Gnu(令和5年)

流行時期(いつ流行った?)

 King Gnuさんの「SPECIALZ」は令和5年(2023年)にヒットしました。

 

 現在放送中の『呪術廻戦・渋谷事変』のオープニングテーマです。

 

 moraさんのランキングによると、配信が開始された9月に首位を記録しています。

年月 通常 ハイレゾ
令和05年09月 1位 15位
令和05年10月 5位 57位
令和05年11月 8位 79位
令和05年12月 ? ?

 

 


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注)King Gnu official YouTube channel 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

「渋谷ハロウィン」は「群衆が生みだす制御不能の力」の象徴?

 軽トラックが横倒しにされたニュース映像が代名詞の2018年渋谷ハロウィンは、多くの方の記憶に強く刻まれていると思います。

 

 その2018年の渋谷ハロウィンが『呪術廻戦』の"渋谷事変"の題材になっています。

 

 

 現実に起きた"暴徒化した渋谷ハロウィン"は実際には大した被害がなかったと思われます。

 

 しかし現在も語り継がれるほど世間に衝撃を与えた理由は、【みなぎる力を持つ若者がたくさん集まり、誰も制御できない底知れぬ力が生まれた事に恐怖を感じたから】だと思います。

 

 

 秩序を築いている人たち、その秩序に守られている人たちは【多くの人たちの力が集まると一夜で転覆される革命的なエネルギーが生まれる事】を心得ていると思います。

 

 築かれた秩序が乱される、という本能的な危機感が記憶に残っているのではないか?と想像しています。

 

 

 ・・・2013年の渋谷は平和的で、日本が2014FIFAワールドカップブラジルに出場が決まった予選の日に、ユーモアを交えた交通整理で脚光を浴びたDJポリスが話題となっていました。

 

 私は関西在住なので分かりませんが、渋谷に対して"正も負も入り混じり巨大なエネルギーが生まれる事がある街"という印象を持つようになりました。

 

 

それぞれの正しさが衝突する"渋谷事変"

 私はアニメでしか見たことが無い派なので語る事がおこがましいですが、前のシーズンで『呪術廻戦』の面白さを知ってから「渋谷事変ってどんなストーリなんだろう?」と関心を持っていました。

 

 まさかハロウィンの渋谷が舞台だったとは。

 

 そして呪いを祓う事で辛い思いをしてきた一部の呪術師がテロを起こすシナリオに驚きました。

 

 絶対的な悪が敵ではなく、同じ境遇の呪術師が「人間はそれほど守らなければいけない存在か?」という考えに至って去って行き、勝算が無いから策を練って命がけで勝ちに行こうとする背景を描いた渋谷事変は、読んだり視聴したりする人たちの心に訴える名エピソードと感じています。

 

 

 プラスの感情もマイナスの感情も交じる【混沌とした群衆から生じる得体の知れないエネルギー】のなかで【考えを異にした正義が全力で立ちはばかる状況】はとても見ごたえがあります。

 

 「SPECIALZ」はその渋谷事変の本質を見事に音楽化されていると思います。

 

 歌詞は誰視点で描かれているのでしょうか。事件の首謀者、巻き込まれた非呪術師の一般人、事態を収めようとする呪術師、もしかして五条先生や宿儺の視点も含まれている?と、事件に遭遇した人たちの様々な心境が描かれているように感じます。

 

 絶望か希望かは歌の主人公が誰になるかで変化し、いずれとも捉えられない"混沌"が表現されていると感じます。

 

 こういった心情や状況を描いたヒット曲は聴いた記憶がありません。

 

 

 普段透き通るような高音のボーカルが魅力的なKing Gnuさんが、あえて重低音を軸に歌われている事もこのエピソードを尊重されていると感じます。

 

 途中に登場する女性ボーカル?のような声も印象的に残ります。

 

 少しでもそういった演出があると曲の世界観が広がります。つい「LOVE PHANTOM」(1995年)を連想してしまいました。

 

 

参考資料

 「音楽ダウンロード・音楽配信サイト mora ~WALKMAN®公式ミュージックストア~」

「盆ギリ恋歌」サザンオールスターズ(令和5年)

流行時期(いつ流行った?)

 サザンオールスターズさんの「盆ギリ恋歌」は令和5年(2023年)にヒットしました。

 

 moraさんのランキングによると、配信が開始された7月に最高順位を記録しています。

 

<mora~WALKMAN公式ミュージックストア~月間ランキング推移>

年月 順位
令和05年07月 8位
令和05年08月 14位
令和05年09月 20位
令和05年10月 42位

 

 


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注)サザンオールスターズ 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

 

表のテーマは"日本の夏"

 「盆ギリ恋歌」で登場する「♪おどま盆ぎり盆ぎり」は「五木の子守唄」のフレーズで、ヒット曲にも登場する有名な民謡です。

 

 盆ぎりの"ぎり"を際どさを表すギリギリの"ギリ"と解釈して構成された歌詞にとても面白さを感じます。

 

 

 ・・・大げさな例えですが、世界史日本史に定説があるように【古いものを別視点で解釈する事】はすごく勇気が必要な事と思います。

 

 まして何か発信したら批判が付きまとう今の世の中、ユーモアでさらりとかわせるのは、桑田佳祐さんならではと感じます。

 

 

 【ギリギリのお盆】が主題。ギリギリなのはいつもの性的にセンシティブな表現。

 

 いつもの安心して聴ける際どいエロさを感じることができます。

 

 間奏のセリフに驚きました。「こんなんどうでしょう?」から間髪入れずに「あぁ気持ちいい」は何度聴いても笑ってしまいます。早い早い。

 

 そういえばサザンオールスターズさんのヒット曲でセリフがあった曲・・・今までにあったような、なかったような・・・。

 

 

 「難しく考えないで。楽しければいいじゃない!」という想いは、サウンドでも感じる事ができます。

 

 一度耳にするとすぐに理解できるような演奏や歌唱。

 

 楽譜を見たところ26抜き短音階を意識されていると思われます。6の音が少ないです。

 

 シンプルな音階は音楽を知らない私でも理解しやすく耳に残ります。

 

 

裏のテーマは"アフターコロナ"?

 ヒット曲が好きな私は、いつも桑田さんがどのような想いで歌詞を書かれているのか気になっています。

 

 「盆ギリ恋歌」はいつもの"夏のサザン"や"和のサザン"を感じます。

 

 そして【普段より一線を越えて真面目にふざけている】印象も受けます。

 

 やけにパーソナルな事に踏み込んでいる歌詞が気になるからです。

 

 

 お盆にはあまり詳しくありませんが、"うら盆"や"うらぼんえ"という言葉を耳にする事があります。

 

    "盆"をテーマにしているのなら、"裏盆"の秘められた想いを込められているのでは?と妄想して、これから勝手に解釈します。

 

 裏テーマは"脱コロナ"と思います。4点気になった事があります。

 

 

 最も気になった歌詞は、①「サザンビーチでナンパするならヨシオんとこ(夏倶楽部)」です。

 

 親しい方の事を歌詞にする、かなり踏み込んでいると感じました。

 

 理由はおそらく、長期間に渡るコロナ禍の外出自粛で大変な苦労されたであろう海の家を経営される友人をねぎらう気持ちを込めたかったからと感じます。

 

 

 ②「スーパーボウルやグラミー賞より」も気になります。どちらもアメリカで2月上旬に開催されたようです。2023年2月、日本はまだコロナ禍です。

 

 桑田さんはアメリカで視聴されていて、その頃のアメリカはすでにコロナ禍を脱してイベントが盛り上がっていた事を知っていたのでは?という気がします。

 

 

 ③曲の終盤でデビュー曲の「勝手にシンドバッド」(1978年)の歌詞を読経されている事も気になります。

 

 「帰ってきたヨッパライ」(1968年)でビートルズさんの作品を読経するパロディと思いますが、自身の作品を採用している事です。

 

 このアイデアをデビュー50周年ではなく45周年に前倒し?で採用された事に、正常な日常生活を取り戻しつつある今、一緒に盛り上がろう、という想いが込められていると勝手に解釈しています。

 

 

 ④はかなりのこじつけです。私は勝手に冒頭の「よろしく」は「はじめての僕デス」(1976年)の”よろしくたのみます”から着想を得られたのでは?と感じています。

 

 「よろしく哀愁」(1974年)や「CAN YOU CELEBRATE?」(1997年)、"そこんとこヨロシク"などインパクトのあるヒット曲はありますが、一般的に「よろしく」はあまり耳にしないフレーズなので気になりました。

 

 (まさか桂京子さんの「お待たせしました」(1966年)ではないはず・・・)

 

 新型コロナウイルスで亡くなられたザ・ドリフターズさんの志村けんさんを惜しみ称える気持ちをまず描かれているのでは?と勝手に妄想しています。

 

 

 2023年は数年間にわたる新型コロナウイルスのパンデミックから日常を取り戻し始めた年と感じます。

 

 数年前に発売された作品がヒットする現象が目立ちます。本当はもっと前にヒットしていたのだろう・・・と考えたりしています。

 

 

参考資料

 「音楽ダウンロード・音楽配信サイト mora ~WALKMAN®公式ミュージックストア~」

「香水」瑛人(令和2年)

流行時期(いつ流行った?)

 瑛人(えいと)さんの「香水」は令和2年(2020年)にヒットしました。

 

 moraさんのランキングによると、ヒットし始めた2020年に再配信されたようで2019年配信開始盤と2020年配信開始盤の2バージョンが記録されています。

 

 

<mora~WALKMAN公式ミュージックストア~月間ランキング推移>

年月 2019/04/21配信開始 2020/08/03配信開始 備考
通常 ハイレゾ 通常 ハイレゾ
令和元年04月 圏外 圏外 - - 4/21配信開始
令和元年05月 圏外 圏外 - - YouTubeにOfficial Music Video投稿
・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・
令和02年05月 51位 圏外 - -  
令和02年06月 6位 圏外 - -  
令和02年07月 7位 82位 - -  
令和02年08月 圏外 圏外 6位 44位 8/3配信開始。2019年盤が配信・ストリーミングでプラチナ認定
令和02年09月 圏外 圏外 8位 58位  
令和02年10月 圏外 圏外 21位 81位 ゴールド(10万DL)認定
令和02年11月 圏外 圏外 25位 圏外  
令和02年12月 圏外 圏外 24位 圏外  
令和03年01月 圏外 圏外 27位 圏外  
令和03年02月 圏外 圏外 95位 圏外  

 

 


www.youtube.com

注)瑛人 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

 後世に語られるであろうコロナ禍の自粛生活を象徴する流行歌と思います。

 

 

「♪ドールチェアーンドガッバーナ~」のインパクト

 「香水」が支持された最大の理由は【棒読みされ続けてきた海外ブランド名にメロディを与えた事】と解釈しています。

 

 作り手の意図とは関係なく聴き手がつい歌ってみたくなる「ドールチェアーンドガッバーナ」のフレーズ。

 

 「こんなとこにいるはずもないのに」や「行ったり来たり」に匹敵すると感じます。

 

 なぜか耳にした人たちの心に残り、口ずさみたくなるフレーズ。

 

 何が心をそうさせるのかは分かりませんが、この心理は面白いです。

 

 つい言いたくなる流行語の要素を備えていると感じます。

 

 

底の底まで落ち込んだ心理を歌う

 サビのブランド名のインパクトが強すぎて印象に残りにくいですが、「香水」は自らの事を簡単に"クズ"と断言するくらい、とてもネガティブな心境がつづられています。

 

 ヒット曲ではここまで落ち込んだ心情表現が支持される事はなかなかありません。

 

 当時を知りませんがオイルショックで戦後初のマイナス成長となった翌年に「昭和枯れすすき」(1975年)が支持を得た理由に重なる部分があるかも知れないと解釈しています。

 

 【日常生活が突然不安に陥いってしまう出来事】という点では、オイルショックと新型コロナウイルス感染症は共通していると思います。

 

 (調べていませんが、世界恐慌から数年後に制作された「暗い日曜日」も似た現象が起きていたのかも知れません。)

 

 

"男性が"底の底まで落ち込んだ"男性"心理を歌う

 【男性歌手が、自尊心を失うくらい落ち込んだ男性心理を歌う事】も「香水」の個性と感じます。

 

 男性歌手が「自分はバカだ、ダメなやつだ」という心情を描いたヒット曲と言えば、1970年代の「心のこり」(1975年)や「よせばいいのに」(1979年)のような歌謡曲が思い浮かびますが、これらの作品は【主人公が女性】です。

 

 

 【男性歌手が男性主人公で「自分はクズだ」と歌うくらいネガティブなヒット曲】。

 

 もしかすると「香水」が初めてかも知れません。

 

 「女々しくて」(2012年、2013年)が似た価値観を持っていると感じますが、「自尊心が傷ついた心理をユーモアでごまかしている」と解釈できるので少し違う気がします。

 

 

海外からも変化を求められる2020年代?

 【男が泣き言をいうなんてとんでもない】という価値観。

 

 大切にすべき日本特有の文化?「みんながそうして来たから」の習慣?

 

 「香水」のヒットは、既存の価値観を破ったという意味を持つ作品と思います。

 

 そして2020年代は、今まで「そういうもの」として黙認され続けてきた価値観が目に見えて変わり始めていると思います。

 

 (令和になってからレコード大賞も変わった印象です。)

 

 

 ・・・気になるのは2023年の日本が、なぜか海外から厳しい目で見られ「変化を強要されている」ような印象を受ける事です。

 

 戦争をしているウクライナへ首相が訪問した事、ITインフラの遅れを取り戻すためかマイナンバーを強引に進めた事、長年に渡る組織的な未成年への性犯罪が海外メディアから指摘されて問題化した事。

 

 ・・・まるで黒船来航の頃みたいに「欧米の基準を突き付けられている?」と感じます。

 

 世界はもっと進んでいるのでしょうか。

 

 

参考資料

 「音楽ダウンロード・音楽配信サイト mora ~WALKMAN®公式ミュージックストア~」

 一般社団法人 日本レコード協会 (riaj.or.jp) 

「アイドル」YOASOBI(令和5年)

流行時期(いつ流行った?)

 YOASOBIさんの「アイドル」は令和5年(2023年)にヒットしました。

 

 4月中旬に配信されてから長期間人気を獲得しています。2023年最も流行した楽曲と感じます。

 

<mora~WALKMAN公式ミュージックストア~月間ランキング推移>

年月 通常 ハイレゾ 備考
令和05年04月 1位 4位

4/12配信開始

ストリーミングでゴールド認定

令和05年05月 1位 3位

ダウンロードでゴールド認定

ストリーミングでプラチナ認定

令和05年06月 1位 3位

ダウンロードでプラチナ認定

ストリーミングでダブル・プラチナ認定

令和05年07月 1位 9位  
令和05年08月 1位 15位 ストリーミングでトリプル・プラチナ認定
令和05年09月 6位 26位  
令和05年10月 9位 50位  
令和05年11月 10位 67位  

 

 今はダウンロードより、ストリーミングが主流の時代みたいです。

 

 


www.youtube.com

注)Ayase / YOASOBI 公式アーティストチャンネルの動画

 

 

 

様々な視点で描かれる主人公

 「アイドル」はこれまでのヒット曲では描かれなかった新しい視点で詞が描かれていると感じます。

 

 冒頭の歌詞は、主人公をTVで見ている人、質問責めする芸能レポーター、推しのファン心理、同グループメンバーの嫉妬など、【主人公を取り巻く様々な立場の人たちの目線で主人公を描いている】ように感じる事ができます。

 

 慌ただしく入れ替わりますが、主人公を取り巻く人たちを描写する事で聴き手に向けて【小説を読むように世界観を把握させる事】を実現できていると思います。

 

 言葉で畳みかけるボカロでなければ難しい表現と思いますし、"小説を音楽にする"YOASOBIさんでなければ浮かばないアイデアと思います。

 

 後半は従来のヒット曲通り、主人公の心情だけが描写されています。

 

 

 ・・・数分間のヒット曲ではどうしても【物語の一場面を切り取って描く】とか、デュエットソング「木綿のハンカチーフ」(1976年)、「ドライフラワー」(2021年)のように【2人の視点で描く】が作詞家の限界だったと思います。

 

 仮に演奏時間を増やしても、尾崎豊さんや「親父の一番長い日」(1979年)、「トイレの神様」(2009年)のように1人の視点で綴る構成しか思い浮かびません。

 

 ("複数の視点"で捉えると「ブラザービート」(2022年)は近い気がしますが兄弟の視点にとどまっているので、様々な立場から主人公を描く「アイドル」とは違うと思います。

 

 強いて言えば三波春夫さんの長編歌謡浪曲のボカロ版みたいな感じでしょうか。)

 

 

    現実に起きていた2010年代のアイドルブームを目の当たりにしている事も、この作品への理解を容易にしていると感じます。

 

 

実際のアイドルはどう解釈した?

 実際にアイドルを経験した方々が「アイドル」をどう解釈されているのか?は気になります。

 

 「寝る間も無いくらい多忙過ぎて、そんな事を考える間も無かった」かも知れませんが、脚光を浴びている瞬間のアイドル心理に重なる部分があるのか?はとても興味深いです。

 

 

第二の「スキヤキ」を作ってほしい

 日本の聴き手には「YOASOBIさんの音楽と言えばボカロ」のイメージが定着している印象ですが、ボカロは海外では見当たらない日本特有の音楽表現と思います。

 

 これからは海外の方をアッと驚かせて、その国のヒット曲になるような作品を切り開いて頂きたいとひそかに期待しています。

 

 

曲情報

 MUSIC:Ayase
 VOCAL:ikura
 NOVEL:Akasaka Aka
 VIDEO:Naoya Nakamura

 

参考資料

 「音楽ダウンロード・音楽配信サイト mora ~WALKMAN®公式ミュージックストア~」

 一般社団法人 日本レコード協会 (riaj.or.jp)

 YOASOBI オフィシャルサイト (yoasobi-music.jp)

「有楽町で逢いましょう」フランク永井(昭和32年発売)

最も古い『歌謡曲ランキング1位曲』?

 ヒット曲が好きで様々な資料を探していますが、今のところフランク永井さんの「有楽町で逢いましょう」(SP盤1957年11月発売、EP盤1958年3月発売)が私が確認できた最も古い歌謡曲ランキング1位曲?です。


 オリコン以前の記録で参考にしている『ミュージック・マンスリー』1958年4月号に、1958年の『■流行歌3月のベスト3■』で一番上に記載されています。

 

<『ミュージックマンスリー』No.60(1958年4月号)>

 

 

 実際のところ上図には順位が書かれていませんので一位かどうか。加えて、ひとつの雑誌社が全国のレコード店の前月売上を翌月に発表できるほど集計のノウハウを持っていたかどうか?はかなり疑わしいです。

 

 おそらく実際の売上枚数ではなく、速報値のランキングと思われます。

 

 


www.youtube.com

注)ライセンス JVCKENWOOD Victor Entertainment Corp.; Muserk Rights Management、その他 6 件の楽曲著作権管理団体

 

 

 1958年ごろは蓄音機で再生するSP盤と、新しく登場した電気蓄音機で再生するEP盤の過渡期です。

 

 洋楽ではEP盤が目立ちますが、歌謡曲はまだまだSP盤が主流だったと考えられます。

 

 

なぜ「雨」で描いた?

 「有楽町で逢いましょう」は、百貨店のそごうが東京進出する際にプロモーションをした曲として語り継がれています。

 

 有楽町そごうのCMソングと解釈できますが、もし売り込むならネガティブな言葉を使ってはいけないと思います。

 

 雨の日に「買い物に行こう!」という気持ちはなかなか生まれません。

 

 まして特別な日であろう「百貨店に買い物に行く日」、普通に考えれば雨ではなく晴れの日を描くのが一般的ではないか?と思います。

 

 作詩された佐伯孝夫さんのアイデアのようです。

 

 三十二年の暮れから翌年いっぱい、日本中のいたるところ、どこもかしこもすき間なく「有楽町で逢いましょう」で塗りこめられてしまった。じつに見事な流行だった。 この歌の発想のもとは、佐伯孝夫氏の「寝っころがり」だった。(『日本の流行歌<歌でつづる大正・昭和>』上山敬三)

 

 ・・・戦前から流行歌を支えた佐伯孝夫さんがどんな方だったのか気になります(笑)。

 

 映画『有楽町で逢いましょう』の人気とともにレコードもヒットしたようですね。

 

 

なぜ「低音」を魅力にした?

 フランク永井さんの歌唱は魅惑の低音と呼ばれます。これは流行したから自然と生まれた言葉ではなく、所属レコード会社のビクターさんが売り出すために作られたキャッチコピーのようです。

 

 発売時期は不明ですが10インチLP盤『魅惑の低音』が発売されています。

 


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注)ライセンス JVCKENWOOD Victor Entertainment Corp.; Muserk Rights Management、その他 6 件の楽曲著作権管理団体

 

 (のちに登場する同ビクター所属のマヒナスターズさんは『魅惑のコーラス』と表現される事になります)

 

 

 "低音を売りにした理由"は、キングの三橋美智也さんに対抗するためと想像できます。

 

 すでに流行歌手となっていた三橋美智也さんは、民謡の歌唱法で"高音"が印象的です。

 

 主題が「ふるさと」の作品で人気を集めている三橋さんと対照的な存在として、都会を低音で歌うフランク永井さんをライバルにしようとしたと考えられます。

 

 (上記のランキングで三橋美智也さんの「おさらば東京」が人気を集めているのも面白いですね。)

 

 

なぜか都会賛歌ではない

 ・・・再び雨の話に戻ってしまいます。

 

 三橋美智也さんが歌う、故郷を離れて都会で就職した主人公が郷愁や孤独に直面する心理は理解できます。

 

 ではフランク永井さんが歌いあげる都会が華やかさを歌っているか?というと、なぜかそうではありません。

 

 先に発売されていた「東京午前三時」「夜霧の第二国道」(ともに1957年発売)も、なぜか夜の都会を舞台にした未練心が主題です。

 

 「・・・三橋美智也さんが主題にしている心情とかぶっているのでは?」と感じます。

 

 

 都会での生活を謳歌する若者を描いた「銀座カンカン娘」(1949年発売)や「東京キッド」(1950年発売)のような明るさを描かない。

 

 1970年代後半から人気を集め始める"都会のなかの孤独感"に近い心情を描いているようで興味深いです。

 

 

曲情報

 発売元:日本ビクター株式会社

 品番:SP盤 V-41744

    EP盤 VS-57

 

 雑誌「平凡」連載・大映映画「有楽町で逢いましょう」主題歌

 

 A面

  「有楽町で逢いましょう」

  作詩:佐伯孝夫

  作曲:吉田正

  編曲:佐野鋤

  歌:フランク永井

 

  ビクター・オーケストラ

 

  (ニュー・オルソフォニック録音)

 

 

 B面

  「夢みる乙女」

  作詩:佐伯孝夫

  作曲:吉田正

  編曲:小沢直与志

  歌:藤本二三代

 

  ビクター・オーケストラ

 

  (ニュー・オルソフォニック録音)

 

参考資料

 『昭和流行歌総覧(戦後編-1)』オンデマンド版 加藤正義 柘植書房新社

 『ミュージック・マンスリー』月刊ミュジック社

 『日本の流行歌<歌でつづる大正・昭和>』上山敬三 早川書房

 『新版 日本流行歌史(中)1938~1959』社会思想社